耳慣れない疾患名

わたしには、時刻の経過が把握できない。そして、数学ではなく算数でつまずいている。さらには左右を間違えたり、中指と薬指の区別がつかないときもある。
しかも、一回なぞではない。

わたしのように、こうして何か特定のことで困っていたりする人は、どうやら一定数存在するようで、わたしと違う症状で悩む人がいれば、同じ症状で悩んでいる人もいることが、ネット記事から浮かんできた。


──ゲルストマン症候群。
耳慣れない疾患名だ(だいたいわたしは、医者ではない……)が、その中でもとりわけ、聞き慣れない響きをもつ。
どうやら、脳の損傷が原因で発生するらしいのだが、そのメカニズムまでは詳細が解明されてはいない。
発達障害、高次脳機能障害なども一緒くたにされて検索に引っかかってしまうため、主治医に訊いてみた。

「治療法はないから、工夫しての生活だね」

そうなるんだろうなあ。
また、夫も簡易検査ではあるが、このわたしの診断結果を聞いて腑にストンしたようだった。その日と翌日、わたしが何度も片付けるのに挫折していた寝室を、夫はいつの間にか綺麗にしてしまっていた。


本は単に書棚に入らなかった……


この積読塔をさらに読む本、読まない本に分けてしまうため、実際にはもっと片付く予定だ。


あと、本当に苦笑するほかなかったのは、推しの俳優さんまでがゲルストマン症候群だということだった。

倍返しだ! と、おれには関係ない! で有名な彼、堺雅人さんは、数字がとんでもなく苦手なのだそう。しかし、彼がそれを微塵も見せなかったのは、ひとえに工夫と努力のたまものなのだろう(ほぼ暗記)
彼が必死になって暗記した数字の行方には、わたしは少しだけ心当たりがある。

それは、忘却の彼方 だということだ。
決して悪意からではないし、できたら当事者は覚えておきたいと思っているが、それができない。逆に字が読めない、書けない、という症状もあったりする。
ただ、それら全てが揃うのは、まれだそうだ。

これで、わたしの長年かかえてきた、ぐんにゃりした違和感が見えてきた。
めげてもいないし、落ち込んでもいない。

「あ、やっぱりそうなんだ」

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冬川蒼真
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