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【詩/リーディング用】世界が君に死を赦すから内なるしをもいのちづなとして(亜久津歩)

世界が君に死を赦すから
内なるしをもいのちづなとして

2019.6.15 サイタマポエトリーフェス
オープンマイクにて
亜久津歩

どうしてここにいるんだろう
どうしてここにいるんだろう
どうしてここにいるんだろう、わたしは
どうしてここに――いないんだろう
あなたは

微熱が重ねて潤ませる曇り空
いつの間にか また日曜日
火照るからだは内側から冷えていく
役に立たないたましいを窓辺に放って
春の薫り、水の匂い、雨を吸う

「何もない、ときみは嘆いたけれど」
「何かを手にしたつもりのわたしは」
何かを手にしたつもりの、わたしは――
(むしろいっそう みじめだよ)

あと一つを諦めれば きっと楽になれるのに
眼鏡を外すだけで輪郭を失う世界と
約束した気になっていただけなんだから

……どうしてここにいるんですか?

正気 らしきものを
とりもどしつつあり
あちらがわがすこし
とおくなったようだ

からだはこころより生き方を知っているから
おいしいごはんを食べながら
メメント・モリ メメント・モリ
死を想え、死すべきものよ?
飽食の時代 平和呆け と呼ばれながら
おなかいっぱい充満している

まっすぐ歩いてきたはずだ
誰もわからなかっただろう?

そう、

こころが くるしいときこそ
真っ向から打ち勝つべき! と
信じてきたわけですが
自分に負けない! とか 言って
ぶちのめしてきたあいつは 誰だったんだろう
ねえ、
いつ死んでも悔いのない生き方を求めてきたら
いつでも死ねる気になっていたね
ねえ、

雨ふる夜更け
テレビを消したあとの静寂
波のない海辺
心拍数
きゅうに予定のあいた休日
おかけになった電話は、
電話の届かない場所にあるか、
電源が入っていないため、かかりません。
グリコのおまけ
のりしろ
じんせいに ひつような よはく

ねえ、

「明日、死んでも悔いはないか
 そういう生き方をしているか」
あの日の自分に問われたら

「いやぁ、いっぱいあるよ」

なんて言って
頭かいて
笑う

からだはこころより生き方を知っているから
おいしいごはんを食べながら
メメント・モリ メメント・モリ
しあわせ呆け と呼ばれながら
ゆずり葉になりたい

沈みゆく街も 時を濡らす血も
穴のあいた空も 澱む土も
みな飲みこんで枯れたい
自分のためだけに生きるより
誰ぞのため と死ぬよりも

ここにいるわたしと――今、
ここにいるあなたと――今、
ここにいない あなた――

たった今 ひらかれた
すべてを摑もうとするてのひらに
新芽のような指先には
どうか やさしいものだけ

――死すべきものよ

死を想え、詩を想え、
詩と在るものよ
そして笑おう

消失点ならばとうに追い越してしまった
きみの置き去りにした四肢を手繰り寄せ
もろとも張り裂けンばかりに呼んでみる
取り戻した気持ちになれるから そして
かなしみは何度でもやってくるだろうが
沈んでゆく夕の暮れを美しいと思うのだ

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2019年6月15日に開催されました「サイタマポエトリーフェス」(主催:iidabiiさん)オープンマイクに参加しました。

5分間いただけましたので、わたしの第1詩集『世界が君に死を赦すから』と第2詩集『いのちづな』から何行かずつ選んでミックスして読んでみました。これはその原稿です。

自分のむかしの詩を読んでいると、書き直したい気持ちにかられることがあります(封印したくなるときも‥‥)。けれどこれも、当時の精一杯だったわけで。それに、この頃を好きだったと言ってくれる人もいて。もう手を加えようとするのはやめて、前を向くのがよいのだろうと思います。

それでもたまに、原点を感じたくなる時があって(帰ることはできないわけで)。6月はそんな月でした。だから読んでみました。5分だけ。

あの日聞いてくださったみなさん、いま読んでくださったみなさん、ありがとうございました。またお会いできますように!

#詩 #詩集
#朗読 #ポエトリーリーディング #クヮイ

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