太陽光パネルの大量廃棄とは
太陽光発電の問題点として、将来の『太陽光パネルの大量廃棄』が取り沙汰されています。しかし断片的な情報や、古いデータに基づく記事も多く目にします。
今回は、将来の太陽光パネルの大量廃棄という問題に関して概略を紹介していきます。
太陽光パネルの大量廃棄とは?
太陽光パネルの大量廃棄問題は、2012年に始まったFIT制度(再生可能エネルギーの固定価格買取制度)により、全国で太陽光発電所が急激に普及したことに端を発します。
当初は再エネの普及に注目されたこともあり、廃棄時の問題への関心は少なかったと考えられます。
一方で、2015年には将来の大量廃棄の問題提起されていました。
同年6月、環境省が『太陽光発電設備等のリユース・リサイクル・適正処分の推進に向けた検討』を公表し、2030年代以降に太陽光パネルの大量廃棄が指摘されていました。
導入された太陽光パネルがFIT経過後(寿命20年、25年、30年)に一律排出されるという単純な試算となっており、排出量の見込みとして『年間80万トン』という数字が出てきました。
年間80万トンが廃棄される?
太陽光パネルに限らずあらゆる人工物は、いずれ寿命を迎え廃棄物となります。しかしFIT期間の20年経過後に一様に廃棄されるわけではなく、その後も継続して発電することも想定されており、実際の排出量は様々な要因が影響すると考えられます。
20年経過後の太陽光パネルの発電効率
FIT期間終了後の土地や施設の契約継続
自家消費や小売り電気事業者による発電した電気買取りの有無
再エネ由来の電力の付加価値
実際の条件を想定した使用済太陽光パネルの排出量の予測として、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)による『太陽光発電リサイクル技術開発プロジェクト』で複数のケースの検討がされています。
2036年ごろのピーク時に『約17万~28万トン』の使用済太陽光パネルが排出されると予測されています。
一部のニュースやブログ、SNSなどで『年間80万トン』という数字が未だによく目にしますが、そもそも最新の情報を反映しておらず内容の信憑性は疑う必要がありそうです。
とはいえ、将来の廃棄量がどの程度になるかは不確実なことに変わりはなく、使用済太陽光発パネルの排出量予測の精緻化に向けた調査研究がNEDOにて進められています。
埋め立て処分場の逼迫
事業活動により生じた廃棄物(産業廃棄物)は再生利用や中間処理などを経て、リサイクルできないものが最終処分として埋立処分されます。
環境白書(令和4年版)によれば、産業廃棄物の排出量は『3億8596万トン(2019年度)』であり、『916万トン(約2%)』が最終処分されているとあります。
産業廃棄物最終処分場の残余容量は1.54億立方メートル、残余年数は『16.8年』となっており、残余容量は長期的に減少傾向です。
将来の最終処分場の逼迫が懸念されることから、太陽光パネルに限らず廃棄物のリサイクルや資源循環が必要となります。
現在の廃棄量はどの程度なのか
太陽光パネルの大量廃棄は10年以上先と予測されていますが、一方で現在でも発電所の建設時や運転中の不良・破損、自然災害等で一定量のパネルが廃棄されています。
環境省の調査報告書によれば、現在廃棄されている太陽光パネルは年間6000~7000トン、そのうち1.5%~3.3%程度が最終処分されているとあります。(2/3がリユース、残り1/3が中間処理されリサイクル率は約90%、残りの約10%が埋立処分)
仮に年間30万トンが全て廃棄されたと場合、年間で3万トン(30万トン × 10%)が最終処分されることになり、2019年度の最終処分量の約0.33%となります。
一部報道やSNSで指摘されるほどの影響はないと考えられ、現実のデータに基づく冷静な議論が必要だと考えられます。
まとめ
太陽光パネルの大量廃棄は、将来のいずれかの時点で必ず迎えることになります。
特に発電所全体の中でも太陽光パネルが占める割合が多いことや、埋立処分場の逼迫や資源循環の観点からも、リユースの推進や適切なリサイクルが求められます。
一部の報道やSNSでは事実に反する内容や古いデータによる記事などが散見されており、現実のデータに基づく冷静な議論が必要だと考えられます。
その他の太陽光パネルのリサイクルに関する各種情報やニュースが、こちらからご覧いただけます。
参考資料
環境省:太陽光発電設備等のリユース・リサイクル・適正処分の推進に向けた検討結果について(お知らせ)
NEDO:太陽光発電リサイクル技術開発プロジェクト(2014年度~2018年度)
NEDO:太陽光発電主力電源化推進技術開発(2020年度~2024年度)
環境省:令和4年版環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書の公表について
環境省:令和3年度使用済太陽電池モジュールのリサイクル等の推進に係る調査業務報告書