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至高の食中酒が一本 〈作〉

毎日JAPANが美味しいね。あんかけだよ。

JAPANこと日本酒にどっぷりハマってはや3ヶ月。何本呑み尽くしたのか、冷静に数えるのが怖い今日この頃です。

しかし呑めば呑むほどに痛感するのが、食事と日本酒のマリアージュの難しさ。単品で呑んで「んまい🤗」と思う日本酒は数あれど、食事と合わせて「最高だ!!😂」となる日本酒にはなかなか出会えないもの。

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食中酒について真面目に考え始めると、難しく思えてしまう。

いわゆる〈至高の食中酒〉について、未だ開拓の日々が続いているところですが、そんな中で食中酒として気に入った一本を紹介します。

清水清三郎商店(鈴鹿)/作

三重県を代表する日本酒が一つ、〈作〉です。〈ザク〉と読みます。

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本題に入る前に、少し火入れ酒と生酒の話をします。

生酒 or 火入れ酒

日本酒は通常、〈火入れ〉と呼ばれる加熱殺菌を1回または2回行ってから出荷されます。スーパーの酒コーナーに常温で置かれている日本酒の大半が火入れされたものです。

逆に火入れされていない日本酒は〈生酒〉と呼ばれます。よく〈無濾過生原酒〉とまとめられますが、この〈生〉の部分がソレです。生ビールの生と同じですね。

昨今の主流……いわば日本酒好きな人たちに好まれるのは『日本酒のフレッシュ感を生かすために火入れは行わず、加えて流通ー販売まで低温管理を徹底したモノ』という潮流があります。要するに生酒ですね。

一方でそのような生酒が生ビールと大きく異なるのは、生酒は常温に戻ると残存する麹の酵素のはたらきで酒質が変化してしまう点です。そのため、あらゆるシーンで低温管理を徹底する必要があります。

余談ですが常温保存可能な生ビールがあるのは、加熱処理をしない代わりに〈限外ろ過〉という極めて孔の小さいフィルターで濾過処理を行うことでそれ以上発酵を生じさせないようにしているためです。日本酒も限外ろ過によって生酒にすることはありますが、あまり一般的ではありません。

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低温管理の例(大嘘)

生酒の低温管理をどこまで徹底するか、というのは酒蔵や酒屋によって温度差があります。例えば秋田の新政や島根の王録は、特約店(取扱店)になれる条件の一つが『ー5℃以下での低温管理を徹底できること』だったりします。

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そういった日本酒を取り扱えること自体が、その酒屋のステータスになる。

私達は製造元(酒蔵)、流通、販売(酒屋、居酒屋)の弛まぬ努力によって、フレッシュで美味しい日本酒が呑めているわけです。

生酒こそ至高?

生酒は確かにフレッシュ感があり、美味しいです。日本酒に馴染みのない人にとっては「フレッシュとは?」となるかもしれません。フレッシュ感とは〈果実感〉〈炭酸感〉と言い換えることができます。またよく用いられる表現として〈ピチピチ〉とも表されます。知らない人にとっては信じられないかもしれませが、まるでソーダのような日本酒もあります。

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極端な例。風の森は日本酒ソーダと言っても過言ではない。うまいんだこれ。

一方で低温管理を徹底させるということは、販売する酒屋・居酒屋にとっては負担になります。加えて品質安定性の点からも不安が残らないわけではありません。つまり『造り手が出荷したときの味と、呑み手が呑むときの味が変わってしまう可能性がある』ということです。

そこで〈作〉を醸す清水清三郎商店は全量火入れという選択をしました。火入れ酒でありながら、生酒のようなフレッシュ感を実現することをコンセプトに、「出荷時の酒質で呑み手には楽しんでもらいたい」という想いがあるそうです。

エエやん、もうこれだけで惚れ込みますよね。

しかし想いだけでうまい日本酒が醸せれば、苦労はしません。実際に呑んでみたい。だがしかし!近くに特約店がない!

〈作〉を求めて256里

この〈作〉、別にプレミアが付いているとか、極端に出荷を絞っているとかでは無さそうなのですが、関東の酒屋ではあまり見かけません。東京のはせがわ酒店で少し見かけた程度。

👿「ならば、行けばいいじゃない」🙃「どこに?」👿「鈴鹿」🙃「……往復1000 km?」👿「そう、いいじゃない。」👼「いいじゃない。」🙃「……いっかァ(脳死)」

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というわけで行ってきました、福田屋酒店(四日市)。なんでも三重県内で〈作〉の取り扱いが随一だとか。

まず1日目に訪れた際に頂いたのはこちら。

作・雅乃智

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鈴鹿山麓の沢が綺麗なキャンプ場で「グビリ」。うまい。確かに火入れとは思えないほどのフレッシュ感がある。でもなんというか、インパクトに欠ける? 

その時の印象はそんな感じでした。多分〈作〉を呑んだ人の多くが「うまい。けどこれの生酒呑んでみたいなぁ」と感じるのではないでしょうか。

でもまぁ、確かにうまい。ので鈴鹿からの帰りにまた福田屋酒店伺って追加で3本買って、栃木に帰って参りました。

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さて、家に帰ってから発売したて〈作〉2020年新酒をいただきます。「ぐびぐび」。うまい。でもやはり雅乃智と同じ印象です。違うのは隣にあったもの。

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四日市で食べたご当地グルメのトンテキがとても旨かったので、家でも作ってました。

🙃「トンテキかじかじ、、作ぐびg……!?!?」

🙂「Revolution

革命が起きました。

今まで「確かに美味しいけれども派手さがなく、実直」なイメージが、脂っこく味も濃い食事と合わせると、あら不思議。口の中でハーモニーを奏でます。

より具体的には、漠然としていた口中の味々が〈作〉によって整理整頓され、一つ一つの食材の旨みがより鮮明に感じられるようになりました。その複雑味の中であっても〈作〉はその存在感を確かに示しています。それはまるで欠けたパズルの最後の1ピースがカチリと嵌ったようです。

食事と酒を口の中で同時に含んで味を複合させることを〈口中調味〉と呼ぶそうです。その真髄を垣間見たような心地になりました。

あんかけがしらなかった日本酒の世界

どんな日本酒が食中酒として秀逸なものになるのか、まだまだ知らない世界が広がっています。現時点では「特徴的な酸、または苦味がポイントになっているのでは……」と思い込んでいますが、如何せんハマって3ヶ月。日本酒ペーペーのあんかけくんに結論を出すのは時期尚早です。

単品で呑んでうまいと感じる日本酒。単品ではイマイチ感動できないけれど、食事とタッグを組ませると革命されるもの。日本酒というヤツは本当に奥深い。しばらくは煮込み料理を作っても冷蔵保存できない日々から脱却できそうにありません。

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油断すると転がり落ちる日本酒たち。

参考文献;和田美代子, 日本酒の科学 水・米・麹の伝統の技, ブルーバックス