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1228「茅台酒飲んだことある側の人間」

さすがに3日も連続して遊園地に行くのは、親も子供も疲れるので、今日は中日で何もせず、宿の近所の安いファミレスっぽい朝食ビュッフェ(なんか、アメリカ南部にこの業態が多いような気がする。北の方にはこういうのない)に朝飯を食いに行って、スーパーに買い出しに行く。その他特筆すべきことを何もしていないので、日記的にも特に何も書くことは無い。

1つ重要なことがあるとすると、嫁の3人目の授乳がそろそろ終わりつつあるので、ようやく酒を飲めるようになったということで、2人目を妊娠したのが5年前、ちょうどアメリカに越してくる直前で、2人目が卒乳する前に3人目ができたので、要するに彼女はアメリカに移住してきてから酒を飲んでいない。もともとチョーヤの梅酒をちょっと飲んで酔ってしまう程度に酒に弱いし、そんなに飲む人ではないが、ずっと飲みたい飲みたいと言っていた。彼女が酒を飲めない間に私は何度へべれけになったことか。

こないだの日曜日、来客が会った際にちょっとだけワインを飲んで解禁したが、今日はもう少しちゃんと解禁しようということで買い出しの際にワインを買った。

ところで、自分にとって、酒といえば水滸伝の酒である。水滸伝は反体制の好漢たちの話なので、とにかく酒を飲む。登場人物が通りすがりの酒屋で肉を食いながらしこたま酒を飲んで泥酔して虎と戦ったりする。一番うまそうなのは、登場人物の魯智深という坊主が、修行中に我慢しきれずに飲んで泥酔して仁王像と戦ったりするときの酒で、この、しばらく飲んでない後の久々の酒であることも相まって、「カイジ」で主人公のカイジが地下労働施設の給料日に久しぶりにビールと焼き鳥を食うシーンに匹敵するうまそうな酒加減だ。

中学生のときに水滸伝を初めて読んで、この酒のうまそうな感じに感動して、ずっと「大人になったらあの酒を飲んでへべれけになるんだ」と思っていた。で、調べると水滸伝で飲まれている酒は中国伝統の白酒らしい。白酒は、日本では馴染みがないが、コーリャン(モロコシ)を原料とした蒸留酒だ。蒸留酒なのでめちゃくちゃ強くて、40-50度ある。最初に飲んだときはものすごく驚いたというか、ドン引きした。匂いが瞬間接着剤の臭いに似ているのだ。なかなか強烈なので、かなり飲むのに勇気がいるし、強いからといってちびちび飲むと、香りが鼻について辛くなってしまう。水滸伝の人たちは、こんな瞬間接着剤をぐびぐび飲みながら高俅(悪者)と戦っていたのか。

というわけで台湾だったかで最初に白酒の一種である金門高粱酒を飲んだ際には、途中でギブアップした。実際中国でも台湾でも、白酒というのは基本的に「おじさんの酒」だったり、結婚式とかで飲むような酒で、若い人は飲まないものだし、咎められることはなかったが、そんなことでは水滸伝の好漢にはなれない。奴らはこの瞬間接着剤たる白酒を椀に何倍も一気飲みして虎と戦うのだ。

私は、子供の頃からの夢だし、どうしても水滸伝の好漢になりたい、ということで何度もチャレンジした。ようやく白酒の味を理解したのは結構最近のことだ。白酒にはコツがある。あれは、チビチビ飲んではいけないのだ。中国では白酒は「乾杯(かんぺい)」と言って小さい盃に入れて一気飲みする。これは実は合理的で、白酒というのは一気飲みすると後味がスッキリして、瞬間接着剤感が上品な後味に変わるのだ。同じ蒸留酒だからといって、ウイスキーや焼酎とはぜんぜん違う。白酒は一気飲み専用の酒なのだ。

その後は、ちょっと前まで会社がニューヨークのチャイナタウンにあったのもあり、社員の誕生日パーティーとかになると近所の酒屋で安い白酒を買っては飲んでいたし、中国の仕事が増えて、ついに白酒最高峰の貴州茅台酒も体験した。世界には、茅台を飲ったことがある側の人間とそうでない側の人間しかいないが、私は飲んだことがある。周恩来は風邪を引いても薬は飲まず、茅台酒を飲んで治したらしい。

というわけで、最近は仕事に中国に行くと「今日は白酒飲むの?」と言われるようになった。もう少しで好漢になれるかもしれない。

という以上の「白酒を覚える」というのも、嫁が酒を断っている五年間の出来事なので、ありがとうという気持ちでいっぱいです。