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厚岸蒸溜所

近年、NHK朝の連続テレビ小説やハイボール人気の追い風を受け、日本では空前のウイスキーブームが巻き起こっています。
そこに国産ウイスキーの輸出を行っていた堅展実業(けんてんじつぎょう)株式会社が、自ら本格的な国産ウイスキー造りに取り組むべく北海道の南東部である北海道厚岸郡厚岸町に、新たなウイスキー蒸溜所を設けました。
それは道内では実に80年ぶりとなる新規蒸溜所の建設で、ニッカウヰスキー余市蒸溜所(後志管内余市町)に続いて、2つ目のウイスキー蒸溜所が北の大地に誕生しました。

それこそが「厚岸蒸溜所」です。

その厚岸蒸溜所は日本のクラフトウイスキー蒸溜所の一つで「スコットランドの伝統的な製法で、アイラモルトのようなウイスキーを造りたい」という強い想いで堅展実業株式会社が設立し、2016年10月に開業した日本の新興蒸溜所です。
厚岸町周辺は潮気を含んだ深い霧と清澄な空気、そして豊富な泥炭層を持つ土壌を持ち、エゾ鹿が出没する大自然が手の届く範囲にあり、ホマカイ川の水はピート層で濾過され、アイラ島の水の様に茶褐色をしています。
海藻を含むピート、植物を含むピートを使用した自家製ピートも製造可能な土地で、寒暖の差も激しく夏は20度を超え冬は-20度を下回る環境はウイスキーの熟成に大きな期待を感じさせる気候風土です。

そのクラフトウイスキーメーカーである「厚岸蒸溜所」を設立・運営している「堅展実業株式会社」とはどんな会社なのでしょうか?
堅展実業株式会社の設立は1982年で元々は食品原材料の輸入などを手掛ける貿易会社で、他にも国産ウイスキーの輸出なども行っていました。
堅展実業株式会社の本社所在地は東京都千代田区にある帝国ホテル東京オフィスタワーの一角で、代表取締役社長は樋田恵一(トイタ ケイイチ)氏。
厚岸蒸溜所の所在地は北海道厚岸郡厚岸町宮園地区で、所長は立崎勝幸(タツザキカツユキ)氏が務めています。

厚岸蒸溜所の両輪と言える樋田氏と立崎氏の出会いは本業の食品原材料輸入業の現場だったそうです。
元大手乳業メーカーの技術者だった立崎氏と樋田氏は共に「ものづくり」への情熱で意気投合し、それがきっかけとなり樋田氏は『厚岸蒸溜所』の所長に立崎氏を招聘したそうです。

樋田氏と立崎氏の出会いから現在に至る物語、それはまるで100年近く前の壽屋(現在のサントリー)の創業者、鳥井信治郎がウイスキーの製造を学んだ竹鶴政孝を山崎蒸溜所の工場長に招聘し、新規事業としてウイスキーの製造を開始した構図に酷似しています。
経営者としての樋田氏と職人としての立崎氏の立場と関係性は往年の鳥井信治郎と竹鶴政孝の関係性を彷彿させます。

樋田氏は当時を振り返り「私も彼も”ものづくり”が好きという共通点があったので、乳業と酒造という全く違うジャンルではありましたが、非常に興味を持ってもらえました。どの業界においても新規工場の立ち上げというのは一大イベントで、創設に関われるメンバーは限られています。様々なトラブルに対処して、解決する能力がなくてはいけませんから。そういったことから、私が声をかけたことで、『見込まれた』と感じてくれたのではないでしょうか」と語っています。
引用元:ONE STORY2018.02.24記事より

樋田氏が招聘した立崎氏をキーパーソンとしてゼロから築き上げられた『厚岸蒸溜所』の歴史は2013年より始まります。
ここからは厚岸蒸溜所の歴史を見ていきたいと思います。

2013年、樋田氏と立崎氏は国内の蒸溜所2件から、それぞれニューメイク「江井ヶ島」と「アラサイド」という原酒を買い取り、試験熟成を開始します。
2014年、試験熟成の経過は上々で、厚岸ならではのフレーバーを持ったウイスキーになることを確信し、当初の予定通り厚岸町内に厚岸蒸溜所の建設予定地となる土地を購入。
翌2015年に厚岸蒸溜所の建設はスタートしました。

2016年「スコットランドの伝統的な製法で、アイラモルトのようなウィスキーを造りたい」という強い想いのもと、設備はスコットランドのフォーサイス社製のものを導入。
設備の施工はすべてフォーサイス社の職人が来日して、ポットスチルを含む製造設備を設置。
その後、全ての設営と研修完了後、10月より蒸溜所を稼働、蒸溜を開始。
(本格操業は11月より開始)
なお、厚岸蒸溜所に設置されているポットスチルの形状はストレートヘッドのオニオンシェイプで、アイラ島のいくつかの蒸溜所のものと似たデザインを採用しています。
加熱はラジエーター方式、付属するコンデンサーはシェル&チューブ式でマッシュタンはセミロイター式です。
発酵槽(ウォッシュバック)はステンレス製で、あえて温度調整を出来ないタイプで、自然に任せながらクラフトマンが発酵のタイミングを見極めるスタイルを採用しています。
熟成樽はバーボン樽やシェリー樽に加え、入手困難なミズナラ樽も使用。
さらにワイン樽やラム樽とのマッチングなど、現在も多様な可能性に挑戦しています。

厚岸蒸溜所が竣工した翌年の2017年、蒸溜を開始して約1年でダンネージ式の熟成庫である第1熟成庫が満杯となり、蒸溜所の向かいの敷地に同じくダンネージ式の第2熟成庫を建設。
2018年2月27日、厚岸蒸留所として初商品となるノンピート・バーボン樽熟成のニューボーン・ウイスキー『厚岸 NEW BORN FOUNDATIONS1』を発売。
その同時期に厚岸湾のすぐ側に第1や第2とは違う方式となるラック式の第3熟成庫の建設が完了。
この第3熟成庫は室内無柱構造のラピッドプラス建築を採用し、空気中を漂う海の香りがウイスキーの特性に良い影響を与えることを期待して、従前とは違った場所・方式を採用しています。
同年8月には厚岸蒸溜所における初のピーテッドモルト『厚岸NEW BORN FOUNDATIONS2』を発売しました。

2019年3月には厚岸蒸溜所初のブレンデッドウイスキーとなる『厚岸NEW BORN FOUNDATIONS3』を発売。
同年8月NEW BORNシリーズの最終作となる『厚岸NEW BORN FOUNDATIONS 4』を発売しました。
そして2019年11月には第3熟成庫の横に更に追加する形で第4熟成庫を完成させました。
第4熟成庫の完成と時を同じくして、2016年11月の蒸溜所本格操業より3年が経過。
いよいよNEW BORNシリーズの流れから集大成となる熟成期間3年超の「ウイスキー」の製品化に踏み出します。

2020年2月27日、いよいよ2016年秋の創業より丸3年以上が経過し、厚岸蒸溜所初の熟成期間3年超となる純国産シングルモルトウイスキー『サロルンカムイ』が発売され、好評を博しました。
2016年から始まったウィスキー製造、その初仕上げ・初蒸溜された原酒が、ウィスキーとして成長したことを感じる仕上がりは一つの完成形として市場に歓迎される形で結実しました。
『サロルンカムイ』の配合原酒は全て操業初年度である2016年製のもので構成され、熟成樽はミズナラ樽を筆頭にバーボン樽とシェリー樽と赤ワイン樽になり、ピーテッド原酒とノンピーテッド原酒をヴァッティングしてライトリーピーテッドに仕上げられているそうです。
なお、商品名の『サロルンカムイ』とは、アイヌ語で「タンチョウ」を指し「湿地にいる神」という意味だそうです。

厚岸ウイスキーの序章は「厚岸 NEW BORN FOUNDATIONS1」に始まり「サロルンカムイ」の完成を以って一旦の終局を迎えます。
そして、厚岸ウイスキーはここから新たに次の展開へと向かうことになります。

2020年10月28日、厚岸ウイスキーにおける次の新章と言える二十四節季シリーズ第一弾、シングルモルトジャパニーズウィスキー「厚岸ウィスキー寒露(かんろ)」発売。
既に厚岸町でのウィスキー製造は5シーズン目を迎える中で、待ちに待った念願のフルボトルでのリリースとなりました。
ワイン樽・バーボン樽・シェリー樽・ミズナラ樽の3年熟成原酒をブレンドした「厚岸ウィスキー寒露」は約15,000本用意するも在庫は即日完売。
厚岸蒸溜所初となるフルボトルサイズでの商品化への国産ウイスキー市場の期待の大きさを誰もが実感出来るほど速度感溢れる完売劇でした。

そして2021年2月28日、24節気シリーズ第2弾となるブレンデッドウイスキー「厚岸ウイスキー雨水(うすい)」発売。
構成原酒は厚岸蒸留所で蒸留・熟成したピーテッド、ノンピートモルト原酒に加え、グレーンは海外からニューメイクとして輸入したものを、厚岸蒸溜所内で3年以上熟成して使用し、クラフトウイスキーメーカーとして可能な限り”厚岸産のブレンデッドウイスキー”を作ったという1本でもあり、これから理想へと近づくための試金石となるブレンデッドウイスキー、その始まりの逸品と言えるでしょう。
なぜなら、現段階でグレーンの熟成を自前で行ったことが挙げられます。
ただ単に「厚岸3年熟成のグレーン原酒」ではなく「熟成済みの輸入バルクグレーン原酒」を使えば、手間も労力も少なく済みます。
当然、味わいにおいても熟成を感じられ、全体的にまとまりが良くなり違う個性になった可能性もあります。
敢えて、それ=「楽」をしなかった点に蒸溜所が持つ芯の強さと商品力の高さ、それらを「厚岸ウイスキー雨水(うすい)」から感じることができます。

同年5月、24節気シリーズの第3弾シングルモルトウイスキー芒種(ぼうしゅ)発売。
同年8月、24節気シリーズの第4弾ブレンデッドウイスキー処暑(しょしょ)発売。
その後も厚岸の歴史は紡がれていきます。

厚岸湖と別寒辺牛湿原はラムサール条約の登録湿地です。
ラムサール条約とは、1971年2月2日にイランのラムサールで採択された湿地に関する条約で、水鳥をはじめとする野生動物の生息地となっている湿地を、国際的な協力のもと保全および賢明に利用することを目的としています。
厚岸蒸溜所もこの豊かな自然を守り、共存していく蒸溜所を目指しています。
ウィスキーに使用する上水の取水口は、蒸留所のそばを流れる尾幌川上流のホマカイ川。その周辺は湿原地帯で、清流にしか生息しないといわれるバイカモの生息地です。夏季に咲く小さな白い花は豊かな水のシンボル。
この水が厚岸のウィスキーを育みます。
[引用元:厚岸蒸溜所公式HP]

厚岸蒸溜所のハウススタイルはアイラ島の如くヘヴィリーピーテッド麦芽を使用したスモーキーなモルトです。
そしてアイラモルトの伝統と精神を受け継いだ「原材料の全量を厚岸から調達して造るウイスキー(厚岸オールスター)」を目指しています。
北海道厚岸町はアイラ島のウィスキー造りとよく似た風土で、泥炭(ピート)層を通った水を仕込み水に用い、冷涼で湿潤、そして海風が当たる場所で日々の熟成が進んでいます。
厚岸周辺はウイスキーの風味づけに欠かせないピートが豊富に埋蔵されており、海・山・湿原などの変化に富んだ地形によって、ピートを採取する場所ごとに異なるフレーバーが期待できます。
厚岸蒸溜所を舞台にした新時代のジャパニーズウイスキーヒストリー、その扉が開いた先には何があるのか?
目指すウイスキーの芽吹きは、すぐそこまで来ているのかもしれません。

堅展実業株式会社「 厚岸蒸溜所」
【住所】〒088-1124 北海道厚岸郡厚岸町宮園4丁目109-2
【電話】お客様センター:0120-66-1650
【ホームページ】http://akkeshi-distillery.com/
【Facebook】https://www.facebook.com/akkeshi.distillery/