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喫茶店にてカップルの別れ話を盗み聞き

喫茶店で読書をしていると、隣の席にカップルが座った。

男の声がイヤホン越しに聞こえる。

「先月あった希望が薄れるほど不安が強い」


え?なにその文学的なセリフ!
いったい何があったの?!

思わず音楽をOFFにしてイヤホンそのまま聞き耳を立てた。
斜め横の男の顔をチラ見すると30代前半くらいだろうか。
真横に座っている女の顔は確認しづらい。服装と声からして20代後半くらいと推定する。
(※セリフは結構変えております)

女「頑張ろうと思ってる

男「お互い努力して頑張って保ってる状態だよね。頑張って続けていくもの?」

小説のセリフのような会話に、わなわなと興奮し始める。
私は自慢じゃないがamazon Prime Videoの超ヘビーユーザーだ。
毎日キッチンで作業している間、ご飯を食べている間、おそらく3時間くらいずーーーっと映画かアニメかドラマを見続けている。
だから、人よりも多くの物語に触れている自信がある。

その私が、

Prime Videoのどの物語より二人の会話に大興奮している!


女「何を頑張ったらいいのかわからないから、教えて欲しい。」

男「教えても、それは嫌だというじゃない。」

女「私が頑張ることで疲れてほしくないって言われたから、できる範囲で頑張ろうと思ってる」

男「それって頑張らないってことだよね。自分から諦めてどうするの?俺だけ頑張ってるよね」


何を頑張るというのだ?

核心に迫らないから、なぞなぞのようだ!

会話だけとりだすと、ドラマにとっては退屈なシーンになるだろう。
しかし、隣の席で臨場感たっぷりで聞くととんでもない刺激だ!

彼が提案した「頑張ってほしいこと」ってなんだろう。
彼女が「疲れて頑張れないもの」ってなんだろう。
例えば、家事とか?メールの返信とか?会う回数とか?
いずれにしても、家で話せばいい。
喫茶店でわざわざ深刻に話す内容でもない気がする。

ああ!ドラマで見るよりも続きが気になる!
いったい次にどんな言葉が紡ぎ出されるんだ!
トイレにも行けやしない!


1時間くらい核心を避けるような会話がゆっくり続き、
ついに出てきた。

男「数ヶ月前に約束したのに、また元カレに会ったよね?

そこかーーーーー!!!


女「あなただって、内緒で女性と会ってたじゃない。
しかもあなたの場合、向こうから来たら誰でもいいんでしょ。」


1時間くらいしてようやく核心に迫った。
どうやらこの二人は互いに異性と内緒で会っていたらしい。

頑張るとは、異性とこっそり会わないこと

だったようだ。

この後二人は、どんどん険悪なムードになり、無言で店を後にした。

正直、
期待するドラマチックな展開ではなかった。


これまで、全人類の多くの男女が元カノ元カレの話題で険悪なムードになってきただろう。
そう、決して特別ではないケンカの理由であった。
しかしこの特別ではない内容が、私にとってPrime Videoを見るより刺激的だったのだ。


いやいや、ドラマじゃないし。
2人が真剣に話してるのに興奮するなんて?倫理的にどうなの?
だって聞こえてくるんだもの…!
対話の介入できるんならしたいけど、突然すぎて迷惑だろうし。
できることとしたら、、聴くことしか(その聴くことちゃうし)。

現実は、ドラマより奇なり

と云うが、これは起きたことの波乱さというより「リアルの刺激」のことなのではないか。

以前『対峙』という映画を見た時に、当事者目線で、

「こんなドラマチックなこと起こらないよ」

と、興醒めした気持ちになったのを思い出した。

映画の内容を簡単に説明すると、
アメリカの高校で、生徒による銃乱射事件が勃発。多くの同級生が殺され、犯人の少年も校内で自ら命を絶った。それから6年、いまだ息子の死を受け入れられない夫妻が、加害者の両親と会って対話をする映画だ。

ネタバレだが、最終的に夫婦たちは本音を語り合うことで苦労を分かち合い、またいつでも会おうと言って別れた。
ドキュメンタリー仕立てにした映画だったのだが、あまりにも感動的にまとめられている印象だった。
現実は、こんな短時間で関係性が解決しないし、心が納得いくはずがない。
会話の内容だってもっと地味で無意味なはずだ。解決せず、保留のまま進んでいくのがリアルだと思う。
だから、ドラマチックだったが故に、私は退屈で寝てしまったのだ!

しかしこれは、「スクリーンの前」で見た観客視点の感想だ。
今回は「数センチ隣」で起きた現実の話。

現実の臨場感のもとで起きるドラマは、たとえ奇想天外でなくてもすべてがエキサイティングなのである。
自分の身体を伴った体験こそがドラマチックであり、

現実は、ドラマより奇なり

の意味するところなのではないだろうか。

今回は隣の席で起きた話だったが、

自分の身に今起きていることは
すべてエキサイティングなはずである。
私たちは常にドラマの渦中を生きているのだから。


ところで、愛とは、頑張るものなのだろうか?

「愛は技術」とフロムが言うように、意識して良い関係を保つことも大切。
しかし、無理や義務では愛は務まらないだろう。

私は二人に、永遠に解決しなさそうな「問い」のお土産もらってしまった…。





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