「はかどらない損失」は欠勤の20倍 プレゼンティーイズムが引き起こす中小企業への影響とは?
プレゼンティーイズムとは
プレゼンティーイズム (presenteeism) とは何らかの体調不良を抱えたまま出勤することで仕事が思うように進まず、集中力の低下や業務効率の悪化により本来発揮できるはずのパフォーマンスができない状態のことです。日本語では「疾病就業」と訳されます。
それに対し、アブセンティーイズム (absenteeism) は病欠や病気休業のことを言います。
これまで企業は目に見えるアブセンティーイズムばかり重要視してきましたが、目に見えないアブセンティーイズムによる損失の方がはるかに大きく、欠席率や診断結果などのように見える化されにくい損失であるため注目すべき指標
中小企業では「はかどらない損失」は欠勤の20倍
現在、中小企業は事業所数では99.7%、従業員数では70.1%を占めており、日本の生産性向上には中小企業の取り組みが必要不可欠となっています。しかし、中小企業経営者の60.3%は「健康経営という言葉を聞いたことがない」、43.1%は「何をしたらよいか不明」と回答しており(経済産業省 2016)、健康経営が広がっていないのが現状です。
これに対し、政府は健康経営の認知度向上や取り組みへの支援のため情報提供や実践支援を行う人材の確保・育成を目的とする「健康経営アドバイザー制度」や、優良な健康経営を実践している企業を顕彰する「健康経営優良法人認定制度」などを創設し、取組の普及を図っています。
日本労働研究雑誌(2018年6月号)が横浜市と共同で中小企業を対象に行った調査では、一人当たりのプレゼンティーイズムコストの平均値(73.03万円)は、アブセンィーイズムコスト(3.51万円)に比べて約20倍大きいことが示唆されました(表1、2)
つまり企業経営において、職場の生産性の向上にはアブセンティーイズムではなく、プレゼンティーイズムの改善への取り組みの方が効果的であり、重点的に対策を講じる必要があるのです。
中小企業がとるべき対応
日本労働研究雑誌は「今後の中小企業の取組として、アブセンティーイズムや疾病の発生を防ぐことを目的とした、主に健診結果等で捉えられるハイリスク者に対する介入だけでなく、プレゼンティーイズムを抑えるための職場全体を意識した取組が重要となる。」と結論づけています(p.58)。
またこの調査の中で、「プレゼンティーイズムを抑えるための職場全体を意識した取り組み」、はプレゼンティーイズムと有意な負の相関関係があることが示されています。大企業に比べて規模が小さく経営者と従業員の関係が近い中小企業において、従業員の健康の向上だけでなくワーク・エンゲージメント(仕事に関連するポジティブで充実した心理状態)や職場の一体感の向上を視野に入れた対策は、より効果的にプレゼンティーイズムによる損失の削減に結び付くと考えられるのです。
参考文献
https://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2018/06/pdf/049-061.pdf