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NOSIGNER代表・太刀川英輔さんに聞く、「共創を促す"関係性"のデザイン」【前編】

こんにちは。
問いをカタチにするインタビューメディア「カンバセーションズ」の原田です。
カンバセーションズの「共創のプラットフォーム」化に向けたインタビュー企画も今回で3回目となります。
今日お話を伺うのは、横浜を拠点に幅広い領域のデザイン活動を展開している「NOSIGNER」の代表・太刀川英輔さんです。
いまをときめくトップクリエイターである太刀川さんとはかれこれ10年近いお付き合いで、カンバセーションズにも2012年のローンチ時にインタビュアーとして参加して頂いたほか、NOSIGNERのオフィスを会場に、QONVERSATIONS TRIP YOKOHAMAという公開取材イベントも行うなど、
さまざまな局面でご協力頂いているカンバセーションズゆかりの人物でもあるんです。

これまでの太刀川さんの活動に目を向けてみると、災害時に役立つデザインを共有するWiki「OLIVE」の立ち上げ、セクターや地域、職種を超え、社会に変化を生み出すイノベーションを創るプラットフォーム「ミラツク」の理事をはじめ、「共創」「共生」をテーマにしたプロジェクトに数多く関わっていることがわかります。
では、早速太刀川さんにお話を聞いていきましょう。

太刀川:僕は、形をつくろうとすることよりも、関係が生まれる最小限の形を見つけて、それによってさまざまなことが解決されていくことの方が、デザインとして美しいと思っているんです。だから、「こことここをつなげると凄いことが起こるんじゃないか?」というようなことを常に考えているし、多様な人たちによる関係性の中から、発酵するように生まれてくる新しい形が見たいという思いが強いんです。
2018年のグッドデザイン大賞受賞という驚くべき結果を残した「おてらおやつクラブ」のように、課題先進国とも言える日本には、それぞれの立場の違いを活かした共生関係を描き、それまでは価値と見なされていなかったものを価値化していくようなプロジェクトがたくさん生まれる状況をつくることがますます必要になってくると感じています。今年はグッドデザイン賞の審査委員として、「共生社会を描く」フォーカスイシューディレクターをしているので、この大賞は感慨深いものがありました。

とても共感できる考え方です。
まさにカンバセーションズでも、メディアというプラットフォームや編集というスキルを活用しながら、「新しい関係性」を構築することを会社のミッションとして掲げ、インタビューサイト「カンバセーションズ」や、地域間交流プロジェクト「◯◯と鎌倉」などを展開しています。

では、新しい関係性の中から、太刀川さんが言うように、発酵するように新しい形が生まれてくる状況をつくるためには、何が必要になるのでしょうか。
そんな「共創」が生まれる土壌について、太刀川さんもディレクターとして参加する「コクリ!プロジェクト」を例に話してくれました。

太刀川:リクルートライフスタイルの三田愛さんを中心とした「コクリ!プロジェクト」では、多様な可能性を持つ人たちが集まるコミュニティをつくりながら、いかにして自己変容が起こるのかということを研究し続けています。100年後から見た時に歴史が変わったと思えるような新しい火種を生み出すことを掲げ、共創によって社会や地域を大転換させるための心や身体のあり方、そしてそれを生み出すコミュニティの成立について本気で探求しているプロジェクトです。

2015年から毎年開催されている「コクリ!キャンプ」は、
官公庁や地方自治体、NPO関係者、大企業の社長、研究者、メディア関係者など多様なメンバーが集うコミュニティになっているそうで、
とにかくメンバー間の仲が良いことが特徴なのだとか。
こうした共創の場を形作っていく上で大切なこととして、太刀川さんはいくつかのポイントを挙げてくれました。

NOSINGER・太刀川英輔さんが考える「共創」が生まれる場の条件
1.多様性を担保する

「共創が起こる大きな条件は、さまざまなタイプの人たちがいる状態です。例えば、企業がイノベーションを起こしたいのであれば、経営陣、マーケター、デザイナーなどさまざまな立場の人が混ざるべきです」

2.肩書きを超える
「コクリ!キャンプには上場企業の社長などいわゆる『凄い人』たちがたくさん参加していますが、ここにいる間は全員あだ名で呼び合います。肩書きや立場を越えて、目の前にいる人とつながるということを大切にしているから、参加する度に親戚が増えていく感覚があります(笑)」

3.未分化の状態を大切に
「肩書きを越えてつながった結果としての『未分化』の状態を大切にしています。コクリ!キャンプには3、4人で行うプログラムが多いのですが、かなりディープに相手の立場になり、その人の視点を自分に下ろしてくることで、登ろうとしている山を越えるための思わぬはしごが見つかるんです」

4.時代の声に気づく
「僕たちが生きている社会には、時代の声や意思というものがあり、僕らはそれを『ジェネラティブ・インテンション』と呼んでいます。150年前の『進化論』、100年前の『モダニズム』、あるいは現代の『シンギュラリティ』など、みんながなんとなく察知しているような時代の意思に気づき、フレーズ化することで『共創』がドライブすることがあります」

5.遠くのゴールを共有する
「ビッグ・ピクチャーを描く上では、より遠くのゴールを共有する必要があります。僕たちはそれを『北極星』と呼ぶことが多いのですが、遠くにあるゴールをコミュニティの中で共有した上で、そこに照らし合わせながら目の前の物事を考えることを大切にしています」

これらを意識しながら、共創のコミュニティの土壌づくりに取り組んできた「コクリ!プロジェクト」では、参加者それぞれの中で自己変容が起きたり、参加メンバー間で新たな関係性が生まれ、それが社会にインパクトを与えるプロジェクトへと発展していくことも少なくないそうです。

太刀川:仮に、強度のある天才的なアイデアがあったとしても、ひとりで取り組んでいるだけではなかなか広がっていきません。
イノベーターというのは基本的に孤独なもので、コクリ!キャンプはイノベーター同士がつながれるコミュニティをつくっているところがあります。
三田愛さんを中心に、ここにいる人たちへの愛と信頼というものがコミュニティの中心にあるから、参加者が安心して繋がれる。そういう場になっていると思います。

太刀川さん自身も、このコクリ!キャンプをきっかけに、デザイン発想を生物進化から学ぶことを提唱する「進化思考」のワークショップを頻繁に行うようになったと言います。
そして、この「進化思考」の背景にも、やはり「共創」というキーワードがありました。

太刀川:過去に生まれた革新的なイノベーションを分析していくと、そこには「関係」と「変異」を核とした生物の進化に通ずるメカニズムがあることが見えてきました。
かつては一人の天才的な発想によるところが大きかったイノベーションを、共創の中で生み出していくためのフローをつくっていこうという考え方が進化思考のベースにあるんです。

共創が生まれるコミュニティやプラットフォームづくりとともに、太刀川さんが取り組んでいる共創のための発想法が、この進化思考なんですね。
「人類がこの先も地球に生き残れるかということが現実的な問いになりつつある中で、イノベーターがあと数百万人くらい生まれないといけない」と太刀川さんは言います。
そのための手段として、デザインという武器を最大限に活用するということが、NOSINGERの活動の根底にあるようです。

太刀川:例えば、インスタグラムによって多くの人がセミプロレベルの写真を撮れるようになったように、表現もいずれみんなのものになるはずです。
その時に、デザインというのは『職業』ではなく、もう少し『哲学』に近いものになっていくんじゃないか。そして、その哲学が、新しいものをつくろうとする人たちを応援したり、触発できるような状況が起こってほしい。
そのために、デザインやイノベーションの未解明な部分、暗黙知化されている部分を整理し、他の人に伝える術が欲しくて、進化思考を始めたんです。

ここまでのお話を通して、「共創のプラットフォーム」をつくる上では、イノベーターたちが信頼してつながれるコミュニティや場の「土壌」を耕していくことが不可欠だということが見えてきました。
後編は、NOSIGNERが最近スタートさせたもうひとつの共創プロジェクト「RELAY」から、イノベーターたちをサポートするプラットフォームのあり方などについて話を深めていく予定ですので、お楽しみに!



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