第94回アカデミー賞 雑感
第94回アカデミー賞の発表も終わりまして、先日の予想とともに振り返って行きたいと思います。
ちなみに前日予想はこちら。
結果は以下の通り。
本命(◎)で15部門的中
一応(○▲△)7部門的中
ハズレ 2部門
完全に予想外だったのが、編集賞の「DUNE/デューン 砂の惑星」と短編アニメ映画賞の「The Windshield Wiper(原題)」でした。
「DUNE/デューン 砂の惑星」は技術系の賞には強いかとは思っていましたが、まさかここまで総なめにするとは思っていませんでした。
とにかく尺が長い上にシリーズとしての始まりという印象も強いので、編集としてそこまでインパクトがあるものだとは思っていませんでした。結果的に今年の最多6部門での受賞は素晴らしいですね。
「コーダ あいのうた」が作品賞受賞!
本命視されていた「パワー・オブ・ザ・ドッグ」を抑えて「コーダ あいのうた」が作品賞を受賞しました。「コーダ~」は、今回ノミネートされていた3部門(他に脚色賞、助演男優賞)を全て受賞するという結果になりました。このあたりからもノミネート発表段階ではまだそこまで有力視されておらず、発表までの期間で急激に評価・評判が高まったのではないかと思いますね。正直作品賞まで突き抜けるとは思っていませんでした。というのも本作は監督賞、編集賞にはノミネートされておりません。監督賞をノミネートされずに作品賞を受賞したのは2018年の「グリーンブック」以来、編集賞にノミネートされずに作品賞を受賞したのは2014年の「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」以来となります。そしてこの両方で未ノミネートながら作品賞受賞というのは、編集賞が設立された1934年の第7回以降では初となります。そういった点ではかなり異例の受賞となります。
多様性への評価
「コーダ あいのうた」で助演男優賞を受賞したトロイ・コッツァーは聴覚に障害を持っている俳優として初の受賞ですし、「ウェスト・サイド・ストーリー」で助演女優賞を受賞したアリアナ・デボーズはクィア(LGBTQのQ)を公表した黒人女性として初の受賞となりました。人種や肌の色、そういったことが受賞の壁とならないことを示したという点では今年のアカデミー賞には大いに意義があると言えるでしょう。
「ドライブ・マイ・カー」は国際長編映画賞受賞!
「ドライブ・マイ・カー」の国際長編映画賞は日本人としてはとても嬉しいニュースですね。残念ながら受賞はなりませんでしたが、日本映画として初の作品賞にもノミネートされるなど日本映画史に残る快挙でしょう。同賞は2008年の「おくりびと」以来13年ぶりの受賞となりますが、「おくりびと」が死者の納棺という日本独特の風習を描いた作品だったのに対し、「ドライブ・マイ・カー」は愛する者の喪失とそこからの再生という普遍的なテーマだというのもなんとも印象的でした。さらには劇中劇として出てくる「ワーニャ伯父さん」では、日本語、英語、インドネシア語、中国語、韓国語、さらには韓国語の手話が同時にやり取りされる多言語劇というのも多様性の象徴ですね。
配信メインの作品は受賞ならず
「パワー・オブ・ザ・ドッグ」が受賞を逃したことで、配信メインの作品はまたも受賞できませんでした。昨年は「ノマドランド」が有力視されていたので受賞を逃すのはやむなしと思いましたが、今年に関しては「パワー・オブ・ザ・ドッグ」が大本命として存在していたのにも関わらず受賞が叶いませんでした。先述したように、「コーダ あいのうた」は監督賞、編集賞との兼ね合いで言えば極めてまれな受賞作ということになりますし、そうなるとやはり純粋な劇場公開作品とはまだ一線を画されているのではないかと邪推してしまいます。とはいえ限定にしろ劇場公開はするようになっているみたいですし、「コーダ あいのうた」も劇場公開と配信と同時にスタートだったようで、遅からず配信作品から受賞することもあるのかもしれません。
クリス・ロックの暴言とウィル・スミスの暴力
今年の授賞式で、プレゼンターのクリス・ロックがウィル・スミスの奥さんジェイダ・ピンケット・スミスを揶揄するような発言をしたことで、それに怒ったウィル・スミスが舞台上でビンタするという事態になってしまいました。世界中で生中継されていたのでカメラにもしっかり捉えられています。事情を聞けばウィル・スミスの行為は心情的には十分に理解できるものですが、やはりこの時期に暴力で問題解決をするといった印象はよくありません。ただそれの引き金となったクリス・ロックのトークはたしかにいただけないですが、このあたりはアメリカのメディアリテラシーと言うか倫理観を理解していないと判断は難しいかもしれません。いずれにせよ好ましくない形で授賞式が注目を集めてしまったのは残念ですね。
技術系、短編映画の賞は事前発表
昨年、授賞式で本来は一番最後に発表されるはずの作品賞を前倒ししてかわりに最後に主演男優賞を発表するという異例の構成になりました。これは若くして亡くなったチャドウィック・ボーズマンが受賞となった場合、授賞式は感動的なフィナーレとなるであろうという演出上の都合かと思われますが、結果はアンソニー・ホプキンスが受賞となり、しかも授賞式には出席していなかったというオチまでついて、演出という面では明らかに失敗でした。
そして今年は技術系の賞、短編映画の賞は事前に発表し、受賞のシーンは事前録画を使用するという形になってしまいました。例年式が長時間化することを懸念していてその対処だろうと思いますが、やはりこのやり方だと、地味な部門の賞を軽視しているような印象な拭えません。数多く合った感動的な要素も演出次第では薄れてしまうというのがもったいないという気持ちでした。
とまあこんなところでしょうか?
受賞作、受賞関連作で見ていないものもまだたくさんありますのでまずはそれを見てからまたあーだこーだ言いたいと思います。
とりあえず「パワー・オブ・ザ・ドッグ」と「ドント・ルック・アップ」を劇場公開してほしいです・・・。