ロフトワーク・松井 創さんに聞く、「共創空間の設計法」【前編】
こんにちは。「問い」をカタチにするインタビューメディア「カンバセーションズ」の原田です。
またまた久しぶりの更新となってしまいましたが、
カンバセーションズを「共創のプラットフォーム」にするためのヒントを探るべく、
さまざまな方たちにお話を伺っているインタビューシリーズも回を重ね、
今回で5回目になりました。
今回お話を聞くのは、豊富なクリエイターネットワークを背景に、ブランディング、Web、空間、映像、コミュニティなど領域を横断したデザインプロジェクトを手がけているロフトワークの松井 創さんです。
現在、都市と空間をテーマとするLayout Unitの事業責任者を務めている松井さんは、
パナソニックの創業100周年を機にスタートした「100BANCH」をはじめ、
コミュニティを軸にした共創空間を数多くプロデュースされています。
35歳未満を対象にしたアクセラレーションプログラム「GARAGE Program」などを展開する100BANCHの活動には共感できる部分が多く、
また、インタビュアーの個人的な「問い」を起点に、
プロジェクトの実現まで並走するカンバセーションズと重なる部分を以前から感じていました。
そんな折、カンバセーションズの第一期インタビュアーのひとりで、
11月に新作の発表を控えている市原えつこさんが、
この「GARAGE Program」を活用して100BANCHで作品制作に取り組むことが決まり、そのご縁で今回の取材が実現することになりました。
各分野のトップランナーたちによるメンター制度や、
3ヶ月という短期集中型のプログラム設計をはじめ、
100BANCHが共創を促すために取り組んでいるさまざまな工夫について、色々聞いていきたいと思っています。
まずは、松井さんのバックグラウンドから。
松井 創さんのプロフィール
松井:学生時代は建築を学んでいたのですが、
手先が器用ではなく模型も上手につくれないし、
1mm単位の設計ができるタイプでもなかったんです。
それよりもプロデューサー的に才能がある人たちが活躍できる土壌をつくり、
プロジェクトを推進していくことの方が得意だと感じていました。
そして、新卒でネットベンチャーの新規事業を開発する部署に入り、
全国各地で青空マルシェを開催し、
さらにオンラインも活用して生産者と消費者をつなげる仕事などを経験しました。
その中で、共創という言葉を意識するようになり、
オンラインとオフラインが交差するようなコミュニティを醸成することへの興味が強まっていきました。
そんな興味・関心を満たす仕事ができる環境を求め、
30歳を機にロフトワークに転職した松井さんは、
プロデューサーとしてさまざまな場づくりに携わる中で、
100BANCHのプロジェクトにも関わるようになったそうです。
施設のネーミングに込められた思い
「つくる人をつくる。」をキーワードに、
若い世代が集うカフェのような場をつくるというところから構想が始まり、
これからの100年をつくるU35の若きリーダーのプロジェクトを推進するアクセラレーションプログラムを運営していくことになったそうですが、
共創のプラットフォームとしての思想の一端は、
「100BANCH」という施設のネーミングからも垣間見られます。
松井:「BANCH」というのは日本語の「番地」だけでなく、
「束」を意味する英単語にも由来していて、
さまざまな人間のエネルギーがこの場所で一時的に交差したり束になったりしながら、
やがてまた社会に放たれていくようなイメージを重ねています。
共創のプラットフォームとして大切なことは、
ひとつの場所に滞留して何かを拡大させていくことではなく、
多様な人たちが頻繁に出入りするコミュニティをつくっていくことだと考えています。
「卒業のデザイン」からコミュニティを考える
一般的にコミュニティというのは、
いかに人を呼び込むかというところに重きが置かれがちですが、
100BANCHでは、むしろ人が出ていく部分の設計、
松井さんの言葉を借りるなら「卒業のデザイン」を特に意識したそうです。
それが、3ヶ月という短期集中型のプログラム設計です。
松井:当初は、入居期間を半年くらいで想定していたのですが、
最終的には頑張ればギリギリなんとかなりそうな3ヶ月に設定することになりました。
この3ヶ月という期間の短さが着火剤になっているところがあるし、
「みんな3ヶ月で発表しているから自分も何かをしなければ」とがんばる人が多い。
やはり夏休みの宿題などと同じで、期限があることは大事だなと感じています(笑)。
「同時多発」状態を促す空間の設計
この「短期集中」とセットで、
100BANCHが大切にしているのが「同時多発」というキーワードです。
これについては、カンバセーションズの第一期インタビュアーの3人が、
それぞれのプロジェクト実現に向けて個別に動きながら、
同期のインタビュアーの動きから刺激を受け、
時に活動や思考が混ざり合っていく様子を間近で見ているだけに、
非常に納得ができるポイントです。
100BANCHでは、この「同時多発」的な状況を促進するために、
空間を壁で仕切らず、フラットな空間の中で隣り合う人たちが同志になれる環境をつくるなど、空間デザインの工夫もしているそうです。
共創空間を運営するための7原理
この「短期集中、同時多発」をはじめ、100BANCHには、共創の空間を運営していく上で欠かせない7つの原理が設定されています。
100BANCHの7原理
1.たった一人でも応援したら
2.思う存分できる場
3.若者が未来をつくる
4.短期集中、同時多発
5.常識にとらわれない
6.視点が交差し、混じり変化する
7.Will から未来はつくられる
この7原理を実践に移していくために、
必ずしも具体的なマニュアルを用意しているわけではないそうで、
あくまでも入居者の主体性に委ねている部分が大きいと松井さんは言います。
松井:例えば、空間の運営には制約条件や禁止事項がつきものですが、
100BANCHでは、法さえ侵さなければ自由に使って良いということを基本原則にしています。
また、原理のひとつでもある「視点が交差し、混じり変化する」に関しても、
事務局側がコラボレーションや共創を促すために誰かと誰かをマッチングをするようなことは無理にせず、
毎月の鍋会や成果報告会など、隣の存在を知る程度の機会さえつくれればいいと考えています。
まずは本人がやりたいことが存分にできている状態になっていないと、
他人に気なんか使っていられないと思うので、
何よりも個人のWill(意思)を大切にして、
それが思う存分できる環境をマネジメントすることに徹してきました。
こうした場の設計思想のもと、100BANCHではちょうど1周年を迎える頃から、
自然と入居者同士のコラボレーションが生まれ始め、
1周年を記念したイベント「ナナナナ祭」などで、
その成果発表も行われたそうです。
入居者の成長を促すメンターの存在
入居者のWillをベースにした主体性を大切にしている100BANCHですが、
Willの強さや方向性にはきっとグラデーションがあるはずです。
入居者一人ひとりのモチベーション維持や成長を促していく上で、
何か意識していることはあるのでしょうか?
松井:入居時面談で事務局メンバーがやりたいことなどをヒアリングし、
必要に応じて人をつなげたりということも行っていますが、
最も大きいのは、メンターとのコミュニケーションです。
プロジェクトの問いや目標の設定、アウトプットなどについて、
メンターからアドバイスをもらうことが、
個人の内発性を高めていく成長機会になっています。
メンターと会う頻度などはそれぞれに委ねているのですが、
中には毎週壁打ちをするように相談をしているような人もいます。
100BANCHの7原理に「1.たった一人でも応援したら」があるように
入居希望者の審査会にはメンターたちが参加し、
誰か一人が良いと言えばプロジェクトが採択されるという点もユニークです。
そして、メンターとなる方たちも、自分が認めたプロジェクトだからこそ、入居者の成長にコミットできるというわけですね。
↓100BANCHのメンターの方々(一部)
さて、だいぶ長くなってしまったので、
前編はここまでにしたいと思います。
後編では引き続き100BANCHについて伺うとともに、
11月に渋谷にオープンする共創空間「SHIBUYA QWS」についても聞いていきますので、お楽しみに!