海外で<ザ・日本人>vol.7「イギリスでお・も・て・な・し」
海外にいると家族ぐるみでホームパーティーに招かれる機会が多い、というのは本当です。わたしなんかは家具や食器、自分のキャパの問題で自宅に招くさいは基本、ひと家族、というよりそれ以上をいっぺんに呼んだためしがないのですが、外国の方がたは1度に複数の家族を招くことが多いです。今回はイギリスでのホームパーティーの様子を、日本との違いをまじえながらご紹介したいと思います。
社交に徹せよ
以前より感じていたことですが、外国人、特に欧米人と日本人のあいだでは「ホームパーティー」の定義がそもそも違うように思います。日本では親しい友人、家族とおしゃべりに興じることはもちろんですが、ホストとしては凝ったものでなくとも食事や飲みものが足りているかなど、飲食にかなり重きをおいているのではないでしょうか。
欧米人でもごくごく身内の、親族が集まるクリスマスなどでは、いわゆる日本の寝正月のようにボリューム満点の食事が出るようです。が、それ以外の友人知人とのホームパーティーでは、なにをおいても社交が第1のよう。食べものはあくまでも会話の小道具にすぎず、量も見かけも大変おしゃれでお上品です。実際、2家族以上が招かれている場合が多いので、立ち話をくり返しているとじっくり食事をしている暇がなく、たしかにそんなに量を用意する必要はなさそうです。
欧米人は少食⁉︎
これは外で会うときも同じで、アジア人どうしでは食事もモリモリ、会話もしっかりと、「めいっぱい食べながら合間に話す」といった食事中心の会食ですが、欧米人が混じると「トークトークトーク、合間にひとかけらモグモグ。デザート?わたしはもう結構、あぁお腹いっぱい」と、本当に⁉︎それでお腹満たされたの⁉︎と疑いたくなるほど会話が中心の「会食」になります。
男性ですと女性のように「小食ぶる」必要もないからこういったことはないかと思いきや、男性の場合も似たようなもので、あまり量をとらないようです。飲みに行くときはことさら極端で、イギリスはパブ文化でビール好きが多いので、ひたすら飲み続け、ナッツのひとつもない、ツマミをいっさいとらないで延々と飲み続けるそうです。つまり、人と会うときは事前に食事を済ましてくることが多いようで、それを知らなかった夫は当初、空きっ腹にビールを無限に流し込む羽目になり、その後はもちろん大変なコンディションに......。
面白いのが、この傾向は欧米人でも特にイギリス人に多いようで、同じ場にいてもスペイン人やオランダ人などほかの欧米人たちは普通にお腹も空くようで、さりげなく「なにかとる?」とうながすのですが、当のイギリス人が「いや...オレはべつに...」などとゴニョゴニョ言って注文しないそうです。
女性でも同じ傾向にあり、あるとき夜の8時からという会合がありました。たしかに夕飯には少々遅い時間帯ではありますが、集まるからには当然ディナーを共にするのかとわたしは思いこんでいました。けれど、これまたスペイン人が「これはその...何かお店で食べるってことかしら?」というような、よくぞ聞いてくれた、といった質問をすると、主催者のイギリス人は「ワインとかドリンクのほかに、軽いスナックみたいなものはメニューにあるわ」
Well, if you are peckish.
と、イギリス人が好きなpeckish(小腹が空く)で返されてしまいました。この1文を読んだ段階で、皆「あぁ、これは事前に食べてから行くべきなんだな」と納得したのでした。
ランチでも、アジア人が「デザートはどお?」と提案し、わたしは「待ってましたぁ!」と思っていそいそとメニューを取ろうとすると、例の欧米人たちの「あぁ〜お腹いっぱい」がそちこちからでてき、言いだしっぺのアジア人も「と、思ったけど、わたしもやめといたほうが良さそうね」と気まずそうに取りやめてしまう始末です。
ホームパーティーやお茶会でも似たような傾向にあり、ランチはそれでも比較的しっかり「食事」といった感じで豪華ですが、夕方以降、夜にかけてはとくに要注意です。
遅刻歓迎
まだイギリスに来たばかりで招かれ慣れていないころ、16時始まりのホームパーティーにお邪魔しました。わたしも、お宅訪問は「少し遅れるぐらいで丁度いい」という常識をふまえたつもりだったのですが、それでもザ・日本人すぎたのか、わが家が1番乗りでした。
他家のメンバーが到着するまでわざわざ紅茶をいれてもらい、早すぎた?わが家の相手をする羽目になったホストに余計な負担がかかったのでは、などと申し訳なく思ってしまいました。以来、なるべく遅れていくようにしていましたが、この習慣にハマりすぎるのも問題で、お店集合の場合は予約時間の関係かオンタイムの家族が多く、わが家が1番遅くて気まずい思いをしたことがあります。
それにこりて次回は早めに出向くと、ふたたび1番乗りで、どうも読めません......。また、当然ながら日本人がらみの会では通用しづらく、大幅な遅刻はたんなる遅刻魔とみなされ、欧米式と使い分けが必要です。
腹は減らしすぎるな「欧米人少食論第2弾」
さて、この16時から始まった会では大幅に遅れて全員がようやくそろい、さぁ、お待ちかねディナータイム?と思いきや、クリスマスだったのでイギリスのホットワイン、マルド(mulled)ワインをふるまわれたあとは、クリスマスのお菓子、ミンス(mince)パイをひとつだけそれぞれに配られました。
イギリスではドリンクもシンプルで、やはりおしゃれ、スパークリングワインやらワイン、ボタニカルなノンアルカクテルなど、いちいちすべてがステキなんですが......始めの乾杯をした1杯で延々と何時間でも、じっくり腰を落ち着けてひたすら会話をする、ということもままあります。この日もマルドワインのあとはかなり時間があき、人数も減ったころようやく追加の赤ワイン1本が、おしゃれな陶器の器に注がれて6人にふるまわれました。
結局22時近くまでほぼ絶食状態で、空腹すぎて会話に集中できませんでした。そのほか、日本人社会ですとちょうど夕飯どきのお誘いでも、こんどは予想どおりやはりおしゃれなフィンガーフードで立食式のカクテルパーティーだったりするので、欧米式の場合はなにかお腹にいれてからのぞむのが無難です。これは参加者も心得ているようで「大勢のゲストがいる=誰がいつ来ていつ帰っても差しつかえない」という状態で、皆それぞれマイペースで好きなときに来てあっという間に帰ったりする人もいます。ようはもともと飲食を求めに来ていない、それこそ「社交的に」顔見せしておくという参加者もいるわけです。そこらへんのさじ加減が始めはよくわからず、なにかと戸惑いました。
飲めや食えやのアジア式
その点、やはり中国人などアジア圏の人びとは「客人にたらふく食べて帰ってもらう」ことが大前提な気がして共感しやすいです。日本人社会でのつき合いも、一時帰国で大事にハンドキャリーで持ち帰ってきた「とっておき!」な日本酒や焼酎をだしあったり、から揚げや天ぷら、手巻き寿司やおせち料理までだしていただいたくことがあったりと、皆さん食のおもてなしがすごいです。
なにも欧米式をけなしているわけでも、アジア式を過剰にもとめているわけではありませんが、わたし自身はザ・日本人的に、お客さまにはお腹いっぱいになって帰ってほしいなぁ、とつねづね思っています。そのため、質より量にかたむいてしまうこともしばしばで、となると盛り付けが欧米人のように可憐で美しくない......というジレンマに陥ります。
ポスト・コロナの会食
イギリスではコロナウイルス対策で、今年3月よりロックダウン(都市封鎖)が始まり、他家との往き来も禁止されてきたのでホームパーティーもしばらくお休みでした。それが今月に入り、さまざまな事項が緩和され始めました。7月9日発表の政府ガイダンスによると、2家族までは往来して交流してもよいことになったので、引っ越してしまう友人家族をわが家に招待し、換気のよい庭でランチをしました。
じゅうぶんな量の消毒ジェル、手洗い用ソープ、取りばし、紙皿と割りばしなどを用意してお迎えしました。社会的距離(social distancing)を気にしながらも会話をはずませ、途中には毎回子どもたちに大人気ですっかりわが家の十八番となった、スイカ割りを今年もしました。子どもたちにはどんなにお腹いっぱいでも別腹の、アイスクリームもはずせません。友人からは「子どもたちにとって夏のよい思い出になった」といってもらえ、皆で楽しいひと時を過ごすことができました。
ここまで欧米式と日本式の違いを紹介してきましたが、いずれもわたし個人の体験にもとづくものなので、ほかにもさまざまな違ったパターンがあるかと思います。実際わたし自身も、ロンドンで飲めや騒げやのかなりハッチャケた送別会にも参加しましたし、イギリス人のお宅で朝からホテルのように豪華な食事をふるまわれた朝活会もありましたし、持ち寄りで食卓もにぎやかなベビーシャワーも経験しました。
ひとつ共通していることは、「おもてなしの心は万国共通」だということです。毎回どのお宅に招かれてもホストのまごころに感激し、自分も見習わなければと、いつも思いを新たにしています。今後コロナウイルス関連でさらなる規制緩和がすすみ、なんの心配もせず心おきなく自由に交流できる日が戻ることを願っています。