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誇りと冷静と躊躇と油断#1 ウリナラマンセー!な韓国人との邂逅

  今や信じられないかも知れないが2000年ごろには、いや、90年代後半は少なくとも、ぼくがよく行っていたレンタルビデオショップに韓流という棚はなかったのだ。韓国映画のVHSテープはブルース・リーの死亡遊戯たちといっしょに肩身を狭くしてアジア映画という棚にひっそりと住んでいた。北朝鮮・朝鮮民主主義人民共和国の映画としては怪獣映画「不可殺=プルガサリ」がひとりだけいた。ゴジラの中の人、スーツアクターの薩摩剣八郎が、怪獣プルガサリを演じている。

 まだヨン様もおらず、サッカーも共催されていなかった。今やレンタルビデオショップも風前の灯火で、みんな映画もドラマもNetflixやAmazon Primeで見るようになった。たまに数少なくなったレンタルビデオショップに入ると壁一面韓流という店も珍しくない。中高生はK-POPに親しんでいるみたいだし、文化という面ではすっかり韓国文化をぼくらは楽しんでいる。「愛の不時着」「梨泰院クラス」をはじめ。

 ウリジナルということばがある。韓国語の我々を意味する우리=ウリとオリジナルをかけたネットスラングで、韓国人が何でもかんでも韓国起源説と訴えることを揶揄する意味である。

 たまにはいる。中国が長兄で韓国が次兄、日本は末弟だなどという人も。「兄より優れた弟など存在しない」と北斗の拳のジャギみたいなことまでは言わないが、だから日本の最近の歴史観や態度が気に食わぬ、弟は弟らしく(以下略)と承服しかねる主張をする人もいるといえばいる。

 確かに「わが国はすごい」「わが国万歳」(우리나라 만세!)「わが国サイコー!」(우리나라 최고야!)という自信に満ちた発言は聞くが、一方でヘル朝鮮(헬조선=ヘル=hell 地獄の朝鮮の意)という現状を嘆く声もあり、妄信的に自国を誇っているわけではない。その振れ幅と感情表現が日本に比べて若干豊かなだけではないかと思う。

 ウリジナルを主張する人も同様に見たことがない。どちらも極端な存在と発言を濃厚抽出した、間違ったエスプレッソのような人が集まりことばを吐く電子掲示板で見られるものなのだろう。そういやウリナラマンセーもまた、日本の電子掲示板でネットスラングとしてよく見られる表現だ。

 一方で日本は日本で、最近「日本や日本人はすごい」と外国人に言わせる番組が目に付く。結局日本も韓国も自信を失っているのではないかという想いを強くする。ニッポン万歳という気持ち、その気持ちは確かにぼくも持っているが人前で余り見せるもの、大声で発露するものではないと思っている。神社にいる時の立ち居振る舞いをイメージしつつ、放歌高吟するものではない。

 1997年の冬。ぼくは初めてウリナラマンセーな韓国人と遭遇した。ソウルのベーカリーでのことだ。その店の主人40代くらいの男性、彼はぼくが日本人と知ると自信満々に言ったのだ。「日本の学生さんよ、よく聞きなさい。わが国が発明したハングルってのはすごいんだ!ハングルに発音できない音はないんだぞ!」と。全然韓国語を勉強しないで韓国に行ったぼくに英語でそう諭すように話すのだ。

 その瞳に曇りはなく、声に迷いはない。よどみなく、朗々と男性は主張を続ける。敬虔な宗教の信者の姿をイメージした。

 おお!これが噂に聞く、授業でも出て来たウリナラマンセーな韓国人か!とぼくは男性に嫌悪感など全く感じず、むしろ興味津々にその主張に耳を傾けた。その謙虚な姿勢に男性はどんどん機嫌が良くなり「学生さん。しっかり勉強しなさい。そして滞在中困ったことがあったらいつでもここに来なさい。もう私と学生さんはプレンド(フレンド=Friendの意)だからだ」と言ったのだ。

 F音は韓国人にとって苦手な発音で、油断するとP音になってしまうことが多々ある。
   Yes,We are friends.ぼくは必死に笑いを堪えながら同意し、手を差し出した。フレンズ、とちゃんとF音で発音したが、男性は幸いにも気づかなかったか、皮肉と捉えることはなく満面の笑みと共に手を差し出し、ぼくたちはがっちりと握手を交わしたのだった。

■ 北のHow to その48
 掲載した写真についてお話を。「将軍様に従い千万里」。社会主義国であり商業広告のない(ゼロではない)北朝鮮の風景を埋めるのはこのようなスローガン。もちろんそこには、ウリナラマンセーなメッセージが多数込められています。スローガンのコツは「わかりやすい」こと。これを読み意味を考えることは朝鮮語の学習に役立ちます。

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