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"ZONE X"

貴方は「才能」を信じるだろうか?

何かに挑もうとした経験のある人間ならば、一度は意識したことがある概念だろうと思う。では、才能の正体とは何なのか。

ある書籍によると才能の正体は集中力の質×総時間によって定義される継続的な努力なのだそうだ。この意味では才能の正体は努力ということになる。

たしかに、「どんな偉大なギタリストも最初は初心者」というように、何度救われたか知らないこの言葉もそんなことを言っている気がした。

でも、それを知ったところで、なんども同じ壁にぶつかる。そうだ。



「才能」

これを持ってるやつは確実にいると思う。



こんなのできるわけない、それをやってのけるのが彼ら「もつ者」だ。

例えば部活だって、およそ三年間積み上げてきた自分の努力よりも、圧倒的に高い質と長い時間をかけて熟成された感覚と能力に、いつだってそれらに勝つことはできなかった。

他にもそうだ、勉強だって、仕事だって、音楽だって、上には上がいる。

他人と比較するな。自分は自分だ。それがわかっていても、どうあがいても何度も突きつけられる見事なほどの差。

のめり込めばのめり込んだだけ。好きになれば好きになっただけ。

熱くなれば、汗を流せば、いのちを懸ければ、その分だけ、彼らのいる世界に届かないことを知る。


でも、本当に怖いのは、その世界に届かないことじゃない。

悔しければ頑張れた。上を見ればアツくなれた。

本当に怖いのは、大好きなそれに打ち込む時間に、それに打ち込む意味に、疑問符がつくことだ。

音楽に生産性はあるのか?期末テストより、進学する大学より、音楽は大切なのか?これに打ち込むことで、何が得られるんだろう?

サーブの練習を誰よりもしている、でもこれに意味はあるのかな?全国大会で優勝できる?プロになれる?世界一になれる?そんな夢は叶うのか?

この時間に価値はあるのか?大好きなブランドの服を見ている時間は現状の課題解決より大切か?この小説を読むことは、歌詞を書くことは、単語帳を読むことより大切なのかな?


俺、本当にこれが好きなのかな。


これが、多くの挫折の正体だと思う。

そう、わかっている。選べばいい。それを誰より好きになって、誰より努力して、そうしたら彼らの世界に届くかもしれない。唯一無二の自分になれるかもしれない。

わかっているのに、いつだって選ぶことができない。たとえ恋い焦がれた世界への切符のためでも、何も捨てられない、何者にもなれない。そんな自分に嫌気がさした。

これじゃないかもしれない、何度もそう思って、何度も自分の好きなものを裏切った。


俺は最後まで凡人だった。


選べなかったやつは凡人だ。覚悟のないやつはなにも選べないで死んでいく。

努力は夢中には勝てない。本気でそう思って、努力という言葉を使うのをやめた。

でも、まだ終わりじゃなかった。諦め切れなかった。

それでもアツくなれるものが俺にはあった。

一人で届かない世界にも、届くかもしれないと、そう思えた。

やる意味に、能力に疑問符がついたって、プロにもなれなかったとして、何度辛くなったって、

そんな事を考えても、合わせた音の衝撃に、悔しいけど魂が震えるのをやっぱり感じた。

だから、qlariaは今も歌っているんだ。



俺は、まだやっぱり捨てる覚悟はない。「才能」はない。

毎日寝食を忘れて何かにのめりこむなんてできない。

欲張って二兎も三兎も追いかけ続けるに違いない。

ただ、凡人はもうただの凡人じゃない。

凡人は決めたんだ。

この人生を、努力なんて言葉でも、才能なんて言葉でも終わらせない。

アツく、感傷的に、刹那的に、命を燃やせるその瞬間、たどり着けるその境地に生きよう。

そこにある幸せに足を止めても、未来の幸せへ歩を進めよう。

泥の中を這う数多の凡人の中でも、空に輝く星を見続ける人間であろう。


凡人は進もう。


理性と感情、その先にある幸せを信じて。


唯一無二の自分へ。


自分の生きる、意味へ。


written by 虎太郎

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