穴 ソレカラ
私は影谷みづき 28歳
背中に穴は空いているが
原因が最近分かり始めたところだ。
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「泣いていいんだよ
泣くのは悪い事じゃない
泣く事で苦痛を体から出すんだから」
直美はそう言いながら、私の隣に座り
また背中をさすりだした。
「ガマンするんじゃないよ
何の為にあたしがいるのさ」
直美の言葉が心に深く突き刺さる
しばらく泣いたあと、私は顔を上げた。
「まだ空いてる?中にまだいる?」
「空いてるし、いるよ」
「そっかぁ」
「そんな簡単には塞がらないよ
長い時をかけて空いたんだから」
「ふふっ、そうだね」
そうだ
穴があろうと、中に何かいようと
私は私
悲しみが癒えるまでは
ずっとこのままなのだろう
父を失った喪失感、後悔…
そう簡単に癒えるはずもない
そして、逃げる事も出来ない。
私が全てを受け入れ、目を逸らさずにいられるようになるまで
穴も塞がらず、中にもいるままだろう。
後日、鈴山実優に
今回の話を伝えた。
彼女も直美の話を聞いて
色々納得する点があったようだ。
「私にはそこまでわかりませんでしたが、直美さんは全て見えるんですね
それに耐えれらるなんて…」
「あなたがあの日、声をかけてくれたおかげで、私は私と向き合う事が出来たのよ。
本当にありがとう。」
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結局、背中に穴を空けていたのは
私自身だった。
私自身が抱え込めなくなった
怒り、悲しみ、迷い、不安など
心の苦痛が、私の中から少しずつ少しずつ穴を空け吹き出していた、という訳だった。
誰しも気が付かない程度の、小さな穴は空いているらしい。
だが、心が耐えきれなくなると穴は大きくなり、その人を守るために苦痛を外へ吐き出すと。
『その人を守るために』
もしかしたら
あなたの背中にも
穴が空いてるかも…
終