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世界的な再エネの「死蔵」!送電網不足が脱炭素化を阻む

日本における再生可能エネルギーと送電網の課題

再生可能エネルギーの普及が世界中で加速しています。太陽光や風力発電は、地球温暖化を防ぐための脱炭素化において欠かせない存在です。しかし、その発電力を十分に活用できていない現状が深刻な問題となっています。特に、発電した電力を消費地に送り届けるための「送電網」の整備が遅れていることが大きな障害となっています。これは日本に限らず、米国や欧州でも顕在化している問題です。
日本における再生可能エネルギーの持ち腐れや、送電網の整備の遅れについて詳しく見ていきます。

米欧で深刻な再エネの「持ち腐れ」問題

再生可能エネルギーの普及が進む米国や欧州では、発電した電力を送電網に接続できず「持ち腐れ」となっている電力が増加しています。米国ローレンス・バークレー国立研究所によると、2023年時点で、送電網に接続できず待機する再エネの発電容量は約1500ギガワットに達しました。これは2015年比で9倍という驚異的な増加です。太陽光や風力といった再エネの拡大は進んでいるものの、それを支える送電網の整備が追いついていないのです。

欧州においても、ウクライナ戦争後、脱ロシア産ガスと脱炭素の両輪で再エネの導入が進んでいますが、送電網の整備が不足し、接続待機状態の再エネ発電が増えています。主要4カ国でその容量は860ギガワットを超えるとされています。このような状況から、米欧での「持ち腐れ」再エネは原子力発電所480基分に相当すると試算されており、これは非常に大きな損失です。

日本における送電網の現状

日本も同様に、再生可能エネルギーの普及に伴い送電網の整備が大きな課題となっています。特に日本の場合、東日本と西日本で電力の周波数が異なるため、相互に電力を融通することが難しいという独自の事情があります。東日本は50Hz、西日本は60Hzという周波数の違いがあり、これが送電網の整備をさらに複雑にしています。

また、日本は地理的な要因や市場の小ささから、調整力を必要とする状況にあります。再生可能エネルギーは天候や時間帯によって発電量が変動するため、安定的に電力を供給するには調整力が欠かせません。しかし、送電網の整備が遅れていることで、再生可能エネルギーの発電事業者が発電した電力を効率的に供給することができない状況が続いています。

日本の送電網整備の取り組みと課題

日本では、2021年以降、送電網の大規模増設を待たずに新規の再エネを既存の送電網につなぐ制度が導入されています。これは、送電網の混雑を許容しながらも、再生可能エネルギーの活用を急ぐための措置です。この制度により、送電網工事の長期化による待機は減少しています。しかし、送電網の容量が限られているため、日中に発電した余剰な電力を他地域に送ることができず、再生可能エネルギー事業者が発電を一時停止する「出力制御」が増加しています。

2024年度の出力制御量は、前年度の1.4倍に増加する見込みです。特に、再生可能エネルギーが積極的に導入されている九州では、この出力制御の問題が顕著です。これは、再生可能エネルギーの導入が進んでいる地域ほど、送電網の容量が限界に近づいていることを示しています。

再生可能エネルギーと送電網の投資ギャップ

世界全体で見ると、再生可能エネルギーの発電設備への投資は急速に増加しています。2023年には、再エネ発電設備への年間投資額が6700億ドルに達し、これは2015年比で約2倍の規模です。しかし、送電網への投資は同じ期間でほぼ横ばいで、3300億ドル前後にとどまっています。発電設備は比較的短期間で建設できる一方、送電網は計画から完成までに10年以上かかる場合が多く、そのギャップが大きな問題となっています。

このギャップが拡大することで、再エネの発電能力はあっても送電網に接続できず、化石燃料に依存せざるを得ないという状況が続く恐れがあります。送電網の整備が進まない限り、再エネの普及が進むほどにその効果を十分に発揮できないというジレンマが存在します。

送電網の整備が脱炭素化のカギ

国際エネルギー機関(IEA)は、各国の脱炭素公約を基に試算を行い、2050年にはエネルギー供給の約6割が再生可能エネルギーになると予測しています。しかし、送電網の整備が進まない「送電網不足シナリオ」では、その割合は4割にとどまるとされています。つまり、再生可能エネルギーの普及が想定通り進まない場合、ガスや石炭などの化石燃料による火力発電への依存度が高まり、脱炭素化の目標達成が難しくなる可能性が高いのです。

政府と民間の役割

このような状況を打開するためには、政府と民間が一体となって送電網の整備に取り組むことが不可欠です。米国では、2023年8月、国内の電力網強化に22億ドルを追加拠出することが発表され、日本でも2050年までに6兆~7兆円を送電網に投資する方針が示されています。

しかし、送電網の整備には多額の投資と長い時間が必要です。日本においても、政府の支援によって民間の投資を引き出し、迅速に送電網の整備を進めることが重要です。再生可能エネルギーを最大限に活用し、脱炭素社会を実現するためには、送電網の整備がカギを握っています。

結論

再生可能エネルギーの普及は、地球規模の課題である気候変動に対する最も有効な対策の一つです。しかし、その普及を支える送電網の整備が遅れているため、発電した電力を十分に活用できない状況が続いています。特に日本では、周波数の違いや市場の小ささなど、独自の課題も抱えており、これを解決するためには送電網の大規模な整備が必要です。政府と民間が協力し、送電網への投資を拡大することで、再生可能エネルギーを効果的に活用し、持続可能な社会を実現する道が開かれます。

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死蔵の再生可能エネルギー、原発480基分 米欧でつながらぬ送電網 チャートは語る - 日本経済新聞 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB308270Q4A830C2000000/

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