かりそめの coffee break
これ程までに私を癒す匂いがあるでしょうか。
焦茶色のあったかい飲み物。インスタントながらも己の矜恃を示そうと放つその香りは、仕事にひたすら追われる私にかりそめの幸福をもたらす。
そう、コーヒーです。
苦いだけ、という印象を持つ方。是非とも「匂い」を味わってみてください。コーヒーを入れるところから。
フィルターにコーヒーの粉を入れる。水を沸かす。沸騰前のお湯が一番いいとか。そして、やかんからジューッと、あつあつのお湯が注がれる。
フィルターにお湯が注がれた瞬間、湯気とともにあの深みのあるあたたかい香りが目の前にふんわりと広がって、溜まった仕事疲れがじんわり溶けていく。
ふと思ったのですが、あの香り、「コーヒーの香り」以外に表現できるのでしょうか。少なくとも私の知る限りだと、芳しい、とか、深い独特の香り、とか。やっぱり、他のものに例えられない匂いだ、と言うことなのでしょう。
おっと、そんなことを考えていると、フィルターからお湯が溢れそうです。
フィルターの底から粉を濾したコーヒーが注がれていき、そのうちぽたぽたと雫となる。フィルターを持ち上げる。半分くらいですね。焦茶のいい色です。
残り半分。今度はフィルターにできたコーヒーの粉の壁を崩さないように、ゆっくりお湯を注ぐ。なんかこうするとより良いらしいです。
お湯が全て濾すまでの間、私はフィルターに鼻を近づける。スゥーッと深呼吸。肺がコーヒーの匂いで満たされて、脈にのって全身に、脳にかぐわしい香りが広がる。コーヒーの香りは脳を癒す効果があると聞いたことがあります。さっきまでの疲れが嘘みたいです。
おやおや、全部通ったようですね。フィルターを持ち上げ、最後にもう一度匂いを感じ、覚える。捨てるのが惜しいです。
さて、コーヒーが出来あがりました。ちなみに私はブラック派です。歳をとったせいか、なんだか苦味が欲しくなります。カップからやはりコーヒー豆を焼いた匂いがふつふつとあがってきます。さっきと同じように、鼻を近づける。
では一口。
スゥーと口に含み、あついあついと舌の上でチョチョイと転がし、飲み込む。「どこどこの土地のあの香り、あのフレーバー」なんてことは言えません。でも、この苦味とかコクとかが絶妙だ、ということは言えます。冷えた体があったまります。
嗚呼。
もうしばらく休みましょうか。
そうだ、どうせなら音楽でも聴きましょう。ジャズなんてどうでしょうか。Take Fiveとかいいですよね。
ちゃちゃんちゃちゃんちゃんちゃん♪
かりそめのcoffee break…優雅な音楽に乗せて
そして、半分くらい飲んだ時でした。
「ピンポンパンピンポンパンピンポンパン…」
おっとスマホに電話だ。会社からか…。コロナの影響で私は家で仕事をしています。
ふむふむ。
どうやら私の仕事に重大なミスがあったようです。
さて…、
かりそめの休憩が長期休暇になる日も近いのかもしれません。
本当なら慌てふためくところなのでしょうが、不思議と落ち着いています。これもコーヒーの香りの効果なのでしょうか。
椅子にすわり、コーヒーをもう一口。
ちょっと冷めたけど、うまい。
最後の一口を終える。
……仕事さがしますか。
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