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秋の味覚は腑か

今季まだ食していなかった秋刀魚。
「高くて手が出ない」、「そのうち安くなる」と思いながら次第に気持ちも遠のきつつある感すらありました。

秋といえばかつて飽きるほど食べていた秋刀魚がこんなに高嶺の花になってしまったのは、昔ですと予想も出来ませんでした。

そうはいっても秋の味覚の代表格といえばやはり秋刀魚。


あんまが引っ込む

『秋刀魚が出るとあんまが引っ込む』
この諺は、秋に旬の秋刀魚を食べると元気になり、江戸で町医者の役目を果たしていたあんまにかかる必要もなくなる、という意味です。


どこを食べる?

そんなに元気になれるのならば、是非とも食べたいと思うわけですが、皆さん秋刀魚はどこを食べますか?

大きくは身と腑(はらわた)に分けられると思いますが、腑は好みの分かれるところだと思います。

思い出すのは父親や祖母が腑を好んで食していたので、かつて腑なんて食べられないと思っていた私は、腑が好きな家族に譲っていました。時として彼らからお返しに身の部分を貰うことすらありました。

そのような時は、相手の家族は腑だけを食べていることになっていたわけです。
それだけ美味しいとされる腑。

今では私も食べられるようになりましたが、ところで好んで腑を食べる魚として、秋刀魚は珍しいようにも感ぜられますが、なぜ腑を食べるのでしょう?あるいは食べることが出来るのでしょう?


理由

一般的にほとんどの魚の腑が食用に向かない理由は、胃の中に消化中のエサが入っていることが多いからです。

魚は死ぬと内臓から劣化を始め、家庭で捌くころには劣化が進行しておひ、場合によっては人の健康に影響を与えることすらあります。

しかし秋刀魚の腑を食べることができる理由は、内臓に消化物がほぼ入っていないからです。というのも秋刀魚は胃を持っておらず、食べ物となる動物プランクトンを数十分で消化してしまう「無胃魚」と呼ばれる魚だからなのです。

もう一つの理由としては、秋刀魚漁は夜間に行われます。しかし秋刀魚は基本的に日中にエサを捕食します。つまり、捕れた秋刀魚の胃にはほとんどエサが入っていない状態となります。

これも秋刀魚の腑を食べることができる理由なのです。

秋刀魚の腑には、特有の苦みがありますが、あの苦さは「胆のう(胆汁)」の味なのです。そして腑にはビタミン、鉄分、カルシウムなどの栄養が多く含まれています。


赤い糸

秋刀魚の腑をよくみると、時折、赤のあるいは鮮やかな朱色の糸状の物体が見られる場合があります。

実はこれは秋刀魚に寄生している生物の『ラジノリンクス』という鉤頭虫類の寄生虫なのです。

体長は5mmから10mmほどで、秋刀魚以外には主に鰹や鯖などに寄生しています。主に魚の腸管に寄生していますが、人間に寄生することはありません。

しかしながら生きた状態で食べてしまうとラジノリンクスの吻が口内及び喉に引っかかってしまうそうなので注意が必要です。


カラダの穴

サンマの表皮をよく観ると、小さな穴が開いていることがあります。

この穴は『サンマヒジキムシ』と呼ばれる体長10cmほどの大きな寄生虫が開けた穴です。

その名の通り、ヒジキっぽい見た目で、体表に黒いヒモっぽいのが付いていたら『サンマヒジキムシ』です。

大抵、水揚げされた際や販売される前に取り除かれているのですが、新鮮なサンマにはくっついている場合があります。

『サンマヒジキムシ』も誤って食べてしまっても人体に害はありません。

サンマヒジキムシはサンマの体内に潜んでいる場合があり、冷蔵庫で1晩置いておくと中から出てきている場合がありますが、その際は引き抜いてしっかり中まで火を通して食せば問題ありません。

また体表の穴の原因は『サンマウオジラミ』の寄生していた痕跡の場合もあるようです。

この『サンマウオジラミ』も人間に寄生することはなく、万が一、食べてしまっても問題はありません。



秋刀魚おまえもか…

アニサキスについては、先日鯖の記事をご紹介した際にも触れました。

アニサキスは秋刀魚の内臓にも寄生しています。そして魚の死後は筋肉である身の部分へと移動していきます。

スーパーで生食として販売されている秋刀魚は、通常冷凍処理をしてありますので、アニサキスは死滅していますから刺身で食べても大丈夫です。

一方、加熱処理と書いてあるものはアニサキスが身へと侵入している場合があるので、刺身で食べるのは危険です。


おわりに

先日、鮮魚店で新鮮な秋刀魚のお刺身を購入し食しました。

脂が乗ってて非常に美味でした。

そして本日やっと塩焼きを食べることも出来ました。

これでようやく秋の味覚を堪能した心持ちになりました。

しかし食べながらも、これからますます高嶺の花となってしまいそのうち鰻のように「年に一回食べられたら…」というような存在になってしまうのでは、と危惧する思いがあり、かつてのような気軽な気持ちで食べることが出来なくなっている己に気づき、それがまた寂しさを募らせるのでした。

ですのでしっかりと味わって戴きました。

皆様もお手の届くうちにどうぞお召し上がりください。

そのうち『秋刀魚は水族館で眺めるに限る』あるいは『秋刀魚は香りを嗅ぐだけに限る』なんて落語『目黒の秋刀魚』よろしく食べられる魚ではなくなってしまうかもしれませんゆえ…。


おしまい

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pirokichi
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