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行きたいところ:自分史上最古の聖地群〜トロイ、ベイカー街、東京五色不動、黒死館(前編)〜

 お気に入りのアニメ、映画、本などの舞台に行ってみることは「聖地巡礼」と定義されている。
私が旅行するパターンはこれが多い。観光地もあるが、そうでない場所もある。そう言えば、最初に行きたいと思った場所は何処だったろう?

 最古は、小学生の時読んだギリシャ神話のトロイ戦争の舞台であるトロイ遺跡だ。ジュリーマンによって発掘が行われるまで、トロイは架空の都市にすぎないと思われていた。
 親にせがんで、より詳しいホメロスの「イーリアス」を買ってもらった。登場人物は多いが、いち推しはヘクトール。トロイ王の長子で次期国王である。弟パリスの不始末で不利な戦争をすることになり、最終的にギリシャ方の英雄アキレウスに討たれてしまう。王国は彼の死後、オデュッセウスによる「トロイの木馬」の計により滅亡。赤子であった息子アスティアナクスは殺害され妻アンドロマケーは捕虜として連れ去られる。
 ホメロス「イーリアス」のトロイ戦争の年代は、紀元前13世紀から11世紀の間と言われ、遙か昔であり、現在の遺跡も本当に王宮があった都市の遺跡であるかは断定できないらしい。
 その時は現地に行き、遺跡の城壁に立ち、ヘクトールの心情を理解したいと思ったのである。しかし、小学生にとってはトルコへ渡航するなど独力では不可能であった。

 自分で初めて訪れたのは、ロンドンであった。
ギリシャ神話にもハマっていたが、図書館にあった児童向けの推理小説全集も大好きで、シャーロック・ホームズが次の推しである。彼はロンドン中心部ベイカー街221Bにワトソン博士と下宿している。世界初の諮問探偵で、事件の捜査で市街を動き回る。小説には、通りや駅、建物など様々な固有名詞が登場し、どれも英語の響きが魅力的だ。
 大学の卒業旅行として初海外の地をイギリス、ロンドンに決めた。文庫本を持参し、現地で”A to Z street map  London”を買い、通りの名前を突き合わす。バスや地下鉄を使いながら、ヴィクトリア朝の街並みを幻視していた。当時のベイカー街は現代より短く、221番地は架空であったから。

 就職後、最初の4年間は東京の寮に入居していた。生活は仕事中心となり、休日は聖地巡礼以外の選択肢も山のようにある。それでも思い出したように行きだしたのが「東京五色不動」であった。
 高校3年生の受験期にもかかわらず、少しずつ息抜きに親に隠れて読んでいた中井英夫の「虚無への供物」。1954年の東京で発生した連続殺人事件に以下の東京五色不動は重要なモチーフとして登場する。

 目白不動 神霊山金乗院慈眼寺(豊島区高田)
 目黒不動 泰叡山瀧泉寺(目黒区下目黒)
 目青不動 竹園山最勝寺教学院(世田谷区太子堂) 
 目赤不動 大聖山東朝院南谷寺(文京区本駒込)
 目黄不動 養光山金碑院永久寺(台東区三ノ輪)

 たった5箇所で全て23区内にあるにも関わらず、最後の目黄不動を訪れたのは2年ほど前で、その存在を知ってから40年程が経過していた。遂に全部周り終えたという感慨はあったが肝心の不動さまは非公開らしく、寺の門は閉じられていたのであった。

 トロイ遺跡にはまだ行けていないが、現実にある場所なので到達は可能だ。だが、到達できていない私にとっての最古の聖地がまだ一つ残っている。「巡礼」することは可能か、何をもって巡礼とみなすか考えてみたい。
(後編へ続く。)
 

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