キィちゃんの錯乱

我が家にはにわとりが9羽いる。
卵から孵した4羽の成鶏(先住)と、途中から加わった2羽の廃鶏♀、
そして先住から5か月遅れで誕生した大雛が3羽である。

キィちゃんは我が家で最も大きなアローカナで
他の雄鶏の倍以上の体格を有する。
まるで鞍馬天狗か歌舞伎役者のような風貌で
威厳、風格は群を抜く。

キィちゃん。圧倒的にデカい

軍鶏の血が少し入っているのか、闘いのセンスもあり
群れが何かに襲われるようなことがあれば最前線で敵に向かうような
番犬ならぬ大番鶏である。
しかしながら、無駄な争いはしない子で、同期の他の雄から喧嘩を売られてもまともに受ける事はない。まぁ、闘えば絶対に勝つんだけどね。
自分が負けたことにして相手に花を持たせ、群れの平和を維持する、大人な鶏なのだ。
そんなキィちゃんは、別の小屋で育っているぱんちゃ(多分キィちゃんの子で5ヶ月年下の♂)に対してはどう反応するんだろと思い、ある日、プレイランドで一緒にしてみた。

ここで気を付けないといけないのは、「いきなり一緒にしない」ことだ。
これは犬猫でも同じだろう。少しずつ相手の存在を知らせ、少しずつ距離を縮めていく。特にでかいキィちゃんは、この時点でぱんちゃの3倍近い大きさがあった。この体格差で襲われたらひとたまりもない。
そこで、ぱんちゃを抱っこしてプレイランドに入る。

手前がぱんちゃ♂で、地面にいるのがキィちゃん
キィちゃんはそ知らぬふりでこちらを観察中

ぱんちゃは、これまでにビニル越しに何度もキィちゃんの存在は見てきたが
隔てのない空間で一緒になるのは初めてで
ドでかいキィちゃんに怯え、とにかく高い所に逃げようと私の肩や頭によじ登ってくる。息は上がってるし目はテンで、どんだけビビってんだ?と言う感じ。
普段は冷静なキィちゃんも、ぱんちゃを見てハッと何かを感じて無言になり
一瞬考えて、またこちらをチラリと見ては考えている。
おそらくこの2羽は親子。そういうのもお互いに何か感じているのかもしれない。


今、我が家は雄鶏問題で揺れていて
と言うのも、ぱんちゃの性別が♂と確定して
我が家の雄は4羽になってしまい
そう、いくらなんでも♂4羽は多すぎるのだ。

そこで、♂の誰かを里子に出すことにしたのだが
後から生まれたぱんちゃにするか、キィちゃんかで
激しく悩んでいたのだった。

群れの安定を考えれば、雌からも人気の先住のキィちゃんを残し、
新参のぱんちゃを出すのが賢明だけど、実はぱんちゃを残したかった・・・
なぜって・・・

イケメンだから・・・😳

イケメンぱんちゃ
ツンツンな頭髪と派手な鶏冠、そして虹色の耳朶が私好み

そこで、人間(私)のエゴと欲によって、
ぱんちゃとアコを馴染ませる試みに加え(前記事「ようやくうーちゃんの失恋」参照)、先住の他の雌たちとも馴染ませる試みもしていたのだった。

うまく雌たちから受け入れられるようなら、ぱんちゃを残したい

既に里親募集にぱんちゃを出していながら
この期に及んでも、まだそんなことを考えていたのだった。

結果、キィちゃんとクロ♂は別室で控えていることが増えた。
いつもなら、日中はみんな一緒にプレイランドで遊ぶのに
もう何日もキィちゃんは別室に閉じ込められたまま。
時折聞こえる雌鶏の声に、毎度「何があった⁉」
とヤキモキしているようだった。

そんなヤキモキとストレスが蓄積し、あの「大人なキィちゃん」が
最近はちょっとイライラしてきたような気がしていた。

キィちゃんを広いプレイランドに出してあげたい気持ちと
ぱんちゃとキィちゃんを合わせたらどうなるだろうという気持ちが合わさり
こうして今、同じ空間にいる。

プレイランドには、ぱんちゃ達の他にアコ、ウーちゃんがいた。
キィちゃんは冷静を装おうと努めているようだが、
明らかにいつもと様子が違っていた。
抱っこされたぱんちゃの下で、餌を探すようなふりをして
それは段々せわしなくなり
ぐるぐると8の字を描きだした。
この8の字は、雄鶏が戦闘態勢に入ったことを示す。

なんか、マズいぞ…これはマズい。。。
こんなキィちゃん見たことない。
と思った時、ぱんちゃが恐怖から更に高い所へ逃れようとして
…地面に落ちた

その瞬間から、ものすごい追いかけっこが始まった。
見たこともないスピードでぱんちゃに襲いかかろうとするキィちゃん
必死で逃げるぱんちゃ
どちらかを掴まえなければ大惨事になる。

しかし、お互いものすごいスピードで手を出すこともできないまま
プレイランドを4周、5周と2羽は回る。
なんとかぱんちゃをかくまわなければ!と思ったその時、
キィちゃんはぱんちゃではなく、アコに襲いかかった。


それはもう、ほんとにすごい光景だった。
アコは恐怖で絶叫しながらプレイランドの外へ飛び出て行き
雪の中にダイブした。

アコが雪まみれになってやっとキィちゃんが止まった。
あんなに冷静で大人なキィちゃんは、
愛人のアコとぱんちゃが最近一緒にいることに
激しく嫉妬していたのだった。
鶏の愛憎劇、まさに愛憎劇だった。

人間は、恋人の浮気が発覚した時
男は浮気した自分の女を殺して終わりにし、
女は浮気相手の女を殺して恋人とやり直そうとする と聞いたことがあるが
キィちゃんも、浮気したアコを襲う程、狂おしかったのだろうか…

キィちゃんをここまで錯乱させるようなことを…
私は人間のエゴで実験して、鶏たちを苦しませて、何をしているのか


結局、誰を里子にしようと、誰かは寂しく、誰かは傷つき

みんな残せたらいいんだけどね。。
みんな残せたら…


次回はいよいよお別れの時、「さよなら、元気でね」を書きます。




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