【文学フリマ】暮田真名『補遺』を読んで(箱森裕美)
いつもは客として、事前に欲しいものを調べてばーっと購入そして離脱することが多かった文学フリマだけれど、先日の5月6日の文学フリマ東京でははじめて出店側に立ち(しかも子連れで)、いつもとは違った会場の見え方にどきどきしたり、会えたかったひとたちに会えたり、お知り合いにもなった方もできたりと、周りにほんとうに迷惑をかけたり、すごい雑なまとめ方で申し訳ないけれども、とにかくいろいろあってとても刺激的だった。みなさん、ありがとうございました。
文フリからもう2週間近く過ぎたのに、なんだかずーっとぼーっとしている。ロスでしょうか。
出店しながらも、ほかのブースも回らせていただき、欲しいものはしっかり手に入れてきた。
今回はその中の1つ、暮田真名氏の川柳句集『補遺』のことを書きたいと思う。
『補遺』は、暮田氏の2017年から2019年、2年間の作品のようだ。
薄いピンクの地に、薄い紫の地がとてもポップでかわいい。
川柳って、俳句とかたちは似ているのに全然ちがうのでおどろく。
わたしの中ではどちらかというと、詩を読んでいるときに感覚が似ている。
読んでいると、体が反応する感じがするのだ。
水糊にみたされている城下町
叫びから生まれた暗い麦芽糖
白菜と鶏の水炊き シンギュラリティ
単語と単語のぶつかり合いに喜んで翻弄される。
1句目、ヴェネチアのような水上都市を思う(けれども、ヴェネチアのことをあまり知らないので舟でゆく昔の日本の城下町が浮かんでしまう)。小さい舟もオールもねばつくだろう。外から見れば水めいていて清浄なのに。
2句目、麦芽糖が唐突でありながら、まあ麦芽糖ならばそうなのだろうというおかしな納得感がある。
3句目。シンギュラリティの異様な存在感がこわい。でもシンギュラリティってこんなふうにいきなりどんとくるのかもしれない。
まばゆくてあばら並びに倦んでいる
常夏の棘だドレスだ常冬だ
わだかまるまだ見たことのないうさぎ
口に出して読んでみて、普段は行わないような唇と舌の動きを面白がる。
1句目の舌がねばつく感じ。途中途中に入るb音と、その間を埋めるようななめらかな音。2句目は、読み上げればなんだか気が強くなってしまいそうだ。3句目、読んでいると何回かに一度は、口からしゃぼん玉みたいに丸く唾液が生まれる。ネットで調べたら唾風船というらしいです。
口笛が近くの国に拐うなら
カラオケでオクラを茹でるうつくしさ
藻もしくは不思議の国のアリス ギロ
文字というかたちが構築されたさまを目で見て楽しむ。
しかくいかたちの多い1句目。かくかくした上五中七の並びから、すうっとした線の続く下五の2句目。ぽんと置かれた藻、そして間を開けたギロが不穏な3句目。
『補遺』を読んだときに自分の中になぜか浮かんだ言葉が、3月までテレビ放映されて、毎週欠かさず見ていた子供向けアニメ『HUGっと!プリキュア』で使われていたキーワード、「なんでもできる!なんでもなれる!」という言葉だった。
ことばを使って、わたしたちはまだまだいろいろなことができるし、いろいろなものになれる。そんなふうに思えた。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?