我最早死ぬより他に詮方無し。 人の曰く死して華実の咲くものか。 されどその謂れに如何程の義や有るか。 斯様な処で華の咲く故も無し。 此の不浄の地にては一切皆悉く互いに喰い合い典諂し助くる者無し。 糧爭い奪う者また奪われ痴かこそばかり増して何とするものか。 汚泥の中にてもあれ尚も互いに貪り瞋恚の澱を積み増しむべしか。 我華咲かせたとて見る者も無し、解す者も無し。 斯様な地にて華の咲く意義こそ有るべきや? 我敢えて苦難甘受し此の地に在り続ける義こそ有りべけ
1 壁に二枚の絵画が掛かっている。 どちらも摩天楼の中にある部屋の調度品と合わせるように直線的で幾何学的なアールデコ調の紺地に金で縁取りされた額に納まっているが、その内容はまるで正反対であった。 一つは画布《カンヴァス》に敢えて荒々しく、しかし滑らかな油彩で描かれた二人の美しい紳士が座って何事か会話する絵である。 二人とも高い丸襟の上等なシャツを着てリラックスした姿勢でそれぞれのソファに腰掛けている。 片方の紳士は着こなされた三つ揃いの片手に雑誌を持ち、室内であ