1221「この海で一番自由な奴が海賊王」
今日はいよいよプログラミングに復帰できる、というより〆切が今日なので復帰せざるを得ない。しばらくつくっているニューヨークの新しい美術館用のコンソールの実装で、既につくってあるフロントエンドのインターフェースとCMSとの連動部分を構築して、クライアントに連動デモを送らなくてはいけないのだ。体感的には8年ぶりくらいのopenframeworksだが、実際は1ヶ月半ぶりくらいだ。
やはりプログラミングは楽しい。聴いている音楽も耳に入らないくらい集中して1つ1つ仕上げていき、1日かかると思っていたのに3時間くらい作業したら終わってしまった。すぐにキャプチャを撮ってクライアントに送って、喜んでもらえた。が、楽しい系の仕事があっけなく終わってしまって時間ができたので、休み前にどうにかしたいと思っていた原稿2本をやることにした。「あおぞら技術用語」は、今回も例によって嫌な思い出について書いた。この連載では、嫌な思い出と餃子の話ばかり書いているような気がする。
私は自分のすべての原稿について嫁にチェックしてもらっている。私の書くものは仕事柄どうしても技術的な話が絡むので、もともと精神病院の看護師という全然テクノロジー関係ない仕事をしてきた嫁が内容を理解できるかどうかは大きなポイントとなる。
私は自分のポジションを、「小難しいこと言ってる技術屋とそういうのよくわからない一般人(or クリエイターさん)」とを仲介するようなところに見出していて、それを「テクニカルディレクター」と呼んで仕事をしているので、うちの嫁が「わからん」と言ったら失格なのだ。
さらに彼女は「つまらん」とか「意識高すぎ」みたいなことは平気で言うので、なかなか通すのが大変だ。今回は、技術説明の部分で「わかりにくい」と言われて一度直してOKをもらった。その上で「文体が日記っぽくなっていて、やや違和感を感じた」とも言われた。
もう1つ、止めまくっていたFINDERSの連載原稿もやっと書いた。数ヶ月書けなくて困っていたので、ようやく書けて本当によかった。7000字になった。書き終わったタイミングで嫁が寝てしまっていたので、明日見せてまた直さないといけないかもしれない。
ここのところ、「転生したらスライムだった件」のコミック版をずっと読んでいる。現実世界で暴漢に刺された男が、ファンタジー世界にスライム(ただし、転生時にチート級のすごい能力を手に入れている)として転生し、魔物界をまとめたり、国をつくったりする話だ。もともとはライトノベルで、後追いでコミック版が出ている。アニメ版もある。アニメ版はコミック版をベースにしつつエフェクト等含めて、すごいクオリティが高くて、原作やコミック版を既に読んでいても全然楽しめる気がする。
この作品が素晴らしいと思うのは、その変な設定もさることながら、国づくりをして仲間を増やして版図を広げる、みたいな、戦国サクセスストーリーもののような、拡大のカタルシスをこのファンタジーというモチーフでつくっているというところだ。
すごく思い出すのは本宮ひろ志先生の「夢幻の如く」だ。
織田信長が本能寺の変で実は生きていて、海外に遠征してヌルハチを手下にしたり、イワン雷帝とケンカしたり、世界統一に向けて版図を広げていくという滅茶苦茶な話だ。多くの本宮漫画同様、終わり方が結構適当だったような気がする。
新世界に行ってからの「ワンピース」なんかも近いかもしれない。
こういう「人がどんどん集まってくる」系のストーリー展開は、結構示唆に富んでいて、「転スラ」の主人公のリムルにも、信長にも、ルフィにも共通する、「仲間が集まってくる人」のキャラクターの特徴は、「無欲」だということだ。
ルフィは海賊王になりたいわけだが、別に財宝がすごい欲しいとかではなくて、旅をするというプロセスが目的化しているようにも見えるし、ルフィの名言に「支配なんかしねぇよ この海で一番自由な奴が海賊王だ!!」というのがあるが、そこから垣間見えるように、ルフィは仲間を支配しない。囲い込むということをしない。彼にとって「海賊王」は「ビジョン」だ。
こういったストーリー展開に人々が共感するのは、それが現実世界の映し鏡でもあるからだと思う。
つまり、何かを仕切っている人が相手を自分の会社とかコミュニティとかに囲い込もうとしたり、「自分の山」をでかくしようとすると、そこには人が集まらない。人を集めるのではなく、人が集まってくる状態をつくるには、相当なレベルで利他的な状態をつくらなくてはならなくて、利他的でなくてはいけないということは、実現したいビジョン以外に欲が無いということかなと思う。
会社というか、会社を中心として職能コミュニティをやっていて、やっぱり常に「人が集まってくる状態」をつくれないかと思ってやっていくときに、「転スラ」とか「ワンピース」はすごい参考になる。
「ビジョン」と「欲」は、似ているようで逆の性質を持つので、超注意しないとダメだ。ビジネスクラス乗りたいとかそういう煩悩を口にしている限り、ダメだ。けどビジネスクラス乗りたい。どうすればいいんだ。