きっかけはコンプレックスから
幼いころから自分の顔が好きになれなかった。
太くて濃い眉、明るいところで写真を撮ると目に影ができるほどの彫りの深さ、厚めの唇、アンバランスなパーツの配置、エラが張っていてがっちりした骨格。
そんな私の顔立ちは目立ってしまうらしく、周りから浮いている感じがするのがとても嫌だった。
目が茶色くて“中国人”と呼ばれたり、とある男性お笑い芸人に似ていたようでその芸人さんの名前で呼ばれたり、ストレートに“ブス”と言われたりした。
自分ってなんでこんなに不細工に生まれてしまったのだろう、父も母も特段イケメンでも美人でもないけれど、普通の顔なのに。
みんなみたいに可愛くなりたい、でも顔は持って生まれたものだから仕方ない、人間顔じゃないとか言うけど実際少しは関係あるよなあ、なんて悩んでいた中学2年生の夏休み。
陸上競技部の私は基本外で練習していたのだけれど、クラスで可愛いなと思っていた女の子がとても色白で、自分の日焼けが気になって日焼け止めがほしくなった。
貯金したお金をお財布に詰めて、薬局に向かった。
薬局では日焼け止めだけ買うつもりだったのだけれど、せっかくだからとお店全体を見てまわることにした。
化粧水コーナーを見たとき、おびただしい数の化粧水のボトルに圧倒されたところで、ある思いがよぎった。
持って生まれた顔は変えられないけれど、肌は努力次第で変えられる、かもしれない。
その突然のひらめきにそそのかされ、中学生のお財布に優しめの各1,000円くらいの保湿化粧水と乳液を日焼け止めと一緒に買った。
これで肌が綺麗になれば、不細工な顔も、少しはマシに見えるかもしれない。
私が本格的にコスメに触れたのは、こんなネガティブな、コンプレックスからきたものがきっかけだった。
お風呂上がりにわくわくしながら化粧水を肌にのせてみると、肌が化粧水を飲み込んでいくような感覚、水道水を肌にかけるのとは全く違う心地よさがあった。
続いて乳液を塗ると、化粧水で潤った肌が守られた感じになり、潤いが閉じこめられたのがわかった。
化粧水と乳液で仕上げた肌は潤ってもちもちしていて、ずっと触っていたくなるような触り心地だった。
翌朝起きて肌を触ってみるといつも以上に柔らかくて、すべすべで嬉しくなった。
鏡を見てみると、普段より肌が綺麗に見えるような気がして胸が弾んだ。
わたし、今より可愛くなれるかもしれない!
気分が明るくなって、外に出かけたくなって、買ったばかりの日焼け止めを塗って出かけた。
向かったのは薬局。クラスの可愛い女の子が持っている色つきのリップクリームを買ってみようと思ったのだ。
リップクリームコーナーに行くと、想像以上に種類が豊富で、クラスの女の子が持っているリップクリームの他にも魅力的なものがたくさん揃っていた。
迷いに迷った結果、自分に似合いそうな色つきのリップクリームと、可愛らしいパッケージの保湿効果が高そうなリップクリームを選んだ。
他の化粧品を売っているところも見てみると、“ナチュラルななめらか肌に!”と書いてある商品が目に入った。
パウダーファンデーションのようなパッケージのフェイスパウダーだった。
テスターを手の甲に塗ってみると少し肌が明るくなったように感じて、買ってみようかな、1,000円くらいだし、洗顔料で落とせるって書いてあるし、とフェイスパウダーをかごに入れた。
家に帰ってすぐ、フェイスパウダーとリップクリームを使ってみた。
あれ、私、不細工だけど、前より不細工に見えないかも…?
日焼け止めの上にフェイスパウダーを薄く塗っただけで肌の表面がなめらかで整って見えるし、唇が潤っていて色が少し足されているだけで血色がよく見える。
これだけのことでこんなに変わるんだ!と衝撃を受けた。
中学校は化粧禁止だったのでフェイスパウダーは休日出かけるときにしか使っていなかったけれど、スキンケアやリップケアはしっかりするようになったし、日焼け止めも顔には肌が綺麗に見えるタイプを使うようにした。
化粧水や乳液、日焼け止め、リップクリーム、フェイスパウダーと、一気に買ったので中学生にとっては大きな出費だったけれど、肌はもちろん気持ちの面でも良いことがたくさんあったので全く後悔はしなかった。
毎日お手入れをすることで肌の調子は上向きになり、毎日鏡を見るのが楽しくなった。
リップクリームを塗る瞬間は、可愛くなれるおまじないをかけている気分になってうきうきしたし、休日のお出かけ前にフェイスパウダーを塗ると、ちょっぴり大人になった気がしてときめいた。
コスメは中学生の私に、“可愛くなれるかもしれない”という希望を持たせてくれた。
持って生まれた顔は整形などの処置をしないと変わらないけれど、自分なりの“可愛い”や“綺麗”を追求することはできる。
努力して、前より可愛く、綺麗になった自分を見ると自信が持てるし、毎日が楽しくなる。
そういう気づきを与えてくれたことに感謝しているし、私の日常に欠かせないものなので、これからもコスメと上手につきあっていきたいと思う。