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北朝鮮の人に、声をかけてみる(男性編)

 白髪交じりの短髪。暗い色の人民服。年齢は40代くらいか。肌が焼けていた。胸には紅いバッチをつけている。人生で初めて会った北朝鮮の人は男性だった。

 場所は瀋陽空港。高麗航空のブースで、男性は暇そうにしていた。1日1往復しか来ない高麗航空。いや、もしかすると週数便かも知れない。

 退屈にすっかり慣れ切った表情の男性にぼくは話しかけることになった。平壌までの航空券を渡してもらわないといけない。アテンドしてくれる旅行社の社長はなぜか後ろにいて、行きがかり上声をかけるのは朝鮮語が出来るぼくしかいなかった。

 さて。ここで困ってしまった。韓国語なら저기요(あのー).여버세요(もしもし)が適当だろうが、北朝鮮の人には何といえばいいのか。学校で習ったことなどない。男性がぼくに気付いた。

 出てきたことばは동지(同志)だった。男性の顔がパッと明るくなった。「同志。日本からの旅行者なのですが、平壌までの航空券をください」。男性は大きく頷くと、カウンターから航空券の束を取り出し、なぜかトイレに誘導した。

「なんでトイレ?」。男性がぼくたちの当惑した表情に気付き「そうだそうだ。別にトイレで渡す必要はないですね」と笑った。

 男性に対して声をかける時、相手の名前がわからない時は「同志」が最適解である。目上、年上の存在には同志と言っておけば間違いない。事実、男性はゴキゲンでテンションが高かった。

「ねえ同志。聞いてもいいですか」と声をかけると「何でしょう!何でも聞いてください」と明るい声が返って来る。北朝鮮の人って結構明るいのだな。同志の効果が大きかったのか。

「これからに平壌行くけど、出来るかぎり朝鮮語で話そうと考えているのです。ところでここは中国だから、若干のご無礼は勘弁願いたいのですが。金日成同志と金正日同志のことは何て呼べば失礼ではないですか」

 彼はなるほどと頷くと「首領様と将軍様でいいでしょう」と答えてくれた。滞在中は、頭に偉大なるとつけて、最高敬語で話したら何も咎められなかった。

 同志とは、帰りにも会った。当時は羽田→関西→大連→瀋陽→平壌へ一日がかりで移動が出来たのだ。帰りの瀋陽空港のカウンターの同志は「楽しかったですか」と声をかけ、「また来てくださいよ」と笑い、手を振って見送ってくれたのだった。

■ 北のHow to その121 
 男性に関しては、同志と声をかけておけば間違いないと思います。この点韓国語に比べて非常にやりやすい。

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サポートいただけたら、また現地に行って面白い小ネタを拾ってこようと思います。よろしくお願いいたします。