Unit Xのチェーンリングを交換した
前回、ゴリゴリのブロックタイヤからグラベル用タイヤに履き替え、若干街乗り・ロングライドに寄せたUnit Xくん。
ゆうて、まだまだ「タイヤごっつぃなぁ」感ある
もう一つの課題は「ちょっとでも下り勾配だとギア比が足りなくて、ペダルが空転する」問題。
Unit Xの標準コンポであるSram SX Eagleはフロント(チェーンリング)32tのリアトップ11t。最大ギア比は「チェーンリングの歯数 / リアトップの歯数」なので、32/11=2.91だ。
【ギア比の解説】
ギア比とは「前(クランク側)の歯車の歯数と、後ろ(後輪側)の歯車の歯数の比率」を指す。前が分子で、後ろが分母だ。
11tとか50tのtは歯車の歯数を示す。今回の場合、後ろの歯車は11-50tの間で12段階に分かれている(12変速)。前は32tで固定で、フロントシングルとも呼称する。一般的なロードバイクでは前も変速でき、34tと50tといった2つの歯車を備えていることが多い。
自転車は「前の歯車を足で回してチェーンを動かし、後ろの歯車に連結した後輪を動かす」ことで前に進む。当然、チェーンを沢山動かすほど後輪は沢山回るので、自転車は早く進む。つまり「前の歯数が多く」「後ろの歯数が少ない」ほど、自転車の推進力は高くなる。
このことを言い表した数値が「ギア比」で、「ペダル1回転につきタイヤが何回転するか」を示す。Unit Xの最大ギア比では「ペダルが1回転するごとにチェーンが32コマ動き、リアのトップギアではチェーン11コマに対してタイヤが1回転するので、32/11でペダル1回転=タイヤ2.91回転(ギア比2.91)」となる。
最大ギア比2.91というのはスポーツバイクの中では比較的低い部類にある。つまり一定の速度以上になると空転ーすなわちペダルを踏んでも力がかからない状態になるのだ。
この「一定の速度」はケイデンス(1分間にクランクを回す回数。要約すると「足を回す速さ」)から導くこともできるが、Unit Xの感覚的には平地30-32 km/h程度だ。
さらに感覚で言い表すと冒頭の「ちょっとでも下り勾配になると、ペダルが空転する」となる。
ギア比を上げる方法
ギア比を上げる方法はそんなに難しくなくて、単純に「歯車の歯数を変える」ことで解決する。
問題は「前の歯数を増やす」か「後ろの歯数を減らす」かだ。
特に「前の歯数を増やす」方法はチェーンリングとよばれるパーツ1つ交換すればいいだけなので、とっても楽ちん。
一方「後ろの歯数を減らす」方法は多くの場合、カセットスプロケットごと交換しなければならないので、手間は何よりコストがかかる。
Unit Xについている「SX Eagle」はさらに別の理由で「カセットスプロケットを交換して歯数を減らす」のは大変だ。これについては文末で補足する。
チェーンリングの交換
Unit XのコンポーネントであるSX EagleはSRAMの「Eagleシリーズ」の一つである。Eagleシリーズは一部(文末補足を参照)を除いて、多くのパーツの形式が共通しており、お陰でパーツ交換がやりやすい。
Eagleのチェーンリングは全て「ダイレクトマウント」という方式でクランクに固定される。SRAMの純正パーツとして12変速用は歯数が30t, 32t, 34t, 36t, 38tが供給されており、好きな歯数を選ぶことができる。
またSRAM純正品を入手するのが難しい場合、サードパーティのチェーンリングも選択肢に入る。その場合「ダイレクトマウント方式であること」「12s(12変速)に対応していること」「SRAM互換と謳っていること」などを確認しておくと安心できる。
しかし最も注意しなければならないのは「オフセットの値」だ。
Unit Xは「Boost」規格を採用している。この規格はタイヤの軸となる「ハブ」の規格だ。
「Boost」などという厳ついネーミングなだけあって、この規格は29インチを超えるようなタイヤを使う際、そのタイヤを支える軸の剛性を高めるために用いられる。
写真は前輪のハブだが、後輪のハブは148 mmもの長さがある。スタンダードハブが135 mmや142 mmであることから、Boostはかなり長い。
Boostで後輪ハブが長いと、それに装着されるカセットスプロケットも同じだけ外側に出っ張る(黄色矢印)。
この時、スタンダート用のチェーンリングを使用するとチェーンが横軸方向にずれてしまい、変速の不調やチェーン外れの原因となる。
したがってチェーンリングもまた外側にオフセット(青矢印)したBoost規格対応のものを使用しなければならない。どの程度オフセットするかは規格で決まっており、スタンダードは6 mm、Boostは3 mm、fatは4 mmだ。
SRAM純正でもサードパーティでも、必ずこの「オフセット値」は確認しよう。「お!欲しい歯数のやつ安く売ってんじゃん🤗」と浮かれて買ってオフセット値が異なると、🙃てなる。
SRAM X-SYNC2 36T 3 mmオフセット(Boost)
というわけで今回交換するのはSram純正のチェーンリング「X-SYNC2 36T 3 mmオフセット」。
Unit X標準の32tとは歯数が4個多いだけだが、こうして並べると大きさの違いが際立つ。
重ねて見ても、36tは一回り大きい。
さて、ここからはチェーンリングの交換方法について解説する。といってもこの交換方法はSramのEagleシリーズの中でもSX Eagleにのみ適用するもので、NX EagleやGX Eagleとはクランクの軸であるBB(ボトムブラケット)の規格が異なるため、使用する工具などが異なる。
まずはチェーンリング側のクランクを外す。クランクをロックしているボルトは8 mmアーレンキーを写真の位置から下方向(反時計回り)に回すことで外せる。
しかしとんでもなく硬く固定されているため、可能な限り長いアーレンキーを用意することを推奨する(テコの原理)。
こちらが外れたボルト。
ボルトを外すとこのようになる。一見、このまま「スッ」と外れそうな見た目だが、この状態から人力で外すのはほぼ不可能である(自転車壊れる)。
ここから外すためには、コッタレス抜きが必須となる。
これがコッタレス抜き。どう使えばいいか分からない見た目をしているが、超単純。
まずコッタレス抜きのネジが切ってある部分を、先ほど8 mmアーレンキーで外した部分にはめ込む。
コッタレス抜きの反対側は8 mmアーレンキーで回るようになっている。
アーレンキーを突っ込み時計回りに回すと、コッタレス抜きの棒がBB側を「ググっ」と押すような形となり、「ぽろっ」とクランクがチェーンリングごと外れる。
こちらが外れたクランクとチェーンリング。クランクとチェーンリングは3本のボルトによって固定されている。
取り外しに使うのはこのトルクスレンチ。自転車用携帯ツールでもついていることが多いので、困ることはないはず。ディスクブレーキのディスクを外すやつと一緒です。
ここまで分解することはそう多くないので、クランクのゴミなんかを掃除しちゃいましょう。
クランクを綺麗にしたら新しいチェーンリングをビシッとはめて、同じようにトルクスボルトで固定する。
BB側に残っていた古いグリスは取り除いて、新しいグリスを刺しておきましょう。
ベッチャリ。
クランクを嵌め込む際はコッタレス抜きは必要なし。そのまま入れて、8 mmボルトを締めれば完成。
あとはチェーンを戻せば90%完成です。
残りの10%はなんだって?......まぁ、ちょっと面倒で...
はい、チェーンの長さ調整です。
チェーンリングが大きくなったと言うことは、その分チェーンを長くしなきゃいけないわけで。
SRAMのEagleシリーズのようなフロントシングル(1x)は、写真右下のように4コマ残す必要があります。この時、チェーンはミッシングリンク(パワーリンク)を外した状態で、チェーンリングとリアの最大歯数(今回は50t)に通し、ディレイラーには通さない状態でコマ数を確認します。
で、チェーンを短くするのは簡単です。チェーンカッターで外して短くすれば良いので。
問題は今回のように「歯車の歯数が増えたのでチェーンを長くする場合」。どうするかというと、チェーンを買うしかありません。
で、こちらが新品のチェーン。余計な出費だ。
チェーンを長くする方法は2つ。
1. 新品のチェーンを買う
2. 同規格のチェーンを用意し、切って、短くして、ミッシングリンクで繋ぐ
おすすめは1の方法。新品のチェーンは長めに作られているので、これをチェーンカッターで切って必要な長さに合わせます。
2の方法でも不可能ではないですが、オススメしません。
12sのチェーンはただでさえ従来の9sや11sのチェーンよりも薄く作られており、さらにミッシングリンク部は中でも強度的な「ネック」となっている部分です。
すなわち、変な力が掛かったりした時に、真っ先に外れたり壊れたりするのはミッシングリンク部です。私もロングライド時には必ず予備のミッシグリンクを携帯します。
2の方法では短く切ったチェーンを既存のチェーンとミッシングリンクで繋げるため、1つのチェーンにミッシングリンクが2箇所でき、当然、それに起因するリスクも2倍になります。これが2の方法をオススメしない理由です。
で、実際にチェーン長さを合わせている様子は、というと......無いんだ。へて。
なぜならそのまま走り出してしまったから
はい、チェーンは届いていましたが「近い将来リアのローを50tから52tにするかもしないかも?」ため、新品のチェーンは温存し、チェーン調整なしで走り出してしまいました。
で、結果はどうなったかというと、
【32tから36tに変えて(チェーン調整なし)】
・ギア比が上がった分、最高速と巡航速度が上がった(バイクパッキング装備でも調子が良いと38 km/hくらい出る」
・7速前後の変速が不安定になる(ローに落ちるが、トップに戻すとき7速から5速に飛ぶ)
・12速(50t)にすると11速と12速を行ったり来たりする。
すなわち「平地を巡航する分には全く問題ないけど、坂道で変なストレスと感じることもある」といった感じ。みんなちゃんとチェーンの長さ調整はしような!
総括としてはチェーンリングを32tから36tに換装して大正解。
元々、Unit Xは「早く、楽に走る」ための自転車ではありませんが、それでもやはり足りないギア比を補う程度でギア比を向上するのは楽しいものです。やったね!
【文末補足】SRAM SX Eagleの特異性について
SX Eagleに関する補足なので聞き流して。
今回、チェーンリングを交換しようと「Sram Eagle チェーンリング交換」などでweb検索していると、どうもクランクの外し方が人によってマチマチでした。なんでマチマチかっていうと、本文でも少し触れましたがEagleシリーズの中でSX Eagleだけは立ち位置が異なるからです。
ここの文章を読むより、海外の有志が作成した動画の方が100倍分かりやすいので、そっちもどうぞ。
まずSramのEagleシリーズは下表のようなグレードがあります。
SX Eagleは表の一番左で、最も安価です。表の右に行くほど、高グレードです。
SX Eagleは基本的にコンポーネントとして一般販売されていません(webで探せば見つかるけど)。SX Eagleの立ち位置は自転車メーカーに供給し、完成車に初期装備として搭載されることを目的とした最廉価グレードです。
立ち位置が異なればパーツや規格も他のEagleと少し異なります。
まずは今回チェーンリング交換で少しつまづいたクランクの固定方法。
SX Eagleとそれ以外のEagleではBBの規格が異なるため、クランクの外し方も異なります。今回のSX Eagleではコッタレス抜きを使用しましたが、SX以外のEagleではアーレンキーのみで取り外し可能です。
webで調べるとこの「アーレンキーで取り外す」パターンばかりが出てきたため、自転車初心者のあんかけ君は少し戸惑いました(最終的には海外サイトで調べた)。
もう一つ異なる部分があります。それはカセットスプロケットの固定方法、すなわりフリーボディの種類です。これはSXとNX Eagleが共通で、GX以上のグレードと異なります。
本文中で何度か「SX Eagleでリアの歯数を小さくすることでギア比を上げるのは手間」と記しましたが、理由はコレです。
SX Eagleの所謂シマノハブは、構造上の理由からトップギアの歯数は11tが最小で、それ以下は着けられません。なのでEagleシリーズの中でもSXとNXは11-50tです。
対してGX以上はXDドライバーというSRAM考案の規格となっており、SRAM純正で10-50t、サードパーティ製で9-50tのスプロケを装着可能です。
したがってSX Eagleのリアの歯数を小さくしようとすると、XDドライバーとカセットスプロケットが必要になります。
加えてUnit X特有の問題も加わります。
Unit XのリアハブはFormula 148x12mmとあります。このFormulaのフリーボディだけをXDドライバーに交換できれば話は簡単です。で、kona代理店のA&Fに
「Unit XをXDドライバーにしたいんだけど、適合しているの教えて😘」
と聞いたら、
「分かんないや🤪(意訳)」
\(^o^)/
仕方ない。やっぱり海外サイトを巡りに巡り、同じような質問をしている方に辿り着きます。で、それに対する回答は、
「Fromulaのハブ自体がそんなに良いモンじゃないから、ハブごと交換するとええで」
\(^o^)/\(^o^)/
確かにUnit X標準のハブはノッチ数も少なく、そんなに良いもんじゃありません。
しかしハブを変えるとなると、手間も必要なものもいっぱいいっぱい。
まずXDドライバーのハブ、タイヤスポークを一回バラすことになるのでスポーク外し、そのためにリムテープを外すので新しいリムテープ、再組み立ては実質手組みなので振れ取り台、センターゲージ、スポークテンションメーター......ああもうやだ。
で、これは?
......XDドライバー搭載ノッチ数114リム🥰
買っちった。
XDドライバーにしてリアトップを9tにすれば、最大ギア比は4.00になります。
まぁ、29インチMTBでそんなに踏めるんかい、というのは置いておいて。
XDドライバーへの換装はチェーンリングの比じゃないほど手間がかかるので、そのうち取り掛かります。
そのうちね......。