YOUは何しに北朝鮮へ #6 泰平の眠りを覚ましたテポドンと道徳性の杖(上)
1998年のテポドンの発射が、戦後長く続いた日本人の泰平の眠りを覚ましたのだろうと思う。ようやくぼくたちは、海峡と列島を越えた飛翔体テポドンによって北朝鮮・朝鮮民主主義人民共和国の存在に気付いたのだ。そして明確な敵意も感じ取ったのだ。
そして得たものがある。これを「道徳性の杖」と呼ぼうか。さらに2002年の日朝首脳会談で北朝鮮側が拉致問題を認めたことでこの杖の力はより増した。核、拉致、ミサイル。今の北朝鮮のイメージを形作る主原料がそろったことになる。それを主原料として作られるイメージには残念ながら、親しみを感じる要素はほとんどない。
国交もない。体制も独特。民主主義人民共和国と名乗ってはいるが、多くの日本人のイメージする民主主義とは明らかに趣が異なる。厳しい経済難にもかかわらず日本を射程圏内におさめる飛翔体を発射し、核実験を行い、日本人を拉致するような国は日本と比べ圧倒的に道徳性が劣っている。だから何を言っても構わない。いわゆる北朝鮮バッシングだ。
もちろん、日本の安全を脅かす存在に対しては断固たる対応と態度を取らなければならない。航空自衛官の友人がいる。日本の空を飛翔体から守っている彼のことをぼくは心から尊敬している。そして拉致問題は解決され、被害者は無事に家族のもとに帰国させる。これは当然のこと。
だがこの道徳性の杖には中毒性がある。ひとたび杖を振れば過去の日本人にとっては引け目だったりあるいは直視したくない、そもそもの存在を認めたくない歴史を始めとする問題をスルーして、対話も交流も遮断して永遠の高みの見物に興ずることが出来るのだ。「だって(核を開発して飛翔体を撃って拉致する)、北朝鮮だよ?」というひとことで。何も間違ったことは言っていないではないか。核も拉致も飛翔体も事実ではないか、と。
だから遠慮なく「だって北朝鮮だよ!」と道徳性の杖をぶんぶん振り回すことが出来る。周りを見ると多くの日本人が同じように道徳性の杖を振り回している。まるでサイリウムのようだ。なんだこの杖、振り回していいじゃんと安心する。それに振り回していると自分が正しい存在になったようで何だか気持ちがいい。
中には「死ね!」とか「帰れ!」などと、例えば朝鮮学校などの前でおよそ口にするのもおぞましいことばを平気で叫ぶ存在まで現れた。ネットの世界はさらにひどい。日本には数多くの在日コリアンがいるのだが、この杖を振り回す人で、在日コリアンの親しい友人がいる人にぼくは未だ会ったことがない。知合いがいないことも杖の威力をさらに増す。相手が見えないのだから振る力がより増すのだ。これが韓国なら、例えば韓国人の留学生の友人がいたとしたら同じような杖を振り回すのはさすがに良心が傷む(と信じたい)。でも北朝鮮人が現在、日本人の近くにいることはない。
■ 北のHow to その29
飛翔体のことをノドン、テポドンとドンドン言いがちですが、これはあくまで西側がつけたコードネーム。北朝鮮側には「火星」「銀河」という名称があります。あと、ミサイルではなくロケットというのが北側の見解。その前提で話をしないと北朝鮮の人は気を悪くします。なお、本稿では飛翔体としました。
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