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硝子の場合 -無数のモナドに依るひとつの街の物語


ガラス瓶が並んでいるのが好きだ。
本当は香辛料が入っているのが好きなのだが、数年前、生活に困窮した時に売ってしまって、それ以来空のまま置いてある。

幾つかは教会で貰ってきた聖水が入っている。
晴れた窓辺に並べて置けば、通過した光の幾らかが虹になる。光の精霊がガラスの上で遊んでいるのだ。
それを飽きもせず眺めている。
香辛料や、砂糖や、薬草や、釦。ガラス瓶の中に入れられる細々とした手仕事たち。
柔らかい色、鋭い色、固い色、光には色々な種類がある。

空の瓶を眺めている。
光が虹色になって跳ねている。歪みも気泡もヒビ割れも、光のアトリビュートでしかない。

空の瓶が並んでいる。
瓶の中には魂が入っている。
薄桃色、水色、黄色、渦巻く靄のような、淡く発酵する魂が入っている。

プリズム、光、光の集合としての白色、白色矮星、爆発、収縮、霧散。
遠い未来の夢。

ガラス瓶が並んでいる。
瓶の中には永遠と宇宙が入っている。



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ゲンヤ(詩人)
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