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36話 空中分解
レインコートくんがおもむろに口を開いた。
『10代20代の若い頃ってさ、人と一緒になにか好きなことをやるってさ。。。
バンドとか、まあぶつかるんだ。音楽のことでぶつかってるはずなのに、何でぶつかってるのかわかんなくなる。段々楽しかったことが楽しくなくなっていくんだ。
曲作ってるのおれなのに、手柄横取りすんなよ。とかさ、おれの方がセンスあるから上、とかさ。本質からどんどんずれていくんだ』
『うんうん10代20代の頃の話ね』
『うーん。いつも始まる前の話なんだよね。下らないことに時間取られて始まれない。
なんなんだって空中分解。
で、一人になって部屋の布団の上に座り込むんだ。
そのおれは高校生の時のおれなんだ。
で、ダムド、ニルヴァーナ、ピクシーズかけて、ホッとするんだ。激しいのひととおり聴いたら、
ポップなのとか暗いのとか聴いていくんだ。
で、聴きながらCDの棚見て、うんうん、ほうほうってなって。
ギター手に持って、適当にフレーズ弾いて、なんか出来そうって思って、ラジカセに録音しとくんだ。でまた横になってメロディーに歌詞なんとなくつけたりして鼻唄うたうんだ。
で気付く。自然と昔と同じことしてるなって。こういう習性か。って』
『ほうほう』
『で時は流れて、10代20代の頃の自分は若かったし、甘い部分もあったんだろうなって。
曲も出来たし、またバンドなりユニットなり出来るかもなってなるんだ。
一人もいいが、やはり人となにかやってみたい。って気になるんだ。
とりあえず昔ぶつかったヤツと再会。相手も大人になり色々思うところはあるだろう。
しかしながら、これが不思議とまたうまく行かないんだ。
一度ライブをやって、なんとか形に出来たなって思って。
さらになんか新しいことやろうって
DEMOを10曲くらい作って、そいつに送ったんだ。
そしたらさ、「聴いたよ。聴いてて思うのはDEMOっぽいなって思う」ってトンチンカンなことを言い出したんだ。だから、このDEMOを元に作っていくんじゃないのか?
そのためにおれは送ったんじゃないのか?。
???が駆け巡る。
さらにそいつは言ったんだ。
「今回のは難しいかもね。他の人には受け入れられづらいよね。おそらく。まあ、おれは色んなタイプの曲を聴くから、好きと言えるけど」
は?なにを分かりきっていることを、さも芯を食ったことを言っているみたいに言ってるんだ。とおれは思った。しかも、好きと言えるけど?
は?なに目線?なに視点?どの立場なんだ?
ただのリスナーなのかこの人? おれはただ、一人の好きでもない、好かれてもない、いちリスナーにDEMOを送ったってことになるよな。
なんだコレ。意味わからん。
その中に1、2曲、実験的にコミカルな曲を入れたんだ。
そしたらソイツさ、「ふざけすぎ、でもこれを機に変わっていくのはいいことやと思うでー」
「は?なぜ関西弁?コイツ関西人だったっけ?いいことやと思うでー? どういう意味だ?
ふざけてるのはどっちなんだ?」
ソイツは、肝心な時には黙り込むか、関西弁でわけわからんキャラになって、的外れなダメ出しばかりするんだ。分かりきってることを、さも、おれはこういう意見なんだ。みたいに言ってくるんだ。
まあそれは分かるが、これはどう?って聞くと、何も答えられないか、関西弁でウヤムヤにするんだ。話しててもスッキリしない、モヤモヤ感だけが残る。
さらにソイツは言う。「おれはなんか、プレイヤーとして考えてくれれば。まあ今はベースだけど」
プレイヤー。
さらにソイツは言う。
「大衆に好かれたいなら、そういう音楽やればー?」
大衆?今の時代に大衆なんてあるのか?
時止まってんのか?今は1990年代じゃねえぞ。
しかも、おれがそういうタイプ、そんなことが出来るタイプじゃないことをわかっている筈。
まさか分かってないわけじゃないよな?
昔より酷くなってないかコイツ。
どんどん噛み合わなくなってるな。
こんなにも合わないのか』
『フムフム』
『大人になって、若い時よりは色々分かるようになる。だから前よりはうまくやれると思ってたんだ。でも逆だった。分かるからこそ、意味がわからん。こともわかる。噛み合わない。
そいつとはそれで終わったんだ。
噛み合わないなって感覚だけが残った。
多少合わせようとしても合わないものは合わないんだ。
で、また一人で作る。
でまた誰かに出会う。
声をかけた。
まあ、なんとなくやろうかって感じで。
前と違ったのは全然知らない人だった。
しかもたいしてヤル気なさそうだった。
今思えば。ハナから。
曲を作った。歌詞をつけてもらった。
最終的に、「もうどうでもいい」と言われた。
は?簡単に言いやがって。
「どうでもいいって何が?」と聞き返した。
「どうでもいい」
さらにそいつは続けた。
「人が一生懸命書いた歌詞を勝手に出したら訴えるからね」
言葉を失ったおれ。
労力。手間。気持ち。
全部一瞬で踏みにじられた。
そいつはおそらく一生懸命と言ってるが、歌詞を書くのはせいぜい1日か2日くらいのもんだろう。
作るのもおれ、考えるのもおれ。
疲れるだけじゃねーか。
何年もかけてやるものなんだ。
メロディーとかアイディア、いつか、タイミングが来たら解放しようと暖め続けて、今だと思って形にして、その人自体にも自分なりに向き合って、
挙句の果てに、おれは訴えられるのか。
曲が死んだ。殺された。おれも殺された。
おれとおれの子供が殺された。
大事に時間をかけて暖め続けてたものが見事に壊された。
しかもおそらくソイツは、そこまで悪い事をしたとも思ってないだろう。
思ってたとしても、想像が付かないんだろう。
その曲を聴くことももう嫌になる。
キモチガワルイ。キブンガワルイ。
気が遠くなる。
耳鳴りがする。
色んなイヤな思い出が駆け巡る。
胃液が出る。吐き気を催す。
虫唾が走る。
おい、なんだコレおい。』
『こういうのが裏パルスって言うのか』
『果てしねー』
『そして部屋の布団の上で座るんだ。
モヤモヤした気持ちだけが残っている。
もう曲はかけないんだ。作る気にもならない。
頭の中では鳴ってるんだ。他人の曲も自分の曲も。聴いたことない感じの曲も。
うるさいなと思ったり。
立て掛けてあるギターを見つめながら、まるで自分とは関係のない物体のように思える』
『フムフム』
『しかしそれでも気力を振り絞り今度は絵を描くんだ。
描いて描いて描いた。
タイトルを付けよう。実験的に大喜利っぽくしてみようなどと試行錯誤するんだ。
躊躇うがSNSにUPしてみる。
コメントが来た。
「どごがよ」
誰だコイツ。どういう神経をしているんだ。
どういう気持ちで文字を打ち、どうなると思って送信したんだ?
打ってる時か、送信する前に躊躇わないのか?
ただの失礼な人。
まあそういう人もいるが。
にしてもあり得ん。
神経がわからん。神経を疑う。
片手間で人を殺している。
しかもそういう自覚もない。
おそらく詰め寄ったとしたら、
後出しジャンケン的に、
「そういうつもりじゃない」だとか、
「たいしたことじゃないでしょ」とでも言うんだろう。
容易に想像がつく。
因果応報が愉しみでもあるが。
虫唾=裏パルスが駆け巡る。
キモチガワルイ。ヒジョウニキブンガワルイ。
気が遠くなる。耳鳴りがする。
信じられない。血が通っているのか、こういう人間って血が通っているのか。
通っているとしたら何色の血なんだろう。
当然謝罪もあるはずもなく。。。。。
働き、労力を使い、報酬を受け取るどころか、
唾を吐きかけられる。クソをかけられる。傷を付けられる。
しかもそれをやったほうは、そこまでたいしたなんとも思ってはいない。
こわいよなぁ。
殺されてるからなぁ。
殺され続けてるからなぁ。
おかしいよなぁ。
こんなことを繰り返す。
これしか出来ないから繰り返す。
回復するためにやってきた。
さらに気分が悪くなっただけだった。
それが20年続いた。
おれが病気だからか?
なにがなんだかわからない。
今は自分には幸も不幸もありません。
ただ、一切は過ぎていきます。』
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