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海水からCO2を回収して温暖化対策に貢献、さらには水産業にもメリット

近年、気候変動とその影響が世界的な課題となっています。特にCO2などの温室効果ガスの排出増加によって地球温暖化が進み、異常気象や海洋酸性化が発生しつつあります。これに対し、国際的な枠組み「パリ協定」では、産業革命以前の気温と比較して2度未満の温暖化に抑えることが目標とされています。この目標を達成するために、世界各国が2050年までにCO2排出量を実質ゼロにすることを目指しています。

しかし、排出を完全にゼロにすることは現実的には困難なため、排出したCO2を回収する技術も重要視されています。従来のCO2回収は主に大気から行われていましたが、最近では新たなアプローチとして「海水からのCO2回収」が注目されています。この手法は、温暖化対策に加えて、水産業や海洋環境の改善にも役立つ可能性があり、非常に前向きな技術です。
ここでは、海水からのCO2回収技術について詳しくご紹介します。


1、海水からのCO2回収技術(DOC)とは?

海水中には、空気中よりも高濃度のCO2が含まれています。具体的には、海水1立方メートルあたり約95グラムのCO2が含まれており、これは空気中のCO2濃度の数十倍に相当します。この特性を活かして、海水から直接CO2を回収する技術が「ダイレクト・オーシャン・キャプチャー(DOC)」です。

DOC技術は、海水を汲み上げ、弱アルカリ性の海水を電気透析で酸性化させることでCO2を放出させ、膜を使ってCO2を回収するという仕組みです。これにより、効率的に海水中のCO2を取り除くことが可能となります。海水中のCO2が減少すれば、海水は大気中のCO2を再び吸収するため、間接的に大気中のCO2も削減する効果が期待できます。

2、環境負荷を抑えつつ効果的にCO2を回収

海水からCO2を回収する際、環境への負荷を抑えることが非常に重要です。米国のスタートアップ企業Capturaは、独自の膜技術と電気透析を組み合わせることで、海水を汚さず、また海水温を変化させることなくCO2を回収する手法を開発しました。これにより、海洋生態系への影響を最小限に抑えながらCO2を回収できる点が大きな利点です。

さらに、Capturaの技術は既に米ロサンゼルス港で実験的に導入されており、年間100トンのCO2を回収する能力を持っています。将来的には、年間1000トンのCO2を回収する大型プラントも計画されており、今後さらに技術が進展することが期待されています。

3、水産業へのメリットとしての海洋酸性化の解消

海水からCO2を回収することで、もう一つの重要な効果が得られます。それは、海洋酸性化の改善です。CO2が海水に溶け込むと、海水が酸性化し、これは貝やサンゴなどの海洋生物に深刻な影響を与えます。特に、貝類の殻が溶け出したり、成長が遅くなったりするなど、水産業にも悪影響を及ぼしています。

しかし、DOC技術を利用して海水からCO2を取り除くと、酸性度が低下し、周辺の海域が中和されます。これにより、海洋酸性化を解消する効果が期待でき、水産業にとっても大きなメリットとなります。特に、貝の養殖場の近くにCO2回収装置を設置すれば、養殖場周辺の酸性化を抑え、貝の成長や品質向上に寄与するでしょう。

4、課題と今後の展望

海水からのCO2回収技術には多くの利点がありますが、まだいくつかの課題も残されています。例えば、海水を汲み上げるためのポンプのエネルギー消費や、CO2を回収する際に発生する不純物の除去が必要であることが、現時点では大気からのCO2回収技術よりコストが高い原因となっています。しかし、技術の進歩により、これらのコストも削減される見込みです。

日本でも、海洋研究開発機構(JAMSTEC)が中心となり、DOC技術の開発を進めています。JAMSTECでは、海上風力発電と組み合わせて再生可能エネルギーでCO2を回収する技術を研究しており、さらに、回収したCO2を化学製品の原料として利用することや、地下に貯留する技術も検討されています。現在、清水建設と共同で装置の大型化を進めており、2025年頃にはプロトタイプ実験が開始され、2040年頃の事業化を目指しています。

5、ブルーカーボンと海洋の役割

海洋は、温室効果ガスの削減において非常に大きな役割を果たしています。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告によれば、海洋は年間約70億トンのCO2を吸収しており、これは陸地に次ぐ規模です。この吸収の中心は、沿岸の浅い地域で、海藻や植物プランクトンがCO2を取り込んでいます。

これらの海洋生物によるCO2の吸収は「ブルーカーボン」と呼ばれており、既に脱炭素の手段として注目されています。特に、海藻などによる自然環境を利用した炭素固定は、コストが低く、効率的な方法とされています。ただし、海藻が魚の餌となったり、台風で流されたりするため、長期間にわたって安定したCO2固定が難しいという課題もあります。

6、海水からのCO2回収がもたらす未来

海水からCO2を回収する技術は、温暖化対策として非常に有望な手段です。特に、海水中の高濃度のCO2を効率よく回収できる点は、大気からの回収技術よりも優れており、さらに海洋酸性化を解消することで水産業にも貢献できるという点が大きな魅力です。

まだ技術の確立には時間がかかるかもしれませんが、既に実験段階で成果を上げており、今後さらに技術が進展し、コストの問題も解決されることで、実用化が進むでしょう。海洋は私たちにとって重要な炭素吸収源であり、そのポテンシャルを最大限に活かすことで、より持続可能な未来が築かれることを期待したいです。

海水からCO2回収、大気より効率よく 米新興やJAMSTEC -
日本経済新聞 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOSG149PQ0U4A510C2000000/

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