ビンチェンツォと北朝鮮(3)立ち上がる民衆たち
長く休んでしまった。大学での授業とそのフィードバックに追われていました。申し訳ありません。
さて、ビンチェンツォの舞台となるのが雑居ビル「クムガプラザ」。ここの住人は曲者が揃っている。質屋の夫婦。イタリアで修業したと自称するイタリアンレストランの主人。不気味なクリーニング店主。時にサイコなピアノの先生。なぜか地下にある寺の住職と弟子。
このビルから彼らを追い出して、バベルタワーを建てることをもくろむバベルグループとの対決に、クムガプラザに別の目的を持ち接近したビンチェンツォも巻き込まれて行くのだが…。
財閥の横暴に初めは震えていた住人たちだが、実は一癖も二癖もある、というか一芸に秀でた人たちばかりで、やがて彼らが徐々に覚醒し、バベルグループと対決していく。実は質屋の夫はレスリング、妻は重量挙げの選手経験あり。クリーニングの親父は、ひとたび鋏を握れば人を刺すことに躊躇なく、食堂のおばちゃんはボクシング。イタリアンレストランの主人は朝鮮相撲(シルム)の達人で、みんな実は肉弾戦にはかなり強かったのだが、初めは立ち退きを迫るチンピラたちに、本当にびくびくとしている。
ビンチェンツォもイケメン弁護士という役割だけでなく、時に無慈悲なマフィアの一面も見せる一方で、いかさま占い師に変装するなど奇想天外なストーリは飽きない。
金日成将軍も正規戦ではなく、時に仙術である縮地法を使い日本の官憲を悩ませたとある。この点も何だか似ている。この辺り、真偽はともかく、読み物として読ませる。
ビンチェンツォが触媒となり、ただただ怯えていた雑居ビルの住人たちを覚醒させ、財閥と渡り合う姿に、金日成将軍と彼によって覚醒した人民の姿が重なる。財閥はもちろん資本家、日本統治下時代なら朝鮮人の小作人をこき使っていた地主なり、日本人そのものでもいいだろう。
ビンチェンツォは韓国系イタリア人。金日成将軍は旧満州を舞台に戦っていた。外国からやって来たヒーローが、実は才能ある市民を覚醒させ資本家と戦わせるというのは、朝鮮民族にとって実は理解しやすい、経験として重ねやすいストーリーなのかも知れない。韓国を支配する権力者である財閥を倒すのは、ストーリーとして痛快だが、実はそこにもう既に75年も経った独立の日を重ねているというのは考え過ぎか。
ドラマの後半で、街頭演説をする政治家に、クムガプラザの住人たちと、彼らの中心にいた女性弁護士(ビンチェンツォとは恋仲)を前に、見得を切るシーンがある。
「私たちは、ビンチェンツォ一家だから!」と。
ここでぼくには「私たちはひとつの大家庭だから!」という北朝鮮の歌の題名が重なった。
くり返すが、大切なのはクムガプラザの住人たちを覚醒させたところにある。ビンチェンツォは結局、韓国を離れる。韓国を離れても、住人たちは自分たちの住かであるクムガプラザを守る。ヒーローはいつかいなくなる。何かの事情で、あるいは寿命で。しかし革命は続く。
韓国の雑居ビルをめぐる群像劇は、北朝鮮の建国記を描いていた。そのストーリーの痛快さの裏に見えた既視感に、ぼくは満足していた。
■ 北のHow to その116
韓流ドラマを見ていると、財閥という存在が目に付きます。それを打ち倒し、またその中での誰がトップになるかの家族の争い。また財閥かよ、と少々飽きつつある今日この頃です。
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