相撲警察と、日本のメタル・ジャーナリズムについて④
本稿では、大相撲だったりヘヴィメタル音楽だったり、ある領域?での決まりだったり慣例だったりとかを新参のファンに対して厳しく注意したりする「○○警察」な方々の行動から考えたことについて書いているが、別にその行動をどうこう言いたいわけではない。そういった「警察モード」の功罪なり、文化的な意味について客観的に考えているだけだったりする。
前回触れた日本のヘヴィメタル専門誌「BURRN!」が、1980年代から90年代にかけて、日本のヘヴィメタルシーンの言論をリードする存在だったこと、その上で、「メタル警察」的に、メタルとして認められない存在、様式にはまらない存在に対して、かなり排他的で攻撃的なスタンスを取ってきたことを書いた。言論をリードしていたのだから、同じような「警察的思考」を持ったメタルキッズは当時多くて、かくいう私も、そんな「メタル警察高校生」だったとも言える。
ちょっと話はそれるが、メディアにもファンにもいろいろなアプローチがある。当時の「BURRN!」の紙面を飾っていたいろんなインタビューやエピソードは、思えば、かなり音楽と関係のない、個々のミュージシャンが裏で見せる素顔だったり、編集者との個人的な交流(そしてその自慢?)だったりが多かった。編集の方が、ミュージシャンとどれだけ仲が良くて、どれだけ信頼されているかをドヤるスタイル。ある種、読者である自分たちとは隔絶された「彼岸」で展開される裏話は、そこに憧れる私たちには、とても眩しく見えて、憧れを深めさせるものだった。
前述の、「BURRN!」の初代編集長の酒井さんの懐古的なツイートがいくつかアーカイブされているのを見つけたが、まさにこんな感じだ。
みたいな。
一方の大相撲でもそういうのはよくある。最初に書いた「大相撲ファン感謝祭」なんて最たるもので、若元春が子供に声をかけてくれた、優しい! とか、背が高い熱海富士が一緒に写真を撮るためにしゃがんでくれた、かわいい! とか、力士のキャラクターに萌える人は多い。
そのうえで、相撲部屋や関係者と仲良くなって、その近密さ加減を周囲にドヤる感じの方も結構いる。ちょうどこないだモノマネ動画が少しバズっていたが、まあ、こんな感じの方だ。
若貴ブームくらいまでは「月刊相撲」のような王道の相撲雑誌に加えて、「VANVAN 相撲界」という、カジュアルファン向けの、まさに、力士たちのキャラクターを楽しむようなスタイルの相撲雑誌も存在した。
メディア側がこういうスタンスで発信するのは、インターネット以降は前時代的になってしまったかと思うし(フジテレビの衰退の理由なんかは、そのへんにあると思える)、関係筋に入り込めたコアファンがそれを発信できる状況はインターネットやソーシャルメディア的だ。そのへんは仕事柄いろいろ考えることはあるが、今回は掘らない。
前々回に書いたように、何しろ、大相撲の力士も、ヘヴィメタルのミュージシャンも、存在そのものが特異な人たちだ。力士も、メタルミュージシャンも、純然たる音楽商売ではなく、キャラクター商売であることは間違いない。なので、上記のようなメディアやファンのアプローチは、文化を豊かにするので良いことなのではないかと思う。興味なければ見なければ良いし。
一方で、そういうメディアやファンが、同時に前述の警察的な行動を取ったり、マナー違反に近いことをやったりして反感を買ったりすることもあるので、こういうアプローチそのものがヘイトを集めたりすることもあるが、それはそれ、これはこれな気もする。
重ね重ね、大相撲もヘヴィメタルも、本場所だけではない、楽曲だけではない総合文化なのだと思うし、スポーツであれ音楽であれ、私が仕事にしているテクノロジーみたいなものであれ、何か表現やものづくりをやっていると、周縁の営みが文化になっていくのは避けられないし、素敵なことだと思う。
それはそれ、なのだが、その文化に対して原理主義になってしまって、先鋭的な警察化が行われると、「BURRN!」を中心とした日本のメタル・ジャーナリズムの辿った破綻が待っている。
当時の「BURRN!」には、「日本人のメタルミュージシャンは載らなかった」と書いた。正確には、数バンドだけは掲載されていたが、表紙を飾るようなことはありえなかった。
それを象徴する有名な事件が、「聖飢魔II デビューアルバム 0点事件」だ。言わずと知れた日本を代表するヘヴィメタルバンドである聖飢魔IIの1985年のデビューアルバムを、前述の酒井編集長が、これも前述の、レビュアーが0点から100点までの点数をつけてレビューするというスタイルの「BURRN!」のレビューコーナーで、「色物」「邪道」「ヘヴィメタルに対する侮辱」とこき下ろして、0点をつけたのだ。下記の写真が、当該レビューだ。
予告通り横道にそれたけどつづく。次回で終わる気がする。