ビンチェンツォと北朝鮮(1)老女たちの呟き
「やっぱり主席よ。ホント、主席はいい男だった」。ひとりの老女がそういうと「そうよそうよ。いい男だった」ともうひとりの老女が頷く。
日本人のぼくを前に老女たちのことばは続いた。朝鮮総聯結成70周年のイベントでのことだった。
大っぴらには書けないが、この日聞いた在日コリアンたちの在日社会へのことばは結構辛辣なところがあった。「日本人の記者さん!ここが問題なんだよ!朝鮮新報に書いてよ!」と言われたが書けない話ばかり。いくつかの話題を苦笑いでスルーした。
金日成主席のことをいい男、というふたりの老女にぼくは苦笑を浮かべるしかなかった。どう答えれば不敬にならず、この場の空気を守ることが出来るか。それには苦笑という選択肢しかなかった。
いわゆる伝記というかたちで、また肖像画として、金主席の姿はかの国に満ち満ちている。毀損することは、まずいい結果を生まない。かといって、あからさまにマンセーするのも日本人として躊躇する。
一方でいわゆる建国者であり、指導者に対していい男を感じるか。その感覚は理解しようともなかなか難しかった。例えば今の天皇陛下、菅総理にいい男っぷりを感じるか。性的魅力、ダンディズムを感じるか。過去にさかのぼってもどうだろう。かつて、美し過ぎる県議と呼ばれた女性議員がいたが、政治とイケメン、あるいは美女はかけ離れた、相容れないものではないか。日本では。重信房子?うーーん。
気風ということばがある。北朝鮮では大切にされるものだ。いい男の位置条件ともいえる。いわゆる中国語でいう大人、わかりやすく言うなら大人物としての風格が、想像以上に北朝鮮では大切にされるのだ。
金主席はあの時代の男性では大柄と言えるだろう。金正恩総書記が、ぼくたちの感覚では突飛に見え、時に揶揄された髪型も、若い金主席の姿を意識したといえる。間違いなく金主席はあの国ではいい男なのだ。
そして声。かの国で偉い人ほど声が通り、また低い。俗っぽく言うならドスの効いたといえばよいか。
私事になるがぼくは正反対。168センチ48キロの痩身。声は通るが男にしては高い声。さらに早口というのは気風も風格も感じられない。かの国で映画に出るなら、ちょこちょこと動く胥吏、小役人の役か、所長にこびへつらうへなちょこ巡査の役。当然北朝鮮ではモテない。朝鮮語のジョークは時にキレキレで面白がられるけど、悲しいかな三枚目の枠を出ない。
南国、ベトナムや東南アジア系の女性には時にモテるのだ。肌が黒くなればさらに。ぼくはベトナムならいい男らしい。ああ、生まれる国を間違え、また向かう方向を間違えたか。北上ではなくぼくは南下すべきだったのだ。
Netflixでドラマ「ヴィンチェンツォ」を見た。韓国系イタリア人のイケメン弁護士を演じるのはソン・ジュンギ。整った顔にイタリア製スーツが似合う筋肉質の体型。白い肌。繊細さとは反対にある派手なアクション。日本でも共有される、いい男を演じていた。
ストーリーが進むにつれて、ぼくはある感覚を覚えていた。「このストーリーはまさに北朝鮮ではないか」と。その感覚は確信へと変わる。このドラマは北と南のいい男像が交差したドラマだったのだ。
■ 北のHow to その114
コロナウィルスの蔓延と、その時見た「愛の不時着」以来Netflixで韓国ドラマを見ています。結構見ていて思うのは訛りの強いドラマが多いこと。慶尚道の訛りは北と正反対なので、教材として避けています。韓国語の学習ツールとしてNetflixは優れていますが、方言には気をつけたいところです。
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