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【SF小説】ぷるぷるパンク - 第14.5話❷ 仮説

2,266文字4分

● 平泉寺・仮説ー曼荼羅

 その後、その村にあったトゥルク寺院を頼り、流れるままにスリランカに辿り着いた。スリランカに潜伏した私は、現地にあるトゥルク寺院で幻覚マーヤー状態を研究する瞑想修行の日々を送った。

 トゥルクの高僧の元で瞑想を続け、1年が経つと、自分の脳に地球環がない地球で暮らした記憶が混じっていることに気がついたーーというよりはそんな記憶を断片的に思い出し始めるようになったのだ。

 時を同じくして、私は幻覚マーヤー状態をコントロールできるようになっていた。幻覚マーヤー状態をコントロールできるようになると、頭の中に「場」のヴィジョンを感じることができるようになる。それが昨日サウスを捉えた「曼荼羅」。

 曼荼羅は、3×3の正方形が並んだ二次元の平面で、必ず特異点と呼ばれる全体の中心点と、それを囲むそれぞれの正方形の中心にある8つの点からなっている。
 その曼荼羅の中心に何かを当てはめて瞑想をする事で、バランスの異変を感じ取る事ができるようになる。

 例えばそれを人間、自分の体にも当て嵌めたとしよう。曼荼羅の中心には、思考の中心である自分の精神が当て嵌まる。曼荼羅が「平面」を保っていれば体や精神に異常はない。しかし、何かの異変がある場合、バランスが崩れ曼荼羅が歪むのだ。

 人間が両手両足を広げたダヴィンチの図を思い出し、それを曼荼羅に重ねてみてほしい。例えば右足が悪いとすると、曼荼羅の右下の正方形が歪む。柔らかい膜に錘を乗せたように、曼荼羅が重力に引っ張られて歪むのだ。

 そのように、曼荼羅は「範囲」があれば、どのようなものにも当て嵌めることができる。寺院のような建物にも、そして地理的な都市や地域や国にも当て嵌めることができた。もちろん、物理的な範囲だけではなく、グループやコミュニティー、軍隊や国家など、有機的な範囲にも適用する事ができる。

 ある時、私はそれを「地球環のない地球」に当て嵌めてみた。瞑想の中で曼荼羅を地球に規模にまで拡大してみたのだ。するとどうも、その中心が日本にあるらしいということが見えてきたのだ。しかし、曼荼羅の規模を広げれば広げるほど長時間それを保つ事が難しく、私はその中心にたどり着く事ができないでいた。同じ頃、スリランカで増え始めていたサマージの僧たちから日本に存在するAG-0の噂を聞いた。

 観光客向けのネットカフェでATMA関連の論文を片っ端から調べ始めると、いくつものAG関連施設の存在が浮かび上がってきた。その関連性に直接言及するものはなかったが、どうやらAG-1からAG-8が世界中に散らばっている。曼荼羅上ではいまだにその中心に辿り着けていなかったが、私は「地球環のない地球」の中心がAG-0にあると確信し、それを調査するために急遽帰国した。

https://www.instagram.com/p/C8mHQN7pszh/?utm_source=ig_web_copy_link&igsh=MzRlODBiNWFlZA==


● 平泉寺・仮説ーファクト

 2020年にPUNKが非活性化したことで人類は安定したエネルギーの供給を失い、産油国と非産油国の経済格差の拡大¾¾世界恐慌が始まった。
 分裂反応を繰り返していたPUNKが世界中のプラントで一斉に安定して鉄の塊になったことが原因だった。

 もともとPUNKはその中心核が、大気から自然界に存在する天然の「自我」を取り込み不安定な状態になることで分裂し、放射線という形でエネルギーを放出した。その様子はとげとげしいウニのように見えた。

 PUNKは1938年にドイツで発見された当時、上手いこと言いたい研究者たちによってPUNKーPower Unit of New Karmaー(人類が背負う新たなカルマのパワーユニット)と呼ばれるようになっていた。
 その名の通り、大量破壊兵器として研究が進められ、広島と長崎にPUNK爆弾として落とされたのだ。その後、人類はそのエネルギーを平和利用に転換した。世界中でエネルギー供給が安定し、人々の暮らしも安定した。

 ところが1952年に太平洋のマーシャル諸島で発見された別種のPUNKは安定も分裂もしていなかった。とげとげしたPUNKとは逆に、ぷるぷるしたタコのような見た目をしていたので『ぷるぷるパンク』と呼ばれるようになった。
 物理的には分裂ではなく融合が期待されていたが、いまだにそれは実現していない。

 ちなみにアートマンのプラークリットは言ってしまえばミニぷるぷるパンク。ぷるぷるパンクそのものから抽出された有機物である。

 物理学者以外の世の中から忘れ去られていたそのぷるぷるパンクが、2020年のPUNKの非活性化により、それ以降再び注目されることとなった。1974年に発表された未完成の理論「大統一理論(GUTーGrand Unified Theory)」とセットで、である。
 GUTというのは、宇宙に存在する4つの力のうちの3つを、宇宙の時間を擬似的に遡ることで統一させようという理論であるが、研究者たちは、その原始の宇宙の力を加えることでぷるぷるパンクを分裂でも融合でもなく調和させようと躍起になっていたのだった。

 2024年初頭、そのぷるぷるパンクの調和式がwikiリークスから出回り、調和実験成功の噂が流れたが、噂された論文は発表されなかった。ATMAが急に台頭し始めたのがその頃だった。
 そしてこれ以降の私が幻覚マーヤー状態で見る記憶の断片には必ず地球環が現れるようになった。2023年以前の記憶には地球環がないのにもかかわらずだ。

 この年に何かが起こった。

つづく


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