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母のオーブンでお菓子を焼く日曜日

 毎週じゃないけど日曜日の午後になると息子を連れて実家に帰る。マイ・ダディが息子に数学を教えてくれている間に、私はマミィご自慢のガスコンベクションオーブンでお菓子を焼くのだ。

 今日はシフォンケーキを作ろうと思って、自分の家から冷凍した卵白とホイップクリームのスプレーを持ってきた。それ以外の材料、卵、薄力粉、砂糖、サラダ油は母のをわけてもらう。まず卵白を泡立てておいて、もう一つのボウルでそれ以外の材料を混ぜ合わせて卵白のボウルに流し込んでオーブンで30分。

 オーブンが動いてる間は新聞を読んだり母と話したりする。実家は新聞を2つ取っている。両親ともに本を買うことに躊躇がないので実家は本がいっぱいある。「これ面白かった。貸してあげる」と渡されることもよくある。そうこうしてる間にオーブンが鳴って、お菓子が焼き上がって少し冷めた頃に勉強に疲れた息子が「おやつー!」と言い出す。

 シフォンケーキを切り分けて皿にとりわけスプレーの生クリームを絞ってる間に母が紅茶を淹れてくれる。いつも息子と父は大きいのを選んで、母は小さいのを選ぶので、私は一番最後に残ったのを食べる。

 母のガスオーブンのほうが私の家にある電気オーブンより熱の通りかたにムラがない。卵白多めのシフォンケーキは思ったとおりしっとり仕上がって美味しい。ネギトロ丼に卵黄だけ乗せたあと卵白だけのこしておいてよかった。

ここまでは絵に描いたようなホームドラマふう三世代交流。良い母、良い父、良い娘、いい孫、それぞれが与えられた役割を半ば演じるがごとく果たしている。しかしだいたい父がぶっこんでくるのだ。

父「立憲民主党は右翼!」 

私「ええっ!」

父「リベラルっていうのは右翼だから」

私 「リベラルって大きな政府を志向するとかのことでそれは左翼じゃないの?」

父 「天皇制とか資本主義を変えようとしない立憲主義って保守やろ」

私 「うーんなるほど?」

父 「何でも閣議決定で決めるのが普通っていうめちゃくちゃな状態になってしまったから相対的に立憲が左翼に見えるだけ」

私 「まぁ右と左って観測者がどこのポジションにどっち向きに立つかによって変わるよネ」

 テーブルの隅に置かれているのは赤旗新聞と朝日新聞である。本棚の一角は新日本出版の新書だらけだ。父はそういう人である。

 息子「母ちゃんはなんでこんなに好奇心あるんやろう?バッタの味とか」 

父「勉強あんまりしてないから入るとこいっぱいあるんちゃうか」

私「それはそう。あと新奇性を求めるADHDの特性かなァ」

父「ワシもやけどな。わりとなんにでも興味あるし。親戚のおばちゃんに、あのサトシくんに孫!?っていわれたし。結婚して子供作るだけならまだしも、その子供が育って結婚して子供生むなんてっていう驚き。たぶんアゲもにたようなこと言われるタイプ」

私「自分でもこんななのに子供育てててすごいなって思う」 

父「育ててないて!巣の近くに産んだだけやろ」

私「魚みたいに産んですぐどっかいかへんくて私偉い」

母「お父さんな、私が買った本(ADHD児への教育者の接しかた)のこと、そんなハウツー本はしょうもない、子供の側に立ってないっていうねん。それで昨日夫婦喧嘩よ」

私「ハウツー本で全てのADHDっ子をカバーできなくても現場では役立つこともありそう」

母「そうやろ」

私「心理学って根本のところは文学っぽくて、文学なら一人一人の子に向き合ったったらとも思わんでもないけど、でも今の心理学の研究は統計とか使っててすごく理系っぽいアプローチをしてるから、これもそういうのの応用だと思うし全くトンチンカンってことはないと思う」

父「まぁ社会科学とか経済学とかもそんな感じやな。でも、自然科学は計算したとおりになるけど心理学とか経済学は現実に対して数式を当てはめてこーなるんちゃうかな言うてるだけで占いみたいなもんやんか」

私「ぜんぶ計算したとおりにいくなら計画経済失敗してないて」

父「あれは計画が適当やったんちゃうか。何万人いたら何カロリー必要でそれは小麦なら何トンっていうのは計算できるけど、パン食べたい人もケーキ食べたい人もおるやろし、それは計算できへんからな」

私「革命うまいひとが計画経済うまいとはかぎらへんし」

父「ソ連も北朝鮮も高度に発達した資本主義国じゃなかったし」

私「高度に発達した資本主義国で革命が起こりそうな気配はないけど」 

父「せやなぁ。70年代はいいセンまでいったんやけどなぁ。浅間山荘やらよど号の連中と一緒くたにされて共産主義ゆうたら怖いもんみたいに世論がなってしもて」

私「でも資本主義国の資本主義ぶりが革命したくならない程度にとどまってるのは資本家たちが、革命おこったら嫌やなァ、て思てるからで、労災とか有給とかあるのはソ連とか北朝鮮とかの人らのお陰かもしれへんなぁと思うねん」

父「マルクスのおかげや」

息子「僕キャッチボールしたい」 

父「よしグローブもってこい」

 マルクスのおかげかケインズのおかげか労働者のおかげか資本家のおかげかはたまた神の思し召しか分からないけど、実家でケーキ焼くと手土産代がいらないし、父に教えてもらえば息子の塾代がいらないし、新聞とらなくても読めるし、なんとなく母と娘の役割を果たした風でいい感じである。夫のぶんのケーキを包んでお土産に持って帰れば妻の役割も果たせて完璧である。このように徳を積んでおけば多少の奇行は看過されるであろうと思っている。


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ホネクイハナムシ
えっいいんですか!?お菓子とか買います!!