【塊】変革した意識
私が足踏みをする度に一つの生命が死ぬ、必ず一歩につき一つだ。靴の裏には既に磨り潰されて見分けがつかなくなった生命のペーストが、靴底の模様を埋めるように密着している、うっすらと黄色く粘ついている、そうして日を追うごとに歩きにくくなった私はさらにその生命を引きずりながら歩いていく、一日一歩とは言わず、数千歩、それでも少ない方だ、スマートフォンから御叱りを受ける、なんで歩かないのか、それでも人類なのだろうか、もっと進歩したまえ、私はお腹が空いてごはんを作り始める計算になる。
零れていく生命もあるだろう、零細な香りを漂わせてだんだん茶色に変色し、回収業者も尻尾をまいて逃げてしまうかもしれない、ラジオでそういった問題について論じていたけれども録音していなかったために歴史的証言となった、大きなオープンリールのテープに途切れ途切れで音声が続く、私は、と、今の言葉では言うのかもしれない、私は、足を一つ踏む度に、一歩につき一つの生命を亡くしたのだろうか、思考の強度の強い生命体はわずかにそのことを念頭に置きながら、別の言葉を喋る、もっとも、思ったことがそのまま言葉にあらわれるなんてことは、金輪際あり得ないし現在だってそうだ、実は全く別のことを考えている、書くとは発音するとは記録とはそういうことなのかもしれない、説教臭くなるのはやはり本音を隠しているからだ、明日から上司をそういう目で見つめるのであればこの文章も多少は意味があったのかもしれない、どちらでもよい。