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2024年2月下旬以降のXAU/USD市場動向分析
ファンダメンタル分析
米国の主要経済指標の動向
2024年初め以降、米国のインフレ指標は市場予想以上に強含んで推移しています。1月の米消費者物価指数(CPI)と生産者物価指数(PPI)はともに予想を上回る伸びとなり、インフレ鈍化のペースが鈍いことが示唆されました 。特にPPIの上振れは企業のコスト上昇を示し、将来の消費者物価に上昇圧力をかける可能性があります。加えて、1月の米雇用統計(非農業部門雇用者数)も堅調で、労働市場の強さが確認されています 。こうしたインフレ・雇用の強さにより、市場では「早期利下げ」は期待しにくいとの見方が強まりました 。実際、これらの指標発表後、トレーダーは米連邦準備制度理事会(FRB)による利下げ開始時期の予想を先延ばしにしています 。
今後も経済指標が金相場に大きな影響を与えるでしょう。特にインフレ関連指標(例えばPCEデフレーターや次回のCPI)でインフレ鈍化が鮮明になれば、金利先高観が和らぎ金価格の下支え材料となります。一方で雇用統計や小売売上高など景気指標が引き続き堅調なら、FRBの引き締め長期化懸念から金は上値の重い展開が続く可能性があります。
FRBの金融政策と当局者発言
FRBは2024年初時点で政策金利を約5.25~5.5%の高水準に据え置いており、早期の利下げには慎重な姿勢を見せています。1月末のFOMC(連邦公開市場委員会)会合でも利上げは見送られましたが、パウエル議長は「利下げ開始は時期尚早」との趣旨を示唆し、市場に過度な期待を持たせないよう努めました(※会見要旨)。実際、FOMC議事録やFRB高官の発言からは「インフレが十分沈静化するまで高金利を維持すべき」との意見が大勢であり、金融緩和に転じるリスクへの警戒が読み取れます  。例えばアトランタ連銀のボスティック総裁は2月中旬に「利下げ判断にはまだ時間が必要」と述べ、拙速な緩和に否定的な姿勢を示しました 。
市場の利下げ観測もこれを受けて後退しました。年初には「5月利下げ開始」の織り込みが約67%ありましたが 、足元では初回利下げ予想が6月以降に後ずれしています 。CMEフェドウォッチによれば6月利下げを織り込む確率は7割超とされます 。FRBが3月や5月の会合で利下げに踏み切らない見通しが強まったことで、金利高止まり長期化=金利面での金市場への向かい風が意識されやすい状況です 。
ただし、年後半にかけての政策転換期待も残ります。インフレ指標が春以降に明確に減速し始めれば、FRB高官のトーンも緩和寄りに変化する可能性があります。実際、一部エコノミストは「年内(2024年11月頃)に利下げサイクル開始」と予想しており 、それに伴い金価格が新たな上昇局面に入るとの見方もあります 。もっとも、FRBがタカ派姿勢を崩さないリスクも大きく、当局者発言の微妙な変化が金市場のセンチメントを動かす展開が続くでしょう。
ドルインデックス(DXY)の動向と影響
ドルインデックス(DXY)は、2023年後半から2024年初にかけて一進一退の動きです。インフレ鈍化への期待が高まった局面ではドル安が進み、それに伴い金は買われやすくなりました。実際、1月下旬には米10年債利回り低下とともにドル指数が低下し、金価格が2週間ぶり高値まで上昇する場面がありました  。ドル安は他通貨建てで見た金価格を割安にし、金需要を刺激します。
しかし2月に入り状況が変わります。インフレ指標の上振れを受けて米金利が再上昇すると、ドル指数も上昇基調となりました 。2月中旬時点でドル指数は週ベースで上昇に転じており 、これは金にとって短期的な重しとなっています。一般にドルと金価格は逆相関の関係にあるため、ドル高局面では金は上値が抑えられがちです。実際、2月中旬にドル高・米金利高となると金は週間で下落し、2週続落の展開となりました  。
今後のドル相場はFRBの金融政策や相対的な景気動向次第です。もし米国の利上げ打ち止め観測が強まり他国(例えば欧州中央銀行)が相対的にタカ派姿勢を維持すれば、ドル安・ユーロ高が進みやすく金には追い風です。一方、リスクオフでドルが買われる局面(例:地政学リスクの急激な高まりや新興国不安)では、安全通貨としてのドル高が金の逃避需要効果を相殺し、金価格が伸び悩む可能性もあります。
債券市場(米10年債利回り)の動向
米長期金利(10年国債利回り)は、2024年2月時点で再上昇傾向にあります。1月末の時点では10年債利回りが一時4.0%を下回る場面もありましたが、2月に入りインフレ指標の強さを受けて約2週間ぶり高水準まで急反発しました  。Saxo銀行の商品ストラテジストによると、2月中に10年債利回りは35bps上昇し4.28%近辺まで達し、2年債利回りも4.72%に跳ね上がったといいます  。これは市場が予想する年内利下げ回数が減少(6回→3回程度)したことを反映しています 。
金利上昇は金にとって逆風です。利回りの上昇により、無利息資産である金の機会費用(保有コスト)が高まるためです  。実際、2月に金利が再上昇する中で金ETFからは月間44トンの資金流出が起きており、金利上昇による「紙の金(ペーパーゴールド)」需要減退が確認できます 。また、米金利高に伴いドル高も進みやすく、二重の意味で金価格の上値を抑制しました 。
今後1~3か月で注目すべきは、米長期金利がピークアウトするかどうかです。もし今後の経済指標が軟化し、景気減速やインフレ沈静化が鮮明となれば、市場は利下げ織り込みを前倒しするでしょう。その場合、10年債利回りは低下に転じ、金利面での重石が軽減されて金が上昇しやすくなります。一方で、インフレが再加速したり金融当局がタカ派姿勢を強めたりすれば、10年債利回りがさらに上昇し5%に近づくリスクもあります。その場合、金から債券への資金シフトが起こりやすく、金価格の調整局面が深まる可能性があります。
地政学リスクの影響(ウクライナ情勢・中東など)
地政学的リスクは金の重要なファンダメンタル要因であり、安全資産としての需要を左右します。2022年以降続くウクライナ危機は依然解決に至っておらず、2024年も戦況次第で市場心理を揺さぶる要因です。大規模な軍事エスカレーションや予期せぬ拡大(例えば周辺国への波及やエネルギー供給への深刻な支障)が生じれば、投資家はリスク回避から金を買う可能性が高まります。逆に停戦交渉の進展などリスク緩和の兆しが見えれば、安全資産需要が後退し金価格が下押しされることも考えられます。
中東情勢も不透明要因です。特に2023年10月に勃発したイスラエルとハマスの紛争は地域の緊張を高め、一時的に金相場を押し上げました。その後、大規模な中東地域戦争への発展は回避されたものの、依然として中東の緊張は高止まりしています。イランと米国・サウジの関係や、他の紛争(シリアやイエメン)の動向次第では、新たな地政学リスクが顕在化するリスクもあります。Saxo銀行の分析でも、中東情勢への懸念が金の下支え要因になっていると指摘されています 。
その他、米中関係や台湾海峡の緊張、北朝鮮情勢なども潜在的リスクです。2024年は米国や台湾で選挙が予定されており、政治的緊張が高まりやすい年です。政治的・軍事的な不確実性が高まれば**「有事の金買い」**が起こりやすく、金相場を押し上げる要因となります。一方で、これらリスク要因に大きな進展がなく市場の関心が薄れる局面では、金はファンダメンタルズ(経済指標や金利)の影響をより強く受けるでしょう。
金の需給動向(ETF残高、中央銀行の金購入動向 等)
近年の金市場では投資需要と公式セクター需要が顕著です。特に中央銀行による金購入は過去数年非常に活発で、2022年・2023年と年間1,000トン超の純購入が続き史上最高水準を記録しました 。この背景には、米ドル資産からの分散(制裁リスク回避や外貨準備の多様化)や、自国通貨の信用補完を目的とした金準備増強があります。2024年もこのトレンドは続くと見られ、中国やトルコ、中東諸国などを中心に中央銀行の金買いは金相場の下値を支える重要な要因です 。実際、中国中央銀行は2022年末から定期的に金準備の積み増しを公表しており、民間需要だけでなく公的需要が底堅さを提供しています。
一方、投資家需要は金ETF残高の増減に表れます。2020年のパンデミック時に急増した金ETF残高は、その後の金利上昇局面で減少傾向となりました。2023年後半には米利上げサイクルの終盤観測から一部ETFに資金流入がみられましたが、2024年初は再び資金流出超となっています。前述の通り2月にはグローバル金ETF残高が月間▲44トン減少しており、利下げ観測後退局面での機関投資家の利益確定売りが示唆されます 。しかし、これは見方を変えれば潜在的な買い余地とも言えます。多くの投資銀行は、景気後退や金融緩和が現実味を帯びれば、停滞していたETFへの資金流入が復活し金価格を押し上げる可能性があると指摘しています  。
実需面では、価格水準に応じた需給バランスが見られます。インドや中国の宝飾品需要は金価格が上昇し過ぎると減退しますが、価格が調整局面に入ると買いが増える傾向があります。実際、インドでは金価格が一時下落した局面で国内プレミアムが4か月ぶり高水準となり、宝飾業者が婚礼シーズンに向け在庫を積み増す動きが報じられました 。このように新興国の現物需要は金価格の下支え要因として機能します。
総じて、2024年前半の金の需給は「公的需要の堅調さと投資需給の綱引き」といえます。中央銀行の買いが底堅さを提供する一方で、短期的な投資資金の出入りが価格の振れを生む状況です。今後、インフレや金利見通しが変化すればETF経由の投資需要が再び増加に転じる余地があり、そうなれば需給両面から金価格を押し上げる可能性があります。
テクニカル分析
主要サポート&レジスタンス水準
足元のXAU/USD(スポット金ドル建て)は、おおむね**$1,950~2,050のレンジ内で推移しており、いくつかの重要な価格帯が意識されています。上値の主要レジスタンスはまず$2,048付近です。ここは直近の戻り高値圏であり、Saxo銀行によれば金相場は現在$2,048付近にあるチャネル上限を意識して推移しているとのことです 。さらに、その上には$2,065前後に強力な抵抗帯があります。$2,065は今年2月1日に記録した直近高値であり、2020年8月および2022年3月の過去最高値(約$2,070-$2,075)にも近い水準です。テクニカル的にもオールタイム高値圏**であり、このゾーンを明確に上抜けるとチャート上新たな青天井が開け、$2,100やそれ以上への上昇余地が広がるでしょう。
一方、下値の主要サポートはまず**$2,000の大台です。心理的節目であると同時に、2月上旬にこの水準を一時割り込んだ際にはすぐに買い戻しが入り下抜けが失敗(いわゆる「ダマシ」)に終わった水準でもあります 。市場参加者にとって$2,000は重要な攻防ラインとなっており、テクニカル的なピボットポイント**(分岐点)と見られます。この$2,000を明確に割り込むと、その下のテクニカルサポートとして意識されるのが**$1,960-$1,980近辺です。実際、市場では「FRBが当面利下げしないなら金は$1,960台まで下落もありうる」との声も聞かれます  。$1,965付近は直近安値圏であり、ちょうど直近上昇波(昨年10月安値~今年2月高値)の38.2%押し水準**(約$1,967)にも当たります。このためテクニカル上も重要なサポートとなりえます。
さらに下値では、$1,910-$1,920付近が次のサポート候補です。これは直近波動の61.8%押し水準(約$1,907)であるとともに、1月初旬や昨年12月にも下値を支えた価格帯です。あるテクニカル分析では、$1,909を次の支持目標値として指摘しており  、ここを下抜けると**$1,820前後**まで下落余地が広がる可能性が示唆されています 。$1,820近辺は昨年10月に付けた安値水準であり、長期的な上昇トレンドが維持されるか否かの分岐点になるでしょう。
まとめると、現状の主要レンジはサポート$1,960±、レジスタンス$2,050±といえます。このレンジをどちらに明確にブレイクするかで次のトレンドが決定づけられます。上方向には$2,065-70を突破できれば青天井、下方向には$1,900前後まで重要支持帯が点在し、それらを割ると弱気転換が鮮明になると考えられます。
移動平均線(50日・100日・200日)の状況
価格推移の中期的なトレンドを示す移動平均線も確認します。2024年2月時点で、金価格は主要な移動平均線の上方で推移しており、中長期トレンドは強含みと言えます。具体的には、**50日移動平均線(50MA)**は概ね$1,950近辺、**100日移動平均線(100MA)**は$1,900台前半に位置しており、現行価格($2,000前後)はそれらを上回っています(執筆時点推定)。**200日移動平均線(200MA)**も$1,900弱の水準で緩やかな上昇傾向にあり、長期トレンドとして金はまだ上昇基調を維持していることが示唆されます。
注目すべきは、2023年末時点でゴールデンクロス(短期MAが長期MAを上抜く現象)が発生していた可能性が高い点です。50日線が200日線を上回る形となっており、これは典型的な強気シグナルです。実際、一部テクニカル分析では「金価格が200日EMA(指数移動平均)を上抜き、EMA50がそれに収斂しつつある」ことが指摘されており、強気モメンタムが構築されつつあるとされています 。移動平均線の並行関係を見ると、短期>中期>長期の順で並んでおり、典型的なアップトレンドの配置です。
もっとも、移動平均線は動的なサポート・レジスタンスとしても機能します。直近の50日線付近(≒$1,950前後)は上記の価格サポートゾーンとも重なるため、押し目買いの好機と見做されやすいでしょう。仮に50日線を明確に割り込むようだと調整が長引く可能性があり、その場合は100日線(約$1,910-$1,920)での下支えが注目されます。幸い現時点では200日線(≈$1,880-$1,900)は昨年秋の安値圏であり、そこまで下がらずとも反発する余地があります。従って、複数の移動平均線が下方に控える状態は、金相場にとって強固なテクニカル支援材料です。ただし逆に、これら長期線を全て下回る事態となればトレンド転換が示唆されるため、その場合は慎重な見極めが必要です。
オシレーター指標(RSI、MACD)とボリンジャーバンド分析
金相場のモメンタム(勢い)を測るオシレーター系指標にも目を向けます。相対力指数(RSI)では、1月後半から2月初めにかけて金価格が急伸した局面で一時70超の買われ過ぎ領域に達したと推定されます。しかしその後の調整で過熱感が解消し、2月中旬時点のRSI(14日)は50前後の中立水準まで低下しています 。実際ある分析ではRSIが46近辺と報告されており 、これは直近の下押しによってモメンタムが一旦リセットされたことを意味します。RSIが中立圏に戻ったことで、新たなトレンドに移行する余地が生まれており、今後の上昇・下落いずれにも振れやすい状態と言えます。
MACD(マックディー)では、12・26日EMAを利用したシグナルを見ると、2月上旬の下落でMACDラインがシグナルラインを下回り小幅なデッドクロスを示現した可能性があります。その結果、MACDヒストグラムはマイナス圏に沈み、実際2月17日時点ではMACDがゼロライン下で弱含みを示していました 。しかしその後の反発で再びMACDラインがゼロライン近辺まで戻しつつあり、モメンタムは弱含みから拮抗状態へ移行しつつあります。別の分析では、MACDシグナル線がゼロラインより上にあり強気モメンタムを維持しているとの指摘もあり 、時間軸によって評価が分かれる局面です。総合すると、MACDは**「強気一服」から「次の方向模索」**の段階と考えられ、今後のクロス(再度のゴールデンクロス or デッドクロス)に注視が必要です。
ボリンジャーバンドを見ると、週足ベースではバンド幅がかなり収縮してきており、市場ボラティリティが低下傾向にあります 。直近の週足ローソク足はミドルバンド付近で下ヒゲの長い「ハンマー(カブセ線)」に近い形状を示し 、ミドルバンド(20週移動平均線)水準で下値を固めた可能性を示唆します。一方、日足レベルでは2月上旬の急落時にボリンジャーバンドの下限に達した後すぐ反発し、現在はミドルバンド近辺でのもみ合いとなっています(推定)。このバンド収れん状態は近い将来のトレンド発生を予兆するため、今後経済イベントなどを契機にバンドのエクスパンション(拡大)とともに大きく動き出す可能性があります。バンド上限(2月時点で約$2,050超)への接近は上昇トレンド再開のシグナル、逆にバンド下限($1,950割れ)への接近は下落トレンド継続のシグナルとして機能するでしょう。
総じてオシレーター系では、直近の調整で過熱感が取れた中立局面となっています。これは、新規のトレンド(上昇でも下落でも)が発生しやすい準備段階とも言えます。したがって、今後発表される材料や価格の節目突破に伴い、RSIやMACDが再び極端な領域へ振れるようならトレンドが本格化すると考えられます。それまでは、指標的にもレンジ内調整・力溜めの段階とみて良いでしょう。
フィボナッチ・リトレースメントとトレンドライン分析
金価格は昨年秋(2023年10月頃)の安値$\sim$今年初めの高値にかけて大きく上昇したため、この上昇波に対する押し目をフィボナッチ・リトレースメントで分析できます。前述の通り、2023年10月安値(約$1,810)から2024年2月初の高値($2,065)までの上昇幅約$255に対し、代表的な押し目水準は38.2%押し=約$1,967、50%押し=約$1,938、61.8%押し=約$1,907となります。このうち**38.2%押し($1,960台後半)**は既に2月上旬の下落局面で試す動きがあり、幸い買い支えられています(現在はその上方で推移)。**50%押し($1,930台)はまだ試されていませんが、中期的な調整が深まる場合には意識される水準です。また61.8%押し($1,900前後)は前述の主要サポートゾーンと重なり、テクニカル的にも「押し目最終防衛線」**と言える重要水準です。従って、現状のモメンタムが維持される限り$1,960-1,970(38.2%押し)で反発するシナリオがメインですが、万一この水準を明確に割り込むと$1,900付近(61.8%押し)まで下値余地が広がる点には注意が必要です。
短期的な値動きにフィボナッチを当てると、2月初旬の高値$2,065から2月中旬の安値$1,960付近まで下落した局面があり、これに対する戻りもほぼ50%戻し(約$2,010前後)を達成しています。2月中旬~下旬にかけての反発で$2,035近辺まで戻す場面がありましたが、これはちょうど直前下落の61.8%戻しに相当し、かつ2月13日前後の戻り高値水準であることから抵抗となりました 。このようにフィボナッチ節目と過去のローソク足パターンが重なる水準で上値を抑えられており、現状では短期的な戻り一巡感も出ています 。今後、$2,035(直近高値・戻り高値)や$2,065(年初来高値)を上抜けばフィボナッチ的には下落トレンドが完全に打ち消され、再度上昇波動入りと判断できます。一方、$1,997-$2,000付近(50%戻し水準近辺)のサポートを割り込むと戻り高値失敗となり、再度$1,960台への下落余地が生じるでしょう  。
トレンドライン分析では、昨年秋からの上昇トレンドを示すサポートラインと、直近の調整局面で形成された下降トレンドラインの両方が参考になります。まず上昇サポートラインは、2023年10月安値と2024年1月安値(推定$1,820→$1,910)を結んだ上昇トレンドラインで、現在は約$1,950前後に位置すると考えられます。ちょうど50日移動平均線に近く、2月上旬の安値もこの延長線付近で止まっているため、上昇チャネルの下限として機能している可能性があります。逆に、直近高値$2,065から2月中旬までの下降局面では、短期的な下降トレンドラインが引かれます。しかしこの下降トレンドラインは既に上方ブレイクされました 。2月中旬以降の反発で下落トレンドラインを超えており、テクニカル的には短期下降トレンドが終息したシグナルと見ることができます 。今はむしろブレイク後の押し目形成局面にあり、前述の$1,997-$2,000付近への一時的な押しが再度サポートとして機能できるかが試される状況です 。この押し目が確認されれば、次は上昇トレンド再開に向けて$2,050超へのトライが視野に入りそうです。
総合すると、フィボナッチとトレンドラインの分析からは「$2,000前後で踏みとどまれば再上昇、崩れれば一段安」というシナリオが浮かびます。支持線と抵抗線が収束しつつある点にも留意が必要です。価格が収れんポイントに近づくにつれエネルギーが蓄積され、いずれブレイク方向に大きく振れる可能性があります。従って、サポートライン割れやレジスタンスライン突破といったチャート上の節目を見逃さず、順張りで追随できる態勢を取ることが重要になるでしょう。
出来高の推移と市場流動性分析
直近の出来高(ボリューム)動向は、経済イベント時に増加し平時には減少するというメリハリのある状況です。2月上旬の米雇用統計発表前後や、中旬のCPI発表直後には、金先物市場・スポット市場ともに出来高が急増しました。これは指標結果を受けたアルゴリズム取引や投機筋の売買が活発化したためで、特に2月14日の米CPI上振れ時には短時間でまとまった売りが出て金価格が$20近く急落し、その後すぐ買い戻されるといった高頻度の売買が観測されています(マーケット観測ベース)。その後は価格が$2,000近辺で小康状態となる中、出来高もやや落ち着きを取り戻しています。ただし完全に低下したわけではなく、ボラティリティ上昇局面で常に出来高が膨らむ状況で、市場参加者が引き続き厚く存在していることを示唆します。
市場の流動性は総じて良好です。金はグローバルに取引される主要資産クラスであり、現在もビッド・アスクスプレッド(売買気配の差)は極めてタイトです。特にロンドンLBMA市場やNY金先物(COMEX)では取引高が潤沢で、多少の大口注文にも市場が耐えうる深みがあります。最近の例では、2月に入ってからの価格急変動時にも流動性が極端に細った様子はなく、マーケットメーカーが適切に機能していました。そのため、大口の換金売りや買い需要が出ても市場がパニック的に偏るリスクは低いと考えられます。
一方で、投資家のポジション動向を見ると短期筋の売買で出来高が作られている面があります。例えば先述のCOTレポートでは、2月初旬の下落局面でファンド勢がショートポジションを積み増し、価格が反発するとそのショートを買い戻す(ショートカバー)動きが示されています 。この繰り返しの売買が狭いレンジ内で続いており 、出来高は出ているもののトレンドを伴わない「往来相場」の様相を呈しています。ゆえに、真のブレイクアウトには出来高のエクスパンション(増加)を伴ったレンジ離脱が必要でしょう。上抜け・下抜けいずれの場合も、出来高増加を伴うかが信頼度を測るカギとなります。
最後に、市場センター間の流動性にも触れます。現在、アジア(上海黄金取引所など)、欧州(ロンドン)、米国(NY)の各市場で金の裁定取引が盛んであり、一部市場に偏った動きはすぐ他市場参加者によって均衡化される傾向があります。従って、特定の時間帯に流動性が著しく低下する懸念も小さく、24時間を通じて比較的滑らかな価格形成が続いています。総じて現在の金市場は流動性リスクが低く、参加者も多い健全なマーケットと言えます。これは投資家にとって、市場の透明性が高くフェアバリューで取引できる環境が整っていることを意味します。ただし、週末や祝日など主要市場がクローズする時間帯には急変動リスクもゼロではないため、そうした時期のヘッドラインニュース(地政学イベントなど)には注意が必要でしょう。
市場センチメント分析
投資家心理指標(VIX指数、Fear & Greed Index)
現在の市場センチメント(投資家心理)は、総じて「慎重な楽観」といった状態にあります。株式市場のボラティリティ指標であるVIX指数は、2024年初めから低水準で推移しており、一時は過去52週で最も低い水準(14未満)にまで低下しました 。VIXがこれほど低いことは、市場参加者の恐怖心やヘッジ需要が小さい=マーケットが安定していることを示します。同様に、CNNが算出するFear & Greed Index(恐怖と強欲指数)は年初に「Greed(強気)」ゾーンに達する場面がありましたが、その後は中立圏に回帰しました 。2月中旬時点でも同指数は中立付近で推移しており、極端なリスクオンでもリスクオフでもない状態です。
このような低ボラティリティ・中立心理の環境では、金のような安全資産への資金シフトは限定的になりがちです。投資家がリスクをあまり恐れていない局面では、金よりも株式や他のリスク資産に資金が向かいやすく、金価格の上昇余地は抑制される傾向があります。実際、足元で米株式市場は比較的堅調に推移し、AI関連株ブームなどもあって資金が株式に向かっているとの指摘があります  。金市場においても、この**「安心感による資金シフト」**が価格の重しとなっている側面があります。
しかし、センチメントは変化しうる点に注意が必要です。万一どこかでショック的な出来事(例えば金融システム不安や地政学イベント)が起これば、VIXは急上昇しFear & Greedは一気に「Fear(恐怖)」側に傾くでしょう。その際には金が急騰する可能性があります。現在の低VIXはある意味では市場の油断を示しており、「ボラティリティの低さは次の高ボラティリティの前触れ」とも言われます。したがって、投資家心理が大きく崩れた場合に備え、金はヘッジ資産としてポートフォリオに組み入れておく意義があるとの指摘も専門家から出ています  。
まとめると、現状の投資家心理は金にとって中立〜ややマイナス要因ですが、それは裏を返せば将来的なセンチメント悪化時に金が見直される余地が大きいとも言えます。株式市場の動向やニュースヘッドラインに注意しつつ、センチメント指標(VIXやFear & Greed)が急変した際の金価格の反応を注視することが重要です。
COTレポートから見る市場ポジション
米商品先物取引委員会(CFTC)の建玉明細報告書(COTレポート)によれば、ヘッジファンドなどの投機筋ポジションは2024年2月時点で金先物に対しネットロング超(買い越し)となっています。最新データ(2月20日時点)では、投機筋のCOMEX金先物ネットロングは約64,000枚に達し、直前週から18,000枚ほど増加しました 。この増加の大部分はショートポジションの大幅な買い戻し(17,000枚のショート減少)によるもので、価格下落局面で売りポジションを増やした向きが反発局面で慌てて買い戻したことを示唆しています 。実際、年初からの投機筋は「下げ局面で売り乗せ、上げ局面で買い戻し」を繰り返す短期志向の売買行動を取っており、市場は狭いレンジ内でこの攻防が続いていると指摘されています 。
この投機筋のポジション水準64,000枚の買い越しは、歴史的な極端値と比べれば中程度の強気といったところです。例えば金価格が過去最高値を付けた2020年や、インフレ懸念が高まった2022年にはネットロングが100,000枚を超える水準に達したこともありました。それと比較すると現在はさほどポジションが過熱していないため、ここから更にロング積み増し余地も残されています。一方で、投機筋ポジションは流動的で環境変化に敏感です。もし今後、米金融政策見通しが再びタカ派に傾いたり金価格がテクニカルサポートを割り込んだりすれば、投機筋が一転してロングを解消し売り越しに転じる可能性もあります。
また**商業筋(プロデューサーや製造業者等)**は概ねその逆サイドのポジション(ネットショート)を取っています。これは金関連企業が将来生産する金のヘッジ売りを行っていることを意味し、価格上昇局面では売りヘッジを増やし、下落局面で買い戻す傾向があります。商業筋のこうした動きも金価格の振幅を和らげる効果がありますが、投機筋が一方向に大きく傾いた際には逆に価格急変動を助長する可能性もあります。
要するに、現状のCOTレポートは「投機筋がそれなりに強気姿勢だが、まだ極端ではない」という状況を示しています。今後の価格動向次第で彼らのポジションも増減し、市場に影響を及ぼすでしょう。特にネットロングの積み増しが進み10万枚規模に達するようなら注意が必要です。過去の経験則では投機筋の極端な買い越しは相場天井のシグナルとなりやすく、反対売買による価格調整リスクが高まるためです。反対に、大きく売り越しになった場合は相場底打ちのシグナルとなり得ます。したがって、COTによるポジション動向は今後もセンチメント確認の重要指標と言えるでしょう。
金に関する最近のニュース・アナリスト見通し
金融メディアやアナリストたちの市場見通しも確認しておきます。総じて、2024年の金市場に対して強気な声が多いものの、一部には慎重論もあります。
まず強気見通しとして、2024年中の金価格は史上最高値を更新するとの予想が複数出ています。ロイターが1月末に実施した市場調査によれば、多くの市場参加者が「経済の不確実性と利下げ開始見通しにより、金価格は2024年に過去最高値をつける可能性がある」と回答しています 。実際、別の調査(LBMAの2024年アナリスト予測)でも年間平均価格を$2,000超(例:平均$2,166)と予想し、高値予想を$2,300前後に設定する向きがありました 。Metals Daily社のロス・ノーマン氏は「2024年はFRB利下げによるドル安が金を押し上げる年になる」と述べ、年末にかけて金価格が14%上昇し$2,300近辺に達すると予測しています  。彼は政治イベントによる不確実性(米大統領選やその他各国選挙)も金にとってプラス材料と指摘し、2024年を「強気寄りのゴールドロックシナリオ(適温相場)」と表現しています  。
こうした強気予想の根拠としては、FRBの金融緩和転換(利下げ)期待、世界的な景気減速による安全資産需要、そして中央銀行の旺盛な金購入が挙げられます  。特に利下げ局面では伝統的に金利低下→ドル安→金利負担減という好循環から金が買われやすいことが歴史的に確認されています 。さらに近年の中央銀行需要の増大により、金価格は下押し圧力に対し強い耐性を持っているとの分析もあります  。
一方、慎重な見方や下振れリスクにも言及する必要があります。最大のリスク要因はインフレの粘着性です。仮にインフレが思ったように低下せずFRBの利下げが大幅に遅れた場合、期待外れとなった金市場では失望売りが出る可能性があります。ロス・ノーマン氏も「インフレが予想以上に粘着的で利下げが先送りされれば、金の暴騰は抑制されるだろう」と述べており 、利下げ見通しに依存した強気相場には注意が必要と示唆しています。また、一部のアナリストは米経済の軟着陸シナリオにも言及しています。もし米景気が大きく減速せず株式市場が引き続き好調を保つなら、投資マネーは金よりも株式に向かいやすく、金価格は横ばい圏か下押し圧力が勝る展開もあり得ます  。
さらに注目なのは、代替資産との競合です。例えば仮想通貨やデジタル資産の動向も金に影響を与えます。2023年末に話題となったビットコインETFの承認(米国)などは、一部資金を仮想通貨市場へ誘導し、金市場から「酸素を奪う」可能性があるとも指摘されています 。もっともこれは長期的な構造変化であり、短中期の主要テーマは依然として**「インフレと金利と景気」**であることに変わりはありません。
最後に市場機関の価格予想を総括すると、短期的な調整局面があっても、年後半にかけて金は上昇基調を取り戻すとの声が大勢です。実際、JPモルガンも「2024年末に向け金は$2,500に達する可能性」を指摘しており 、他の投資銀行も$2,100超の予想を示すなど強気予測が目立ちます(ただしこれらには金融緩和転換が前提条件となっている点に留意)。市場ニュースでは「2024年は金にとって追い風」との見出しが躍る一方で、逆風シナリオとして「FRBが高金利を長期維持すれば金は失速し得る」とのコメントも添えられており、不確実性の高い局面であることもうかがえます。
総じて、ニュースや専門家見解は「中長期では強気、短期的なボラティリティやリスク要因にも注意」とのスタンスが多い印象です。投資戦略としては、このような多面的な見通しを踏まえ、上昇トレンドを逃さない一方で短期的な逆風にも耐えうるポジション管理が重要といえるでしょう。
今後の価格予測シナリオ
短期(1週間~1ヶ月)の価格動向シナリオ
直近1週間から1ヶ月程度の短期見通しとしては、金価格は**$1,950~2,050前後のレンジ内での攻防**が続く可能性が高いと考えられます。足元ではファンダメンタルズ材料(インフレ指標上振れによる利下げ後退)がやや金にとってマイナスに働き、$2,000台前半で上値の重い推移となっています。しかし一方で、下値では中央銀行の買いや実需が支えており、$1,900台後半では顕著な押し目買いが入っています  。このため、短期的にはレンジ相場的な動きがメインシナリオです。
ベースシナリオ(横ばい~小幅高): 今後数週間で大きなショックがなければ、金は$2,000前後でのもみ合いを継続するでしょう。3月にかけて発表される経済指標(特に次回の米CPIや雇用統計)が市場予想の範囲内であれば、利下げ観測も急変しないため、金もレンジ内で推移しそうです。テクニカルには$1,997-$2,000付近のサポートが意識され 、この水準で下げ止まる限り買い安心感が広がります。逆に上値は$2,035-$2,050の抵抗帯が依然厚く、ここを一気に抜くには材料不足かもしれません。従って短期ベースケースでは、$1,980-$2,030あたりでの**「狭いボックス圏」**推移をイメージします。
上振れシナリオ(短期急騰): しかし短期的にも上方向へのブレイクの可能性は否定できません。例えば予想より弱い経済指標が出た場合です。直近ではフィラデルフィア連銀指数や住宅指標に弱さが見られ 、これが今後の全国指数やPMIなどに波及すれば「景気減速→利下げ前倒し観測」となり金を押し上げるでしょう。また地政学イベントの突発(ウクライナや中東情勢の悪化など)や、株式市場の急落に伴う安全資産需要も考えられます。このような場合には金は素早く$2,050を突破し、直近高値$2,065を試す展開が予想されます。特に$2,065を超えた場合、ストップ買い注文の誘発で短期的に$2,100近辺まで急騰するシナリオもあり得ます。このシナリオの実現確率は中立シナリオより低いものの、潜在的な上昇リスクとして頭に入れておくべきでしょう。
下振れシナリオ(短期急落): 逆に短期で下方向にブレイクする場合のシナリオは、やはり想定を上回るタカ派材料が出た時です。例えばインフレ指標の再加速(次回CPIで前年比が予想を大きく超える等)や、FRB要人からのサプライズ発言(「必要なら追加利上げも排除せず」等)があれば、市場は再び利上げリスクや長期高金利を織り込みに動くでしょう。その場合、ドル高・金利高から金は$1,960のサポートを割り込み、一時的に**$1,900-$1,920台まで急落する可能性があります。テクニカル的にも$1,960割れは重要な分岐であり、売りが売りを呼ぶ展開に注意です。ただ、仮に急落しても下値では強力な買い支えが期待できます。$1,900前後には前述のとおり厚い支持帯が控え、また価格調整を待っていた実需筋や中央銀行が買いに動く可能性が高いため、短期急落が起きても暴落的な下落は限定的**でしょう。
総じて短期では、大勢はレンジ横ばい、しかしイベント次第で上下どちらかに放れる可能性も孕む状況です。期間が1ヶ月程度と短いため、ファンダメンタルズでは月末~月初の経済指標ラッシュ、3月中旬のFOMC会合などが重要イベントとなります。これらを通過する毎に、市場の利下げ時期見通しが微調整され、それに応じて金価格も上下に振れつつも、概ね$1,900台後半~$2,000台前半での推移を予想します。
中期(1ヶ月~3ヶ月)の価格シナリオ分析
1~3ヶ月程度の中期見通しでは、春先(2024年3月~5月)にかけて金価格が方向感を定めて動き出す可能性が高まると考えられます。中期シナリオを考える上で重要なのは、FRBの金融政策見通しの明確化と景気動向の変化です。これらによりドル・金利動向や市場心理が変化し、金相場も現在のレンジを離脱してトレンドが発生しやすくなります。
強気シナリオ(中期上昇トレンド): もし今後数ヶ月でインフレ率が着実に低下し、かつ米経済指標にピークアウト感(成長の減速)が見られれば、FRBは年央~初秋にかけて利下げ開始との観測が強まるでしょう。この場合、米10年債利回りは春に向けて4%を下回る方向に低下し、ドル指数も下落基調となる可能性が高いです。そうなれば金市場には大きな追い風です 。具体的には、4月~6月にかけて金価格が再び$2,000台後半を試し、史上最高値($2,070前後)を突破して新高値更新という展開も視野に入ります。多くのアナリストが予想するように$2,100-$2,200のレンジに乗せてくる可能性も十分あります  。中期の強気シナリオでは、途中多少の調整を挟みつつも高値切り上げの上昇トレンドが続き、5月末~6月頃に$2,200近辺に達することもあり得ます。この際、前提として株式市場が安定 or 下落基調であること(=安全資産需要が高まる)、地政学リスクが高止まりしていることも金を押し上げる要素として寄与するでしょう。また、中央銀行の買いも引き続き旺盛で市場から供給が吸収されやすい環境が続くため、上昇トレンドに弾みがつきやすくなります。
ベースシナリオ(ゆるやかな上昇または現状維持): 最も現実的と考えられるのは、金は中期的に緩やかな上昇基調に転じるものの、大きなブレイクアウトは夏頃まで持ち越しというシナリオです。例えばインフレ率は下がるがまだFRBが動く決定打には欠ける、といった状況です。FRBは3月・5月会合で政策金利を据え置きつつ慎重姿勢を崩さず、市場も「利下げはやはり早くて6月か9月」との観測で安定するパターンです。この場合、金利高止まりリスクは後退する一方、すぐに大幅緩和という状況でもないため、金価格はじりじりと高値を試す展開が見込まれます。おそらく$2,050-2,100のレンジを段階的に試し、4月~5月あたりに年初来高値を更新して$2,100台に乗せる可能性があります。ただ、その上($2,150超など)に一気に駆け上がるには材料不足で、上昇にも時間を要するでしょう。むしろレンジを切り上げて定着し、次の(年後半の)大相場に備えるような形です。この間、仮に調整があっても$1,900台前半までで下げ渋り、押し目買いを拾われて再浮上する力強さを見せると予想します。つまり、中期緩やか上昇シナリオでは「徐々に安値を切り上げ、高値を更新。しかし大相場突入はもう少し先」といった展開です。
弱気シナリオ(中期下落トレンド): 一方、中期的に下振れリスクのあるシナリオも考えておく必要があります。それは**「インフレの再燃と金融引締め長期化」という状況です。例えば春先にエネルギー価格や賃金上昇が再加速し、CPIコアが思ったように下がらないケースです。この場合、市場は利下げどころか「FRBによる追加利上げ」さえ警戒し始めるでしょう。また米経済が依然堅調であることが確認されれば、FRBは躊躇なく高金利を年末まで維持する可能性があります。このシナリオ下では、米金利は高止まりあるいはさらに上昇圧力を受け、ドルも底堅く推移しやすくなります。その結果、金価格は春から初夏にかけて上値を切り下げる下降トレンドに入る恐れがあります。具体的には、まず$1,900の攻防が焦点となり、これを割れるとテクニカル的な損切り売りが誘発されて$1,800台半ば~前半($1,800-$1,850)まで下落する可能性があります 。特に$1,820付近は昨年安値圏であり、多くの投資家のコストでもあるため、この水準までは十分下押し余地があるでしょう。一部弱気の市場参加者は「2024年後半には$1,800割れの展開もありうる」と見ており(Fedが全く緩和せず、かつ他要因で安全資産需要も高まらない場合)、中期弱気シナリオでは金は長期トレンドラインを下抜ける可能性**すら念頭に置く必要があります。
もっとも、中期下落シナリオにはいくつかのブレーキ要因があります。まず中央銀行の買い意欲は価格下落局面で一段と高まると予想され、$1,800台では途上国中心に大量の買いが入りやすいでしょう。また鉱山会社のヘッジ売りも、価格下落時には手仕舞い(買戻し)に回る傾向があり、下げ相場では需給が引き締まる逆説的現象が起きやすいです。さらに$1,800近辺は多くの新規金プロジェクトの採算ラインともされ、これを大きく割り込むようだと供給減少(生産調整)圧力が高まり、結果的に下値を支えると考えられます。つまり、弱気シナリオでも**$1,800前後には強固な下値支持**が存在し、中期的な大崩れは回避される可能性が高いです。
以上、中期の3シナリオを整理すると、
• 強気: 金融環境緩和で春~初夏に史上高値更新、$2,100-$2,200台へ。
• ベース: 緩やか上昇or横ばい、$2,100手前までじわじわ上昇し基調は強含み。
• 弱気: 金利高止まりで$1,800台まで下落も、$1,800付近で下げ止まり反転の可能性。
いずれのシナリオになるかは、主に米インフレとFRB政策の帰趨にかかっています。現時点ではベースシナリオ寄りに構えつつ、強気・弱気両極端の可能性にも備えるのが賢明でしょう。
上昇シナリオ別の要因とリスク評価
上昇(強気)シナリオが進行する場合、その背後にはいくつかの主要因が考えられます。それらを整理するとともに、シナリオ継続のリスク要因を評価します。
上昇シナリオの主因:
• 金融緩和への転換: 最大の追い風はFRBをはじめとする中央銀行の政策転換です。市場が明確に「利下げ局面入り」を織り込めば、実際の利下げ開始前から金は上昇トレンドに乗るでしょう 。特に米利下げ開始が近づけば近づくほど、低金利・ドル安期待で金には強い買いが入りやすくなります  。加えて他国でも緩和が相次ぐようなら、世界的な流動性拡大により金の上昇圧力は倍加します。
• インフレの持続(適度な): 皮肉に思えるかもしれませんが、ある程度のインフレ持続も金にプラスです。インフレ率が高止まりすれば実質金利が抑制され、金の価値保存手段としての魅力が増します。また投資家は将来のインフレヘッジとして金を組み入れるため、需要が高まります 。適度なインフレと緩やかな利下げの組み合わせは、名目金利を急落させずに実質金利だけ低下させるため、金に最も好都合な環境といえます。
• 景気後退リスクの顕在化: 米国や世界経済が明確な景気後退に陥る場合、株式やリスク資産から資金が逃避し、安全資産である金への資金移動が起こるでしょう。特に**金融市場の不安(信用不安など)**が起きれば「有事の金買い」が発動し、大量の避難資金が金ETFや先物に流入する可能性があります。過去を見ても、景気後退期には金価格が上昇する傾向が強く、リセッション入りは金強気派には追い風です。
• 地政学リスクの高まり: 既述の通り、地政学的な緊張や紛争の拡大は金の安全資産需要を引き出します。ウクライナ戦争の新展開や米中対立の激化、中東での有事など、地政学ショックが起これば短期的に金は急騰し、そのまま上昇トレンドが維持される可能性があります。
• 中央銀行の爆買い継続: 中央銀行による金購入が想定以上のペースで続けば、市場からの需給逼迫感が強まり価格を押し上げます。例えば中国が毎月大量に買い増す、BRICS諸国が準備通貨多様化で金比率を一段と引き上げる、などの動きは構造的な需要増として相場を支えるでしょう 。実際、公式セクターの購入が1000トンを超える状況が今後も続けば、市場への供給不足感から投機的な買いも誘発され得ます。
• 投資マネーの回帰: 株高・仮想通貨高で金から離れていた投資マネーが、リスク回避などで金市場に回帰することも上昇シナリオの重要因です。具体的には、金ETFへの資金流入再開や、先物市場での大口ロング構築などが起きれば上昇に弾みがつきます 。特に、これまで出遅れていたファンド勢がこぞって金買いに転じると、価格は加速度的に上昇するでしょう。
上昇シナリオ継続のリスク評価:
上昇トレンドが進行している場合でも、いくつか警戒すべきリスクがあります。それは端的に言えば「上昇を阻止しうる材料」です。
• インフレの再加速: 上昇シナリオの前提である「インフレ沈静化・利下げ見通し」に反して、インフレが再燃すればFRBは再びタカ派に戻ります。この場合、金利見通しが変わり金の上昇が頭打ちになるリスクがあります 。強気相場の中で発表されたインフレ指標が予想外に高かった場合、一時的に急落するなど相場の変曲点となり得るため注意が必要です。
• 金融政策のサプライズ: FRBが市場予想以上に慎重な姿勢を示したり、あるいは主要中銀の誰かが予想に反して利上げや緩和縮小を行ったりすると、金の強気シナリオに水を差します。特に上昇トレンドでマーケットが楽観に傾いている時ほど、金融政策イベントでのサプライズには敏感になるため、FOMCやECB会合などでは慎重姿勢が必要です。
• ポジションの過熱: 上昇トレンドが進むと投機筋の買いポジションが急増し、いずれ行き過ぎが出てきます。COTレポートなどでネットロングが極端に増加した場合、相場が買われ過ぎの状態となり調整リスクが高まります。強気相場のクライマックスでは出来高急増・価格急騰といった過熱シグナルが出やすいため、過熱感が出たら一旦利食いも検討すべきでしょう。
• 他資産からの競合: 仮に仮想通貨や株式などが同時に強烈な上昇相場となった場合、金への資金流入が相対的に制限される可能性があります。例えば「ビットコインがデジタルゴールドとして再評価される」などの動きがあれば、金から一部資金が移転し上昇を抑制するリスクがあります 。また株高が続く局面では分散投資メリットから金も上がることはありますが、極端な強気相場では金が置いてけぼりになるケースもあり得ます。
以上を踏まえ、上昇シナリオでは良好な追い風に乗りつつも、それが変質する兆し(インフレ逆噴射や金融政策の軌道修正)に常に目配りすることが重要です。リスク管理としては、過度なレバレッジを避けつつ、テクニカルなストップロス水準(例えば主要サポート割れ)を決めておくことが推奨されます。さもなくば、上昇に浮かれているうちに不意の調整で利益を吐き出すリスクがあるためです。
下落シナリオ別の要因とリスク評価
次に下落(弱気)シナリオの場合の要因と、それがさらに深刻化するリスクや反転の芽を評価します。
下落シナリオの主因:
• 金融引締め長期化: 最大の下落要因はFRBの高金利政策が想定より長引くことです。市場が「年内利下げなし、むしろ高金利維持」と判断すれば、実質金利上昇とドル高を通じて金に強い下押し圧力がかかります  。これは現在の弱気派シナリオの中核で、仮に2024年を通じて利下げゼロとなれば、金は上値の重い展開が続きやすくなります。
• 経済の高調子維持: 米経済が予想以上に堅調(失業率低位、GDP高成長)を維持する場合、リスクオン環境が続き資金はリスク資産へ向かいます。その結果、安全資産である金は敬遠され、需給が緩みます。特に米株式市場が連日高値更新するような状況では、金から株へ資金シフトが起こりやすく金価格は伸び悩むでしょう。
• インフレの鈍化と定着: 一見するとインフレ鈍化は金に好材料ですが、行き過ぎたデフレ傾向や過度なインフレ低下は金需要を削ぐ可能性があります。インフレが完全に落ち着き、投資家が将来のインフレを懸念しなくなると、インフレヘッジ資産としての金の魅力は薄れます 。またインフレ低下に伴い原油など商品価格全般が下落すれば、商品投資マネーの減少で金も一緒に売られる恐れがあります。
• ドル独歩高: 仮に米国だけが好景気・高金利で他の主要国が低迷した場合、外国為替市場でドル独歩高が進む可能性があります。ドル指数(DXY)が大きく上昇すれば、ドル建て金価格には強烈な逆風です。例えばドル指数が110や115に向け急伸するような局面では、金は為替要因だけで$50-$100程度押し下げられる可能性があります。
• 投機筋の売り崩し: 金市場で大口の投機筋が弱気に傾き、まとまったショートポジションを構築する場合、先物主体で価格が下方向に牽引されるリスクがあります。特にマクロ系ファンドがインフレ沈静化と金利高止まりを見込んで戦略的に金売りを行うと、需給にかかわらず価格が下落圧力を受けます。COTレポートでネットショート転換したり、ETF残高が急減するようなら、この動きが進行中とみるべきでしょう。
• テクニカルブレイクダウン: 価格が重要サポートを割り込むと、ストップロス注文が次々執行される「テクニカル的な売り」が出ます。例えば$1,900割れや昨年安値$1,800割れは、多数の売り注文を巻き込み得る水準です。そうしたチャートブレイクが起きると、下落に拍車がかかり、ファンダメンタルズ以上に下げ過ぎる場面が現れる可能性があります。
下落シナリオ継続/加速のリスク評価:
弱気相場が進行している場合でも、下げ止まりや反転の兆しを探ることが大切です。また、下落シナリオがさらに深刻化するリスクも考慮します。
• 下げ止まり要因: 弱気局面における最大の下げ止まり要因は物理的需要と公的需要です。価格下落により安値感が出てくると、インドや中国の宝飾品需要が回復し、各国中央銀行も割安な水準で買い増しを行うでしょう 。これは金市場特有の安値での需要増のメカニズムで、他の金融商品と比べ下値硬直性が高い理由です。また、鉱山会社のヘッジ買い戻し(生産コストを下回る価格ではヘッジを外す)も下支えとなり得ます。従って、下落シナリオにおいても$1,800前後では多層的な買い圧力が期待でき、下げ止まりの可能性が高くなります。
• 反転の契機: 弱気相場が続いても、いずれ何らかのトリガーで反転し得ます。その筆頭はFRBの政策スタンス変化です。例えば、下落シナリオが進んでいる中で米景気が悪化し始めれば、FRBは遅れてでも利下げに転じます。市場はそれを即座に織り込み、金はそこから反発トレンドに移行するでしょう。また、下落局面での地政学ショックもトレンド転換の引き金となり得ます。つまり、弱気相場で悲観論が広がっている時ほど、ポジティブサプライズ(緩和や有事)が出た際の反転上昇幅は大きいと考えられます。
• 更なる下落リスク: 下落シナリオが想定以上に深刻化するリスクも一応認識しておくべきです。それは例えば、主要国でインフレが完全に消滅しデフレ懸念が出るようなケースです。この場合、金はインフレヘッジ需要を失い、逆に現金価値の上昇(デフレ)により敬遠されるかもしれません。また各国中央銀行が方針転換し金準備を取り崩すような事態(極端な例ではロシアが戦費のために金売却を余儀なくされる等)も、需給を悪化させ価格下落を加速するリスクです。もっとも現状ではその可能性は低く、シナリオとしては杞憂に属するでしょう。
• 他資産の崩壊: 金下落局面では、多くの場合リスクオン状態(株高)が背景にあります。しかし万一株式も下落に転じているのに金も下がるという事態は、流動性の収縮や信用収縮が起きている可能性があります。いわゆる「すべて売られる」パニック相場です(例えば2020年3月のような)。この場合、一時的に金も含め現金以外の資産が投げ売りされるリスクがあります。ただ、こうした局面は長続きせず、通常は当局の介入や投資家心理の正常化により金が見直される展開に繋がります。
まとめると、下落シナリオでは下値目処と反転のタイミングを冷静に見極めることが重要です。リスク管理としては、弱気相場で安易に逆張りしすぎない一方、ファンダメンタルズが好転した兆候やテクニカルなダイバージェンス(下落幅に対しRSIなどの下げ渋り)を捉えて機動的にポジションを転換することが求められます。幸い金市場には「最後は中央銀行が買ってくれる」という安心感があるため、極端な暴落は起こりにくい構造です。この点は他のリスク資産より恵まれていると言え、投資家にとっても弱気局面は長期的な仕込み好機として活用できるでしょう。
以上のように、XAU/USD(金/ドル)の2024年2月18日以降の市場動向をファンダメンタル・テクニカル・センチメントの各側面から分析しました。現時点では強弱材料が交錯し、$2,000を挟んだ攻防が続いていますが、今後数ヶ月で金融政策や景気の方向感が明確化するにつれて、金価格もレンジを離れ次のトレンドへ移行すると考えられます。短期的な変動要因(インフレ指標やFRB要人発言、地政学ニュースなど)に注意を払いながら、中長期的な視点では金の価値を支える根源要因(通貨価値の希薄化リスクや安全資産需要)に立ち返ることが重要です。総合的には、下値では確かな支えがあり上昇余地は十分と評価できるため、大きな調整があれば戦略的な買い増しを検討しつつ、上昇局面ではポジションを適宜見直すという柔軟な対応が求められるでしょう。将来シナリオとしては、年内に史上最高値を更新する可能性も十分視野に入りつつ、一方で短期的な逆風にも備えるバランスの取れた戦略で臨みたいところです。今後の経済指標や金融政策イベントの結果次第で、ここで述べたシナリオのどれに舵を切るかが徐々に見えてくるでしょう。それまでは、引き続き市場のセンチメント変化と需給動向を注視し、柔軟なリスク管理に努めることが肝要です。