電気自動車のポテンシャルのおさらい。

ツイッターで電気自動車に関する大変興味深い小論を見つけましたので、紹介します。

モータ制御で進化する自動車 (豊田自動織機技報 No.54 2007-9)
東京大学生産技術研究所 堀洋一教授
„@Šm‹êŠl†i00-00†j (u-tokyo.ac.jp)

2007年の記事ですから、もう16年も前のことです。電気自動車のメリットや可能性について忌憚なく、語られています。いま一度、EVの可能性について記事を引用しながら確認したいと思います。

まず、要旨の要旨です。

・タイヤの増粘着制御によって低抵抗タイヤの使用 が可能になれば、燃費は数倍になる。
・4輪独立駆動車を用いれば高性能な車 体姿勢制御が実現できる。
・モータトルクは容易に知れるので路面状態の推定が でき、「いま雪道に入りました」などという車ができる。
・キャ パシタには、寿命が長い、大電流での充放電が可能、重金属を用いないため環境にや さしい、端子電圧から残存容量が正確にわかる、などの優れた特長があり、車の世界 を変える可能性がある。

ふむふむ。では本論へ。

まず、冒頭で電気モーターのメリットが説明されています。

電気モータの最大の特長は、トルク応答がエンジン の 2 ケタ速いことである。エンジンが 500ms ならモー タは 5ms である。この 100 倍の差を使って、ガソリン と電池のエネルギー密度差100倍を取り返さなければ ならない。

モーターのメリットは変換効率が良いことだと説明されますので、トルク応答性に着目するのは意外でした。

 車は平行移動であるから原理的にエネルギーは要ら ない。ロスの大半はタイヤ路面間の摩擦で生じる。鉄 道のエネルギー効率が格段によいのは、摩擦のきわめ て少ない鉄車輪と鉄レールを使うためである。ただし 鉄車輪と鉄レールの組み合わせはよく滑るから、モー タによる粘着制御が不可欠である。

「車は平行移動であるから原理的にエネルギーは要らない」で???続出。「粘着制御」という言葉もこれも調べてもよくわからない。わからないけど、次に進みます。

次に、4輪駆動が簡単にでき、それによってガソリン車ではできなかった制御ができるようになる、と述べられています。

 4輪独立駆動にすればヨーレートそのものを制御入 力とする新しい制御系が組める。EV の 4 輪独立駆動 は、ステアリングやデフによる駆動力配分によって横 方向の力を発生せざるをえない従来の4WDや4WSと は本質的に異なるのである。

次に、トルクによる路面把握の話しが出てきます。

エン ジンはトルク発生機構に多くの非線形性を含み、モデ ルを正確に記述することは難しい。電気モータは電流 を観測すれば、発生トルクを正確かつ容易に把握でき る。すると、駆動力オブザーバという簡単な演算を用 いることによって、タイヤから路面に伝わる駆動力や 制動力を容易に推定でき、リアルタイムで路面状態を 推定することが可能となる。例えば車が雪道に入れ ば、ドライバに「今滑りやすい路面に入りました」な どという警告を出すことも可能になるから、安全性向 上に大きく貢献する。

この後論文はかなり技術的な話に入るので、自分は読んでてまったくわかりませんでいたが、そのあとに電気キャパシタの話がでてきます。

近年注目を集めているキャパシタには、次のような 特長がある
(1) ほとんど劣化しない(化学変化を伴わないので物 理電池といわれる) (2) 大電流の動作が可能(10kW/kg以上の放電が可能 で、通常数分で充電できる)
(3) 材料の環境負荷が小さい(重金属を使わない)
(4) 端子電圧から残存エネルギーがわかる(走行距離 がわかるので少ない搭載量でも安心)  
このようにキャパシタは従来の化学電池にない特長 を持つが、パワー密度は電池をはるかにしのぐもの の、エネルギー密度はようやく鉛蓄電池に追いついた 程度で、リチウムイオン電池の約1/10である。しかし ナノゲートキャパシタなどの新技術によって追いつく 可能性がある。

最後に、問題提起として
(1)永久磁石モーターの問題点の指摘
(2)インホイルモーターの可能性
(3)キャパシタの可能性

永久磁石については、効率が悪いものの、使い分けや制御の方法で改善できるとされています。次に、インホイールモーターについては引用します。

 インホイルモータに対しては根強い反対も 少なくない。その最大手はバネ下重量が増えるので論 外であるというものである。最近のインホイルモータ はずいぶん小型軽量になっているし、モータ本体がバ ネ下重量にならないような構造上の工夫も見られるよ うになってきた。  ガソリン車ではエンジンの振動はなるべく路面やド ライバに伝わらないようにしてきたが、電気モータの 発想は逆で、インホイルモータではモータの持つ良い 特性が路面に伝わりやすいので、制御面の利点を活か しやすい。
 インホイルモータによる 4 輪駆動車は、車体側に モータをおいた場合と異なり、1 個のトルクが抜けて も車体を回すような力は生じないことも報告されてい る。これは、4 個のうち 1 個でも生きていれば走るこ とができることを意味している

最後にキャパシタについて熱く語られています。分割して引用していきます。

 私の研究室で作った C-COMS ではキャパシタをイ ンバータに直結しているが、30V から 100V まで動く。 30V から 100V の間で動くということは、充電エネル ギーの 90%以上が使えることを意味する。電池ではで きない。
 キャパシタによる新しいライフスタイルは何か。そ れは「ちょこちょこ充電しながら走る電車のような 車」である。数日分のエネルギーをもつことが大前提 だった車に、外からエネルギーを供給する仕組みを作 る。エネルギー供給の問題がなければ、乗り物を動か すアクチュエータは電気モータが最適であることは、 鉄道が証明ずみである。電気モータの良さは無限にあ り、将来は他を犠牲にしてでも電気を使うようになる だろう。

このチョコチョコ充電が、煩わしいので電気自動車が普及しにくいのでこの点はあまり賛同できないのと、電池とキャパシタの違いがあまりわからないのですが、ここは勉強していきます。

次に、ここが論文の一番の見どころにも思えますが、自動車メーカーへの批判が述べられています(これが豊田自動織機の技報に乗っていることが驚き)

そもそも自動車会社の論理はあやしいところがあ る。「いつでも、どこでも、だれでも」使える車、すな わち、1回ガソリンを入れると400kmも500kmも走り、 速度も 160km/h ぐらいは出て加速もいい車でないと 売れないという。500km車は明らかにオーバースペッ クである。1日20kmも走ればよく、速度だって100km/ h 以上出したことはない人も少なくないだろう。

これについては本当に賛成です。4~500km走れることが当然に求められることもおかしいし、加速競争になっているのもおかしい。ミニカーは60km/hで、これはやや不足を感じなくはないが、下道専用で走るなら、確かにこれで十分だろう(なんとなく個人的にはもう+10%程度は許容してほしいが)。

キャパシタ電気自動車が普通になれば、ネット上で 適当な部品の組み合わせが選択でき、これこれの仕様 でと入れると値段はいくらですと出てきて、2 ~ 3 日 したら家まで配達される。すでにパソコンはそうなっ ている。これは車の産業構造を変えるかもしれない。  キャパシタは「エネルギーと知恵の缶詰(Can of Energy and Wisdom)」と呼ぶように、周辺の電子回 路の知識がないと使いものにならない。これは電気屋 にとってはかなり痛快なことである。また、キャパシ タの開発は一種の正義である。後ろめたい要素はほと んどない。

冒頭で、キャパシタのメリットとして重金属を使わないので環境負荷が低いという話もありました。このキャパシタというのは今後可能性がありそうです。「キャパシタの開発は一種の正義である」。素晴らしいパワーワード。一方で、キャパシタの開発のタイムラインはかなり長い時間軸のようです。

「いつかはキャパシタ」になるのはいつか。しっか り見極める必要があると考えている。少なくともエネ ルギー密度が既存の電池に等しくなるまで待つことは ないだろう。それは数年後か、十数年後か、数十年後 か。100 年もすれば、車はモータとキャパシタで動いていることは間違いないのだが。

【感想】
 やはり電気自動車の神髄はインホイールモーターによる4輪駆動。いまトラクションモーターの開発は、Xin1という形で電子部品を纏める方向で進歩しています。この辺はまだ技術の進歩によって二転三転ありそうです。 モーターも去ることながら、ポテンシャルという意味では、キャパシタの実用化のほうがインパクトあるのかなとも感じました。
 モーターに関しては、中国のレアアースの問題を回避するためにマグネットレス化は進んでいます。
 著者が批判するように、いまでもなお4~500キロ走れるEV、0-100km/h加速を競う状況が続いています。このような問題を是正するためにもバッテリー容量で課税をするような、法整備も必要かなと思います。

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