苺より杏
ショートケーキの苺よりも峠の釜めしの杏が好きだ。
最後まで取っておいて、だいじに、だいじに食べる。
昨日は久方ぶりの出張で軽井沢へ。
軽井沢は、ひよっこ駆け出しだった私を育ててくれた場所で、足掛け6年通ったことになる。
当時は、この釜めしをひとり暮らしのアパートに持ち帰って食べ、空いた釜で次の日からのごはんを炊くのが楽しみだった。
何度かやっているうちに、どうやら、4回目あたりでひびがまわって、ぱかっとふたつに割れる法則が見えてきた。
底にひびが入り始めた時点ではまだ炊ける。
ひびが段々と上がってきて、縁までたどり着くと諦め時だ。
ごはんを炊けるのは4回まで。
次の出張までの日数とにらめっこしながら、今日は炊きたいけどがまんしておこうか、明日炊いてあさってまで食べ繋いで、その次はラーメンで・・・と日々の食事を組み立てていたのがおかしい。
その後も炊飯器を買うことはなく、今でも鉄釜でごはんを炊いている。
当時、釜めしの空き釜で米を炊く娘を哀れと勘違いした母が、
「炊飯器を買って送ろうか」と言い出した。
これはチャンスとばかりに、「それならこれを」と頼んだものだ。
私は家電の買い替えに時間と気持ちを使うのが嫌いなうえに、
なんでもいい、と適当に買えるおおらかさも持ち合わせていないものだから面倒くさい。
長らく炊飯器について悩まないで済んでいることは大変ありがたい。
今日の夜からは、久しぶりに空いた釜でごはんを炊いてみるつもりだ。
もしかしたら釜が丈夫になっていたり、日々の鍛錬で割れない火加減を会得しているかもしれない。
しばらくは、日々のひびとのにらめっこを楽しめそうだ。
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