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ずぼらなマーマレードと帰省

年末の大掃除は長年やっていない。
のんびりしたいから、面倒くさいから、が半分。
残り半分の理由は、年明けに手に入る ”みかん水” だ。

正月に帰省すると、父の墓参りに行ってから庭のみかんを収穫するのが習慣になっている。
実家は父が定年退職後に中古で購入した家で、木を植えたのは前の住人である。なので、種類はよくわからない。いよかんか甘夏、酸味が強いので甘夏ではないかと思っている。
表年と裏年はあるけれど、少ない年でも15個くらい。電車で持ち帰るのは重たいので母に送ってもらい、それを全部マーマレードにして送り返す。

なんだか親孝行に聞こえる、いい話になっているがそうでもない。1時間半で行ける隣の県の実家には、もう2年近く帰っていない。
昨今の状況もあるが、私はもともと、あまり実家に寄り付かない娘である。

それが今年はちょっと事情が違い、12月の初めには実家からみかんが届いている。アライグマが出るとかで、庭の食べられる実は切り落とすように、と回覧板が廻って来たという。
届いたころはまだ少し頭が青かった。2週間経ってきれいな橙いろになったので、クリスマスに間に合うように送ることにした。

私のマーマレードの作り方はとても大ざっぱだ。
よく洗ったみかんを丸ごと大きな寸胴鍋に放り込んで、数時間煮たら丸1日ほっぽっておく。次の日に包丁で半分に切って、中身をするっと取り出して裏ごし。皮は刻んで、砂糖と一緒に琺瑯の鍋に移して、しばらくしてからことこと煮る。煮沸しておいたガラス瓶に入れたらできあがり。逆さまにして冷めるのを待つ。

2日かかるけれど、1日目は火にかけておくだけ。皮をむいたり、煮込むのに使う種をまとめる手間がない。苦みを取るために、皮だけをさらに茹でる手間もない。
労働、苦行にならないで作れるこの方法は私にとても向いている。
丸ごと茹でた後は家中がみかんの香りで満たされるのもいいところ。

そして、このずぼらな作り方が生み出す ”みかん水” が、ジャムづくりのごほうびだ。丸1日みかんが浸かっていた茹で汁は、うっすらと色づいて、オイルがきらきらとしている。これで窓枠や床を拭くと、木目はつやつやとして、空気のこもりがちな冬の家の中を、さっぱりとした香りで満たしてくれる。
普段は掃除機も1週間に1回もかけないのだから、きれい好きでも几帳面でもないけれど、この掃除は年に1度の楽しみだ。

と言いながら、放置してかびをはやしたことがあるものだから、すぐに使わない今回は冷蔵庫に入れている。
どんな味がするんだろう。苦いかなぁ。私は飲んだことがないから、連れ合いがうっかり飲んでみてくれないかなぁ。
なんて、いたずらなことも想像してみる。
想像するだけで、本当はちゃんと伝えるのだけれど。

 正月に実家に帰るかどうかは、まだ決めかねている。
決めるというより、なるようになればよいと思っている。


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