(長編) ライフ・スクランブル 1/8
オーバーヒートしそうな頭を鎮めるために白い陶器に注がれたカフェラテに口をつける。随分と冷めたそれが浅山美鳥に長考っぷりを示唆した。
数日後に迫った『皐月賞』に向け最近はそのことで頭を悩ませている。仕事柄、博打趣味は公にはしづらく一人で悶々と溜め込むほかないため、美鳥は孤独な趣味を築いて長い。彼女の生きる世界の鬱憤を邪な吐口としてお馬さんにぶちまけ続ける。変わらず今日もそれに精を出す。誰も傷つけず、誰かが儲かる、その命運は自分自身に託される。公営ギャンブルが日本になかったらきっと自死の道を歩むことになっただろうと、美鳥は半分本気で思う。
渋谷駅裏の都道沿いに建つ高層ビルのほぼ最上階に構える店内でいつも通りの静かなジャズが背中を撫でる。少し目線を落とせばかの有名な『渋谷駅前スクランブル交差点』、数十秒おきに何百人が四方八方へ横断していく様は世界広しといえどここだけであると、全く部外者の美鳥でさえおこがましくも誇らしい。
ゲームキャラを模した格好の外国人たちが運転する、これまたゲームキャラの使用しているカートを模した赤い乗り物の車列が交差点に侵入していく。彼らの先頭でそれらを貸し出しているであろう、オサ的なカートが手信号で左折の合図をして少し歪な列が曲がっていく。最後の一台が交差点を抜け切るとそれらは高架下をくぐって見えなくなる。
その直後に歩行者信号が青になり人々が中心付近で交差していく。
まっすぐ渡っていく人、信号が変わった瞬間にど真ん中に走って行ってポーズを決めその様子を連れに撮らせている人、歩行者信号が点滅してから白々しく交差点に侵入する人、それを辛抱強く待つドライバーたち。
この距離から見ると人々の進むスピードがなんとも遅く感じられるが実際はみな一様に慄くような早足である。美鳥が田舎から出てきたばかりの頃はそれがいちばんのカルチャーショックで、全ての人種をごった煮したような光景が衝撃だった。この町はこんな事が許されるのかと驚愕した。
そのことをこの瞬間まで忘れていたぐらいには自分も東京に染まれたのかと独りで実感する。一呼吸おいて冷めたラテを啜るとカップの底がチラッと見えた。あと数口で飲み切りそうだった。
スマホのメモアプリを起動し目ぼしい馬名を数頭まっさらな画面にフリック入力していく。あとは買い目だな。
するとピコン、メッセージが入る。差し出し人は池部マネージャー。
「四十五分後にはリカちゃんとの撮影再開するよ。間に合うように準備しといてね」
「了解」
時間を確認、13:14。
マネージャーは私がここに入り浸っていることは知っている。ある日財布からここの会員証がすべり落ちたところを拾われた。彼女はそれの存在とそこが孕む不健全な噂を知っていて鼻白み詰問した。いちばん責められたのは一体誰からの紹介なのかという点だった。
渋谷の高層ビル「Shibuya THE Universe」、そこの四十三階の会員制高級カフェ『cafe Pass Life』は完全紹介制かつ、直近年度の収入が二千万円を達していなければ会員にはなれない。ここを出入りするような人はみな社会を動かしている。もしも今年度、年収が水準を下回れば自動的に会員資格は剥奪され会員証は無効となる。一般庶民には都市伝説的な店である。
マネージャーには同じファッション雑誌の子から紹介を受けて入会したと説明したがその実どこぞの社長様だ。彼の一瞬の快楽を満たせばゴールデン帯のドラマ出演が決まり、雑誌の専属が決まり、ランウェイのトリを歩いた。これらの実情はマネージャーにも、モデル仲間にも、彼氏にも、家族にも一切口外していない。全て自らの実力で勝ち取ったという体になっている。そしてここを知った。わずか一年と少し前の出来事だ。
グイッと残りのラテを飲み干した美鳥はスマホとブランド物の二つ折り財布を右手に、左手には空いたコップを持ってハイスツールのカウンター席から体を下ろしトイレへ向かう。コップをバリスタに渡し、タクシーの配車希望の旨を伝える。トイレはカウンター席から見て広い店内の反対側にある。個室に入り顔を上げると左手には窓がはまっていてその奥には少々霞んだ富士山が見える。四月の今時期にも関わらずしっかりとした冬化粧が美鳥に冷気を伝える。
洗面台で手を洗いポケットから出したハンカチで濡れた指先を拭う。鏡には伊達メガネ姿の自分が映り思わず深呼吸をした。
店を後にしAとBをピストン運動するだけのエレベーターで地下へ向かい顧客専用のタクシーに乗り込む。運転手に撮影スタジオ付近の交差点を指定し車内でメモアプリを確認する。我ながらなかなかに粒揃いの馬を選んでいると再認識すると口角が意思なくとも弛む。美鳥の眼に車窓からの灰色の街が光って見えた。
シャッター音と眩いフラッシュの奥でカメラマンがその商売道具越しに覗く。私たちの目の前にいる大勢のスタッフがこちらのご機嫌を伺うような言葉を投げる。真に受けていた頃が懐かしく思うようなくすぐったいそれらが今は癪に障り出すお年頃だ。
この日は丸一日をかけて上目黒の住宅街にひっそりと佇むハウススタジオにて、専属契約のファッション雑誌の再来月号の撮影が行われている。小道具を用いて華を持たせるこの部屋で夏服の撮影だ。私たちの装いはすっかり涼しげだが、実際はまだまだ肌寒いので暖房を効かせまくるスタジオ内。こちらから見える景色の中にいる人たちもいつの間にやら外套を脱いでいる。
複数のコーデを身にまといそれらを写真に収め続け、日の沈んで時間がたった頃にようやく今日の撮影を全て終える。その後も斉藤リカちゃんは個人での撮影が残っていた。本誌が絶賛売り出し中の新人で、超有名国立大学在学中の十八歳。
-憧れの先輩を一人挙げるとすれば?
-先輩方全員を尊敬していますし日々いろんなことを教えていただいていますので、私にとってこの質問はとてもタフなのですが、一人挙げさせていただくとすればこの世界を志したきっかけでもある浅山さんですね。そんな人と同じ『my eye』で活動させていただけるなんて幸運以外の何者でもないと思います。
昨年末の『eye’conic全員集合!』と銘打たれた特別号の中で彼女はそんなことを言っていた。彼女が同じ雑誌で活動することが決まってからSNSのダイレクトメッセージで数回やりとりをした際も同じようなことを送ってきていた。
『私もそんなことを言ってくれる後輩に恵まれて幸せ者です笑 私が答えれることならなんでも力になるから臆せず聞いてね。もちろん私以外の先輩もたくさん助けてくれると思うからしっかり自分を売り込んでいくんだぞ!』
そんな一丁前なことを恥ずかし気もなく言える自分には複雑な心境を抱いたが、あのメッセージに綴ったことに偽りはなく、努力家で成長していくスピードが実に著しい彼女を間近で見られることこそが本当に幸せな体験なのかもしれないとも思う。
控え室に戻りメイクや髪型を崩して日常に戻っていく。生まれたままの状態にしてからもう一度、今度は自ら薄く化粧を施す。ファンデーションでトーンを整え、アイラインで目許を軽く際立たせる。
私服に着替え迎えのタクシーを待つ間にSNSをチェックする。モデル仲間が二週間前に行ったテーマパークの写真を十三分前に投稿している。二十四時間経てばこの世から抹消される機能を用いてキャラクターの耳のカチューシャと見るからに原価の安いプラスチック製のサングラスを揃いでつけたツーショット。それを自分のアカウントで一言添えてメンションする。できるだけ明るくて未来を感じさせる言葉選びに努める。
その後、アプリ内のサブアカウントに切り替えてメッセージを送信する。
「三十分後ぐらいに着く」
すぐに既読になり、
「わかった。気をつけて。待ってます」
マネージャーが控え室にノックもせず入ってきた。スマホの画面が決して見られないよう咄嗟に体で隠す。
「送迎きたよ。準備できてる?」
私は間の抜けた返事を送る。
小ぶりなバッグを肘に下げて控え室を後にする。廊下を右にでてエレベーターホールに向かう途中後ろから駆け寄る足音がして振り返ると、そこには撮影中のままのリカちゃんが少々息を切らして迫っていた。
「どうしたの?」
「あの、浅山さん、この前誕生日でしたよね?」
リカちゃんは小さな紙袋の持ち手をほっそりとした両手で抱えていた。
「これ、お気持ち程度ですが。お誕生日おめでとうございます」
「うわぁ、嬉しいよ。開けていい?」
リカちゃんがしっかりと頷いたことを確認してから止めてあるシールを丁寧に剥がし中身を取り出す。ブランド名の入った麻袋、その中には藍色の可愛らしい缶に入ったクッキーが出てきた。
「これ浅草の並ばなきゃ買えないやつじゃないの?いい趣味してるね」
「はい、友達に付き合ってもらって並んで買いました」
緊張感を抱きながらも破顔するリカちゃんの声はうわずっている。
「ありがとう」
そう言って缶を開けひとつリカちゃんに手渡す。
「いや、全部食べてください」
「憧れの先輩を太らせる気なの?ほら」
「じゃあお言葉に甘えて、ひとついただきます」
一枚のクッキーを大事そうにゆっくり堪能するリカちゃん、それを見ながら私も一枚いただく。歯に当たった瞬間サクっと砕け上品にバターが香る。これはいい手土産を教えてもらった。
「これ美味しいね」
「本当に美味しいです」
西麻布の路地裏でタクシーを降車し慣れた足取りで都会を影を歩く。ビルとビルの間、小便臭が染み付いたアスファルトを進むといつもの出入り口に知らない女が折りたたみ式の椅子に腰をかけていた。光沢のないボロ切れのようなワンピースを着た女。
私を見るなり立ち上がり会釈してカラオケ店に先立って入っていく。リカちゃんと同年代ほどで華奢な飾り気のないイモっぽい感じ。こっちへきてまだ日が浅いのだろうと類推された。
「どうぞ」
薄弱な声が私の鼓膜を震わせる。
開いた小部屋の状況を留めるために彼女がエレベーターの上方向の呼びボタンを押しながら目も合わせず言う。私が先に乗り込み彼女が乗り込んでパネルの前に立ち『4』を押す。沈黙が狭い空間をあっという間に覆い尽くした。
数回の呼吸の後に四階につきエレベーターの扉が開き彼女の筋ばった手が『開』を押している。乗り込む時と同様に私の後ろを彼女がついて出てきて、大きめの歩幅で追い越し先導して目的の部屋の前まで案内する。
「こちらです」
今度は自力で防音扉を開いて中に入る。
「浅山美鳥さんのご登場だぁ!」
若い男の声がこだまする。すりガラスの奥に彼女の影は見えなかった。
「遅れちゃいました」
はにかんだ表情を瞬時に作り出しその場の雰囲気を察知することに注力する。私よりも歳が低くリカちゃんやあの女の子よりはいくつか年増な女が数人と、業界に幅を利かせているのであろうブラント物のTシャツに袖を通す肥えた知らないおじさん、その太鼓持ちの男が三人、一番奥には黒スーツ姿で眼鏡をかけた並木がいた。
「お邪魔していいですか?」
「こっちにくるな、おい藤原、この子いるか?」
「マジすか!?もちろんです!」
このおじさんにとって私はもうすっかりおばさんなんだろうという口ぶりで距離を置くように太鼓持ちの男の一人に私をなすりつける。こういう飲み会の真ん中にふんぞりかえりたがるやつは今ある地位が生涯安泰のものだとを信じて疑わない幼稚な成功者だ。モラルは金では決して買えないと反面教師になってくれる。
ここにいる誰もがこの実情を口外しないと思っている。実際口止め料として明らかに多い金銭をタクシー代と称して渡したりしている。
藤原の隣に腰かけて軽く話す。会話を交わすことでこの人たちも私と同じ被害者なんだと毎度新鮮に感じる。あのエレベーターガールと同じでこんなことをするために東京で生きていこうと一念発起したわけではないのだ。
「なんか飲まれます?」
「ごめんなさい、車で来ちゃったんです」
「さすが一流モデルは違いますね」
藤原は自分のレッドアイだけをデンモクで注文する。いかにも下衆の極みに可愛がられていそうな風貌だ。
「じゃあ景気付けに一曲お願いしますよ。みなさぁん、浅山さんのステージが始まりますよ!」
鼓膜を突き破らんばかりの猿の声真似が反響する。
「え〜え、しょうがないなぁ」
デンモクで適当にそしてちょうどいい選曲、ドリカムの『大阪LOVER』。
男どもはまだしも本当にダルいのは女たちだ。私がきた瞬間にスポットライトが分散してバツの悪そうな表情をしている。ザマァ見ろ。忌まわしき心を掻き乱して歌う。全員野垂れ死ねばいいんだ、クソッタレだらけの業界なんてこのカラオケボックスを中心に吹き飛んでしまえ。
「何度こ゛こへ゛来たって゛〜大゛阪゛弁は上手゛になれ゛へん゛し゛」
その心がきっちりと歌唱に反映されていたのか気がつくと室内にある十六個の目が丸くなって私に照準があっていた。もう後には引けない。最後のフレーズを喉を引き千切らんばかりに叫ぶ。
「大゛阪゛ぁ゛〜」
デンモクで演奏を止める。すっかり静まり返ったカラオケボックスの中心は確実に私だ。強張っているであろう顔面を崩す。
「はぁ〜久しぶりに歌うと気持ちいいですねぇ〜」
沈黙を破り脱いでいた猫面を被り直す。
「それはよかった」
おじさんから声が漏れ出す。
どうだ驚いただろ。私はお前らを圧倒的に見下してんだ。
さっさと帰ってクソして寝ろ。
私の念も虚しく会は続いた。下級人間どもによる下手なお歌で耳が腐りそうだった。ってか半分腐った。しかし幸いその場にいる人間の中で私は終始浮いていてあの後誰からも声をかけられることはなかった。
お手洗いに行くと言い残しカラオケ店から抜け出したのはそれから小一時間後のことだった。店の前にはまだあの女がいた。じっと俯いて生気を失った伏目がアスファルトに向けられていた。
「これで温かいものでも食べな」
私は財布から一万円札を出して女に渡す。
「どうも」
札を見てそれをスッと取った。目は合わない。上から眺めた女のキューティクルは瀕死状態だった。
「その金は俺に渡してほしいな」
後ろを振り向くとエレベーターから並木が降りてきていた。彼は今日もパキッとノリのついたスーツを自慢の長身を生かして綺麗に着こなしていた。
「もうすぐ返せる予定だから待ってよ」
「すでに結構待ってるんだがなぁ」
「待ってはいても困ってはないでしょ」
並木はジャケットの内ポケットからマールボロメンソールのボックスを取り出し一本咥え火をつける。
「いるか?」
並木は椅子にへたれこんでいる女に一本分けてやろうとするが女は首を振って断る。ボックスを握る並木の左手が私に向く。
「メンソールは趣味じゃないの」
「あっそ」
夜空を見上げると都会の光を反射した雲が覆っていた。雨が降りそうだ。
「じゃあね」
「気をつけて」
並木が煙を吐くついでにキモい言葉も吐いた。
「何よ、気色悪い」
「きちっと返してもらわねぇとだからな」
港区は大きな道に出ればゴロゴロとタクシーが走っているため空車を探すのに骨は折らない。ワゴンタクシーに乗り込み自宅付近の交差点に向かってもらう。耳の中でいまだ鳴り響く不快な音たちに吐き気を催す。
下車してしばらく歩き自宅マンションの裏口からロビーに入りエレベーター内でしばし過ごし玄関の扉を施錠し入室する。同居人のシャワーを浴びる音を聞き洗面所に向かう。
「ただいまぁ」
流れる水の音に負けないように帰宅を知らせる。
「おかえりぃ」
彼も同様に返事をする。
三人掛けの革張りソファに寝転び持っていたハンドバッグからスマホだけを取り出しバッグはどこかへ放り、メインキャストとして出演する来週公開の映画の告知をSNSで行うためアプリを開く。比較的自分が良く映っている写真を選びそれに文章を添える。
「#瞳を眺めている、いよいよ来週公開です!私はヒロインの友人で恋敵でもある高塚恵美を演じています。自分と恵美を重ね合わせながら試行錯誤して演じました。ぜひ多くの人に届いてほしい大切な作品です!4月10日は映画館に集合だ!」
文字を紡いでいる最中にシャワーの流れる音がドライヤーの送風音に変わった。青い『投稿』ボタンを押して今日のSNS活動は打ち止めてメモアプリを立ち上げる。軸となる馬をそろそろ考えなくちゃならないが甲乙つけがたい出走馬の並びに焦ったく、いっその事人生で経験したことのない量の馬券を買ってやろうかと考える。それぐらいしたって誰にも文句は言われないだろう。こちとらトップモデル様だぞ。
「おかえり、シャワー上がったよぉ」
すっきり短髪の川西拓也が猫撫で声を発する。私が体を起こしてソファを詰めると空いたスペースに拓也の尻が滑り込んでくる。
「ねぇ、美鳥」
「ん」
両目はスマホに吸い込まれたまま返事をする。
「シャワー浴びたらさ、今日、しない?」
「ん〜ん」
まだ目はブルーライトを浴びている。
「そんな気分じゃないかな」
「そっか」
拓也の項垂れようを感じ取りようやく顔を上げる。その表情は脱力感で染まっていた。
「どうした」
「したかった。悲しいぜ、俺はスマホ以下か」
「そんなこと言わないの。シャワー浴びるね、また日にち合わせてしよ」
スマホをスリープにしてソファから立ち上がりフローリングに転がるハンドバッグを拾い上げスマホを収納し自室へ向かう。
「絶対だよぉ」
「はいは〜い」
ウォークインクローゼット内は私がグローバルアンバサダーを務める『Cu Nada』の商品で逼迫している。今日のお召し物らを所定の位置に戻していく。ヘアアクセサリー、コート、ジュエリー、カーディガン、シャツ、スラックス。下着も全て脱いでしまって素っ裸になり浴室へと向かう。
手に持つ洗濯物はドラム式洗濯機に入れて棚からバスタオルを取り出しタオルラックにかける。ふと鏡に映る自分と目が合う。
渋谷のカフェぶりだね。あなたもやっぱりそうだよね。この街が、この業界が、この世界が、穢らわしくて、憎たらしくて、猜疑が満載で、ホントにヤになっちゃうよね。わかるよ。
でもね、本音を言うと、あなたの言うことは何一つ分かりたくないんだよね。汚いあな たを肯定したくないんだよね。リカちゃんみたいな純朴さを、喉から手が出るほど欲してるんだよね。私って弱いよね、ごめんね。
でも安心して。今のところそんなこと、できそうにないからさ。一緒に進んでみない?地獄まで、行こうよ。あなたと一緒ならきっと地獄も綺麗だと思うんだ。あなたもそう思うでしょ、そんなに悪くなさそうでしょ。
大丈夫だよ、私たちは。この生き地獄に付き合ってくれて、ありがとう。
「どうした!?」
いつの間にか拓也が隣に立って私の肩をさすっている。
「っへ?」
顔を上げて鏡を見ると私は情けなくひしゃげた顔して涙を流していた。
[続]
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