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「痩せは病のもと」「生理は健康のバロメーター」産婦人科の常識を金山 尚裕医師に聞きました

一生を通じて、女性の心身へ大きな影響を及ぼす女性ホルモン。10代から20代にかけて一気に女性ホルモンの分泌量は増え、年齢とともに減少していき、ライフステージが変化するごとにさまざまな影響があります。

出典:厚生労働省「働く女性の心とからだの応援サイト

ホルモンバランスや女性の身体のバイオリズムなど、学生時代に少しだけ勉強したけれど、なんとなくしか覚えていない方は多いのではないでしょうか。

今回のnoteでは、産婦人科医である金山 尚裕(かなやま なおひろ)先生にご協力いただき、女性の健康に関する正しい知識や、身体との上手な付き合い方をお聞きしました。

金山 尚裕(かなやま なおひろ)先生
浜松医科大学名誉教授、静岡医療科学専門大学校学校長。専門領域は周産期医学や不妊症。著書に『プレコンセプションケアってなんですか?:国立医大名誉教授産婦人科の名医が教えるプレコンセプションケア教本』『イラストで学ぶ妊娠・分娩・産褥の生理 改訂2版』『早産-最新の知見と取り扱い』ほか。


女性の心身の健康は、女性ホルモンが鍵を握る

——まず、女性ホルモンやホルモンバランスについて、基本的なことから教えてください。

一般的に女性ホルモンというのは、エストロゲンとプロゲステロンという2種類のホルモンを指しています。どちらも卵巣から分泌されるのですが、それぞれの役割は異なります。

特にエストロゲンは脳、血管、臓器、骨、肌、髪など全身に作用しており、女性の身体の健康を維持する役目。

プロゲステロンは妊娠の成立や維持のために必要なホルモンです。たとえば、エストロゲンによって子宮内膜が厚みを増し、プロゲステロンが子宮内膜を柔らかくしたり基礎体温を上昇させたりすることで妊娠しやすい環境を整えます。またプロゲステロンは早産を防止し妊娠を維持する作用があります。

これら2つのホルモンが適切にバランスよく分泌されている状態を、ホルモンバランスが良いと呼んでいるんです。

聞き手・株式会社LYL代表 小山 侑子

——ホルモンバランスが崩れた場合、どんな影響がありますか?

生理(医学的には月経が正しい言葉ですが本コラムでは生理を使用します)がある世代では健康に異常をきたす場合、最初に変化が起きやすいのは生殖器官である卵巣です。生理が来なかったり、来たとしても周期や日数の変動が大きかったりする場合は要注意です。

さらにホルモンバランスの異常は全身に影響するため、人によっては肌の潤いが失われ、シミやシワが増えます。また脂質代謝が落ちるため皮下脂肪がつきやすくなることも。

生理があるうちは女性ホルモンが一定量分泌されるため、女性ホルモンが起因してこのような症状は起きることは少ないんです。しかし40代後半の方は女性ホルモンが減少するので誰でも生理不順になります。また閉経前後、いわゆる更年期やそれ以降の時期になると、女性ホルモンは一気に減少するため、身体の不調は顕著になります。

エストロゲンは脳、血管、臓器、骨、肌、髪など全身に存在するという話をしましたが、たとえば閉経の前後5年は自律神経が不安定になるため、 ”のぼせ” や ”ほてり” などの症状が表れる、いわゆる更年期障害になりやすくなります。

また、閉経後は骨量が減ってくるため骨折しやすくなったり白髪が増えたり、他にも高血圧、新陳代謝の低下、子宮脱、尿漏れ、中長期的には認知症など、これまで女性ホルモンによって守られていた心身全体の健康が失われてしまいます。

——女性ホルモンが少なくなる前に、わたしたちはどんなことができますか?

女性ホルモンの減少を食い止めることはできませんが、大事なのは急激な減少を抑え、減少を緩やかにすることです。そのためには、40代〜50代のうちに女性ホルモンをどれだけ管理するかが、その後60歳以降の健康状態を左右すると言ってもいいでしょう。

具体的には良い食習慣と運動習慣、そして女性ホルモン補充が女性ホルモンを減らさない3つの柱になります。心身に不調があることを我慢したり、諦めるのではなく、まずは気軽に産婦人科に相談することで解決できる不調もあります。

生理周期と生理日数が安定していることは健康の証

——ホルモンバランスの乱れは、最初に生殖器官へ影響するということでしたが、わかりやすいサインはありますか?

生理周期や生理日数から、今の自分が健康かどうかがわかります。

生理というと「つらい」「めんどくさいもの」というネガティブなイメージを持たれることが多いですが、女性ホルモンが正常に働いているかどうかを図る、重要なバロメーターです。

女性の場合、28日〜30日という決まった周期に生理が来て、5日〜7日という決まった生理日数であれば、健康であると言って良いでしょう。「生理周期」「生理日数」の2つにまずは意識を向けてみたとき、皆さんの状態はどうですか?生理というのは日常生活を送るうえで非常に負担になっているかもしれませんが、生理がきちんとやって来るというのは、皆さんは健康で、素晴らしいということです。

逆に、生理周期が不安定で、生理日数が2、3日で終わってしまう人は排卵がない可能性があります。規則正しく生理が来ない人は、不妊症などの病気を疑うべきです。女性ホルモンはストレスに左右されやすいため、1ヵ月だけ生理周期が乱れたり、生理日数が多かったり少なかったりすることはありますが、慢性化している場合は病院の受診をお勧めします。

外来の患者さんとお話ししていると、生理痛がひどいことを病気だと思っている人は多いのですが、生理不順が病気だと思っている人は少ない。生理不順の方は、身体から重要なアラートが出ている!と思ったほうが良いでしょう。

——排卵がきちんとされているかどうか、日常的にチェックする習慣があった方が良さそうですね。

そうですね。生理周期を記録したり、基礎体温を測ったりすることが大事だと思います。基礎体温の計測は、朝の忙しいときに測らなければならないため面倒で止めてしまう人が多いのですが、今は10秒程度で計測できたり、寝ている間に計測できたりする体温計もあります。生理に関する情報の記録を習慣化できれば、そこから身体の健康状態を知ることができます。女性ホルモンがきちんと正常に働いているか、意識を向けてみましょう。

痩せ・肥満はさまざまな病のもと

——生理に関する情報のほかに、自身の健康状態を判断できる指標はありますか?

たとえば、身長と体重のバランスは健康に直結します。分かりやすく言うなら、ご自身のお腹を見て、おへその下に軽い一段腹があれば標準体重。三段腹であれば太りすぎ、一段腹がない人は痩せすぎです。今の身長と体重が分かるならBMI指数を計算してみてください。18.5〜25.0という標準体重の範囲外であれば、何らかの病気になるリスクが高まります。特に婦人科系の病気にはその傾向が強いといえます。

20代〜40代の日本人女性の平均身長は約158cmであり、そのくらいの身長の方で体重40kg前半台を目指される方もいるかもしれません。しかしBMI指数は18.5を下回るため痩せ型に該当します。身長が158cmの場合は、46.5kg〜62.0kgが標準体重の範囲内です。

BMI指数が25.0を上回る肥満に該当する方の場合、卵巣が固くなり、多嚢胞性卵巣症候群という卵胞が適切に排出されない病気にかかりやすいと言われています。これによって不妊症が併発する恐れもあるのです。

また痩せている方が妊娠した場合、胎児に十分な栄養を届けられないことがあります。なお、成人女性に必要なカロリーを普段から摂取していなければ、妊娠したからといって急に食べる量を増やすことはできません。それによって胎児の発育が遅れ、低出生体重児が生まれやすくなります。


海外と比較すると、日本の成人女性は痩せ型の割合が高く、低出生体重児の割合も高い(出典:厚生労働省「活力ある持続可能な社会の実現を目指す観点から、優先して取り組むべき栄養課題について」)

——赤ちゃんが低体重で生まれることには、どのような問題があるのでしょう?

妊娠期間が10ヵ月に満たない早産の場合、生まれた直後に医療機関でしっかりケアをしていて、極端な未熟児でなければ赤ちゃんにほとんど問題はありません。しかし妊娠期間が十分であるにもかかわらず、出生体重が2,500g未満であればその後のケアに注意が必要です。

その場合はその子が成長して数十年後に、高血圧や糖尿病、不妊症、うつ病などさまざまな現代病にかかるリスクが高まると言われています。低体重で生まれた赤ちゃんのお母さんは痩せている場合が多く、その影響で次の世代に病気が引き継がれてしまう可能性もあるのです。

さらに、痩せすぎていることの長期的なリスクとして、老化が加速しやすくなることも挙げられます。実は、女性ホルモンは卵巣からだけでなく脂肪細胞からも出ているため、ふくよかな方であれば閉経後でも若々しさをある程度キープできます。一方、痩せ型の方は閉経した後に女性ホルモンの作用が少なくなり、肌の潤いが失われたり、抜け毛が増えたりなどの症状が出やすいのです。

どんなライフステージであっても、痩せや肥満であることは健康を損なってしまいます。そのためどの年齢になっても標準体重を目指し、食事や運動などの生活習慣に気を配ると良いでしょう。

身体の調子を整えるために、今日からできるセルフケア

——ここまで、「産婦人科医に相談して女性ホルモンの減少を緩やかにする」「生理周期や基礎体温を記録する」「標準体重を目指す」など、女性が健康を維持する方法を紹介いただきましたが、そのほかに自身でできることはありますか。

標準体重を目指すことにもつながりますが、バランスの良い食事を摂ることは大切です。たとえば、ニンジン、ゴボウ、生姜などの根菜類を積極的に食べることで、血液循環が良くなり手足が温まります。女性ホルモンが少なくなると末梢循環が悪くなり、手足の冷えや全身の栄養不足などにつながってしまうのです。

冷えというのは末端だけでなく内臓系にも悪影響があり、冷え性=未病の状態と考えられています。手足がいつも温かいことは、健康であるための大切な要因なので、食事に気を配ったり、毎日湯船につかったりすると良いですね。夏場はエアコンなどが冷えにもつながるため、下半身を温めたり、ストレスをため込まないように自分なりのリフレッシュの方法をいくつか持ったり、血流を良くするために腹式呼吸を行うなどもおすすめめです。

そのほかに、健康であるために今日からできることとしては、月経カップで経血の色や量を直接見て、異常がないかを確かめると良いでしょう。また、乳輪や膣の色(自分で観察できる腟の入り口の色で大丈夫です)は女性ホルモンのバランスと関係があると言われています。女性ホルモンがしっかり出ている方はそれらの色がピンク色から薄い紫色。いつもと明らかに違う色や状態である場合、産婦人科医に相談すると隠れた問題が発見されるかもしれません。

かかりつけの産婦人科を持とう

——最後に、心身の不調に悩む女性、身の回りの女性を気遣いたい方へメッセージをお願いします。

内科や歯科のように、女性は10代からかかりつけの産婦人科を持ってほしいです。生理痛の患者さんはよく来院されますが、それ以外の女性の不調でも産婦人科が解決できる可能性が高いんです。特に40代や50代の女性は、女性ホルモンが減ってきて子宮筋腫や子宮内膜症などを起こしやすいため、気になることがあれば産婦人科に相談してほしいです。

ただし産婦人科といっても、女性のヘルスケア、不妊症、周産期、腫瘍など医師によって専門分野は異なります。実際に調べてみたり足を運んでお医者さんとの相性も見ながら、ご自身に合った病院を選んで相談してみてください。

もちろん、今日からできることとして、まずは自分の生理の状態や身体の状態もチェックしてみてくださいね。



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