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Movie:『82年生まれ、キム・ジヨン』(2019, 🇰🇷)(#18)
瑛人『香水』を聴いていたら…
朝、ランダムに曲を聴いていたら瑛人の『香水』が耳の中に流れ込んできました。
“どうしたの いきなりさ タバコなんかくわえだして 悲しくないよ、悲しくないよ、君が変わっただけだから”
これはその歌詞の一部です。
別れた彼女は元々タバコを吸っていなかったようです。
だからタバコを吸っていることに彼は驚いているのですが、それをどうして悲しいと思うのだろう、とふと疑問が湧きました。
彼は悲しくないと否定していますが、否定するほど悲しさが強調されてしまいます。
推測するに悲しくなった理由は3つあります。
① この男性がそもそもタバコが好きでない
(自分の嫌いな方向へ変わった、だから悲しい)
② 女性がタバコを吸うのを好ましく思っていない
(悪い方向に変わった、だから悲しい)
③ この男性が知っている女性は何かの理由で変わった
(良い悪いではなく、彼がその変化を知らなかった、だから悲しい)
この曲はヒットしているので少なからず、多くの人に共感を得ています。
つまり心情として上記の3ついずれか、一部または全部がなければそもそもこの詞自体存在しません。
(もちろん元彼女が変わらないままでも、この歌詞は存在しませんが、夜中にいきなりLINEしてこないかもしれません)
でも、よくよく考えてみたら女性がタバコを吸うのを悲しいとか悲しくないとか感じるのって、何か勝手な考え方ではないですか?
どうして彼は"彼氏"に格上げされたのだろう?
ところで中国語の彼氏・彼女に相当する言葉を御存じですか。
男朋友(=彼氏)、女朋友(=彼女)
朋友=友達の意味ですので、文字通りなら男友達・女友達です。
英語のboyfriend/girlfriendと一緒ですね。
ですが日本語の場合、元々彼と彼女という言葉があるのに恋愛の文脈になると男性側だけ敬称の"氏"が付きます。
実はこれ、1929年に流行した言葉だそうです。漫談家の徳川夢声が、三人称の男性の代名詞で「彼氏」という言葉を初めて使ったことに端を発し、その後、恋人の男性の意味として定着していったそうです。
元々「彼女と彼の会話」という一文を書いたとき、組版(紙面の配置・レイアウトする工程)上で1文字スペースが空き、「氏」の文字で埋めただけだそうです。
ですので大した意味を持っていません。
ただ“彼氏”とすることにより、響きもいいし、足利氏、曽我氏のように“豪族感”が出て男性自身も優越感が擽られたのかもしれません。
上記は一例ですが、由来は何でもなくても、慣習や文化の落とし込まれ世界にみな生み落とされていき、それに意思なく触れなくてはならない――、その過程で違和感を覚え、抗っていた一人がキム・ジヨンでした。
『82年生まれ、キム・ジヨン』
『82年生まれのキム・ジヨン』には韓国特有の問題があります。
たとえば“チェボル”と呼ばれる財閥依存型経済、朝鮮戦争停戦状態等です。
しかし、現在こそ夫婦別姓ですが、結婚観や社会的空気など日本と似ています。
また2020年、合計特殊出生率は0.92と1を下回っています。
合計特殊出生率とは1人の女性が生涯に産む子どもの推定人数を示す指標です。(※日本は1.36)
日本でも指摘されている通り、働きたい女性に対する育児の負荷が大きかったり、それを良しとしない社会的空気、慣習、文化の存在があったり、これまで維持されていた専業主婦と専業会社員の機能不全とそこに纏わる現状維持バイアス、核家族化等々、時代が要請したもの、或いはそうでないもの、挙げれば際限ないですが、間違いなくいえるのは現在過渡期にあるということです。
過去を評価する人は過去の良い部分を賞賛しがちですが、現在の状況で過去などいくらでも良いものに変えられます。
言い換えれば、現役世代こそ、時代の問題の当事者なわけです。それは通過儀礼的なものかもしれませんが、そのまま人々が維持継続を求めなかった答えとして指標は教えます。
社会状況には変化の需要があり、むしろ変化が求められています。
キム・ジヨンはまさに変化の要望と不変の要望の間で板挟みとなっていたのでした。
彼女の思いを想像してみよう
映画では男性が出てきますが、小説では男性の色より女性を取り巻く“空気”のような存在としての男性と“男性社会”、生きてきた時代に纏わる様々な問題とともに描きながら進んでいきます。
どちらでも印象的なのは精神科を通して展開していることです。
なぜかというと、ポストモダニズムの代表的著作でもある『アンチ・オイディプス』において“資本主義社会と精神の安寧を図るため分裂症者になる”といった趣旨があったからです。
平たく言えば、この社会で生きるには分裂症(=統合失調症)になる方が健全というわけです。
彼女の問題を、彼女だけの問題と割り切るのは楽です。
しかし、本当に彼女とその家族だけの問題でしょうか。
絶え間ない時間の中で、揺らぎ、他者とともに海原を航海し続けます。
さもなくば沈没することを知っているのですから。
また小説も映画も世界中で翻訳されています。
その理由とともに彼女はどういった思いを抱えて生きてきたのか、全てをすぐに改められないかもしれませんが、寄り添うことはできればいいかもしれませんね。
今回の映画 / 書籍
『82年生まれ、キム・ジヨン』(映画:2019年公開)
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