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第34話「君野クイズ」

カレーを食べた後、昼休憩に幼児退行で君野くんが行方不明。
ふらふらとまたどこかに行ってしまった。

桜谷と堀田は家庭科室の因縁を残したまま、一回目を合わせるとどちらが先に見つけるかを水面下で競いあっていた。

「君野くん!!」

「君野!!」

数十分の捜索後…
校庭の真ん中で彼が上履きのまま徘徊していたが、堀田と桜谷がまるで砂漠のオアシスを見つけたように我先に近づいた。

「よかった…!外に出てなくて。」

堀田が腕で額の汗を拭う仕草をした。

「あ…」

と、一言つぶやいた君野の瞳に光が戻る。

「また僕、徘徊してたんだね。ごめんねまた迷惑かけちゃって…。」

「気にすんなよ。お前が無事で何より。」

と堀田が陽気に笑い、君野の肩を軽く2回叩いた。

「…。」

まさか、これも演技…?
いや、そう思いたくないし思わないしよう…。
と、桜谷は心に留めた。

その道中、2人の真ん中にいる君野はフラフラとしながらキョロキョロと辺りを見渡す。

その様子に、桜谷と堀田の目つきが鋭くなる。

「…。」

「ねえ、なんでバッ」

「バッタの名前がバッタって、実は音から来てるんだよ。日本語で『バッタ』って言うけど、その由来は、バッタが跳ねる時に出す音『バッタ、バッタ』っていう音に由来してるんだ。」

と、君野の疑問文から、濁点でこの問題だな?と判断した堀田が早口で答えた。

「そーなんだ!跳ぶ音をそう捉えるの面白いね!」

と、君野が素直に感心する。
それもそのはずだ。
このくだりは何回も繰り返しているのだ。

彼を探しにいったり、下校など3人で歩くとどこかで
君野はそうした疑問を忘れているのか高い確率で投げかける。

その質問の内容は大抵同じで、草木を見たらあの葉っぱは何か?木は何故長生きなのか?カラスを見たら不幸と言われる理由は?などと聞いてくる。
桜谷と堀田はそれを掴んでいるため
自然に君野クイズ大会が始まる。

特に2人がいがみ合っている時は熾烈を極める。

「…。」

君野はまたキョロキョロと辺りを見渡す。
堀田と桜谷は君野の顔の動きと連動するように、
何がクイズになるのかと、今までの経験をもとに構えている。

お陰でその回答でも君野に気に入られるたいと、長文解説になるが全て予定調和。
ちなみに、何故か君野も正答率や解説のわかりやすかった方を最後に過剰に褒めるため
2人も必死なのだ。

「ねえねえ、なんで小中」

「『高』が付く理由は、簡単に言うと日本の学校教育の歴史的な背景が関係してるの。昔、江戸時代からの学問を学ぶ場として『小学校』と『中学校』は必要だったけど、『高等学校』っていうのはもっと近代になってから設立されたの。つまり、学校教育が進んで、学問のレベルが上がるにつれて、高等って意味を持たせたわけよ。」

と、スラスラと負けじと桜谷も答えた。
長文で語れば語るほど賢く見えると思っているように桜谷はふんっと偉そうに腕を組んでみせる。

それに堀田が静かにイーッ!と歯を剥き出しにして悔しがった。
 
「ええ!そうなの?桜谷さんも博識なんだね!頭いい!」

と君野が喜んだ。
そして教室前の廊下に来た。
もうここで終わりか?
と今回はドローかと思いきや

「ねえ、四葉のクローバーって…」

と言いかけた。

すると桜谷と堀田がすかさず反応したが
先に音を発したのは桜谷だ。

「四葉のクローバーは自然界ではすごい珍しいことなの。だから、それを見つけること自体が『運がいい』って思わせるわけだよ。しかも、四枚の葉っぱにはそれぞれ意味があって『希望』『信仰』『愛』『幸運』と言う意味があるわ。」

と長々と解説し、勝った…!!と思った矢先

「四葉のクローバーにはな、実はその『四葉』の由来って、昔のヨーロッパの文化に関係してるんだ。古代ケルト人は、四つ葉を見つけた時に、それが精霊の祝福を受けた証だと信じてたんだよ。だから、四葉のクローバーが幸せの象徴として広まったわけなんだ。それに、四枚の葉っぱがそれぞれ意味を持つのは、単なる偶然じゃなくて、ケルトの信仰では『四』って数字自体がすごく神聖視されてたからなんだよ。たとえば、四つの季節とか、四つの元素とかな。」

「へえええ!ヨーロッパ?四葉のクローバーって日本だけじゃないんだね!じゃあ見つけたら大事にしなきゃ!」

と、君野が今日イチの反応を示した。

「なんでそんなことスラスラ出てくるのよ!」

桜谷もその解説は初耳と驚く。

「なんか、君野を思ったらその前に見た資料が頭に出てきた。」

まるで缶の底にくっついた飴を振ったら出てきたみたいなテンションで答える堀田に桜谷はため息をつく。

そして、君野は毎回何故か解答率と解説が多かった方、良かった方だけを過剰に褒める。

「堀田くんすごーい!!頭いい!流石だね!」

とパチパチと拍手をした。
今回は堀田に軍配が上がったようだ。
桜谷も今回は負けを認めさわるを得ない。

起こることはたったこれだけだが
あんな話まで覚えられない…!!と桜谷は悔しさを滲ませた。  

そしてそれをすると毎回毎回、君野は最後に必ずこの君野クイズを出す。

「ねえねえ、僕、2人に何を思ってるかわかる?」

と、可愛らしく小首をかしげる。
それに2人はわざとらしく答えず、
わからないとそれぞれジェスチャーをする。
彼からの正解が聞きたくてたまらないのだ。

君野はその2人の様子に
口をムギュッとさせ、目を丸くした彼は道化師のようにぱっと笑う。

「えへへ!正解はずっと3人で一緒にいたい!でしたぁ!」

と、君野が笑う。
それにいつも、桜谷と堀田はいがみ合うのをやめる。
その場が和やかになって
それでいつもこのクイズが終わるのだ。

「問題です!僕としたチューをしたのを隠したのは誰でしょう?」

しかし、今回の君野は続けてそう言い、目の前の2人を驚かせた。
教室を目の前に、君野が体をくねらせてそう答える。

「チューを隠したってなんだ?」

堀田はその言葉に首を傾げて何事かと考える。
なぞなぞだだと思っているようだ。

一方桜谷の様子は一瞬の笑みから眉をしかめている。
昨日隠れてキスをしたって、天使の置物を割り、
今のミステリアスな彼とキスをしたことを言いたいのか?と考えている。

「なぞなぞだよな…?」

堀田が1人違う方向で考え顎を親指と人差指でつまんで考えている。
その言葉に君野に体をくねらせて首を傾ける。

「それもこんな風にクイズをしていた時だったんだ。僕なんか猛烈に愛おしくなっちゃってその目の前の人にキスしちゃったんだよね。」

「なに!?キスってお前、誰としたんだ?」

「私じゃないの!?」

と、桜谷も驚く。
健忘症と言って、裏ではまた誰かと違うことをしているの!?
などと勘ぐった。
2人が問い詰めるように君野に前のめりになる。

しかし君野はそれにフフッと笑って

「これは昨日の夢の中の話。」

と、おどける。
そう言われて再び桜谷が昨日のミステリアス君野とのやりとりを
彼が「夜にみる夢」と例えていたのを思い出す。

やっぱり堀田くんに全部話す気なの…!?

とギクッとする。
彼女の気持ちは子どもたちに遊ばれるシーソーくらいグラグラ揺れていた。

「なんだよ桜谷。お前さっきから顔が忙しいぞ。2人だけの秘密ってやつか?」

「改めて問題です!昨日見た夢が正夢となった今日、僕はその流れでどっちにちゅーしたでしょうか!」

「「え!!?」」

君野はそう無邪気に問題を出すと一瞬堀田と桜谷が目を合わせる。
そして

「俺!!」

「私!!」

とクイズのテンションで素早く答えた。

「正解は…顔に手を覆って目を瞑って!」

その言葉に2人が目に手を当ててつむる。

桜谷はその言葉に安堵する。
きっと彼は、ここで呪いのキスをして、自分の檻の中に戻っていくのを
自然にやってのけようとしたと判断したのだ。

「じゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃ…じゃん!」

ドラムロールを口で鳴らした君野。

「お、俺!?」

桜谷はその驚く堀田の声に目を見開いた
あからさまに君野は堀田に密着していたのだ。
その光景に桜谷もだんだんと体を震わせ
全身から怒りが湧いてくる。

「ここまでやらせておいて…。」

とレンズの奥の目が殺意むき出しだ。
手が震え、新調した黒いスカートをちぎれてしまうばかりに
ギュッとつかんでいる。

「これが夢の中と同じ展開!なんか突然2人がクイズを出し合って、多く正解した方をこうやって讃えてた!」

「そ、そうか!びっくりした!」

と堀田は頭を掻いて照れている。

「私をどこまで小馬鹿にするのよ!!!」

と、桜谷が爆発した。
怒りはピークを迎え肩で息をして言う。
その怒鳴り声に昼休みの静かな時間が一瞬ピリつき
また何事なのか?と廊下や教室にいる1年生達がこっちを見ている。

「いい加減にして。私を馬鹿にしすぎよ!!」

「おい!桜谷!ほっぺだぞ?言ってもクイズの特典だろこんなの。」

堀田は慌てて自分の頬を指を差す。
しかし堀田がみていない君野の顔は
焦りもせずただじっと桜谷をなんとも思っていなそうな顔で目でみている。

「お前を消してやる…。夜枕に立ってでも…。」

と、凄みのある恨みたっぷりの声で答え、そのまま教室にも入らず来た反対側の廊下を1人ズカズカと歩いていってしまった。

「桜谷!!」

堀田が呼びかけたが
彼女は振り返ることもない。

「ごめんね堀田くん。」

「お前が謝ることなんかないさ。だってさ、こんなのじゃれあいの一つだよな。」

「そうかな?」

「そうかなっ…?」

と言った瞬間
君野は怒った桜谷を走って
追いかけたが堀田はまだ傾けた首を直せない。

「そうかな…?」

と、眉間にシワを寄せ、首を傾かせながた立ち尽くす。
しばらく君野が言った言葉に頭を支配されていた。

「桜谷さん!!」

君野は堀田とのやり取りで見失いかけた桜谷の背中においついた。
2階の階段の踊り場においつき、桜谷は君野に手を掴まれた。

「やりすぎちゃった?ごめんね。」

と君野が謝罪する。

「もういいわ、それがあなたの本性でしょ。もう知らない!」

「桜谷さんの反応が見たくなったんだ。」

「人を馬鹿にして遊びたいだけじゃない!悪意のあるあなたが健忘症の君野くんもあなたが演じてるならいい!それならもう全部放棄するわ。あとは堀田くんといつまでもよろしくやっていれば?」

と、冷たく突き放すように答えた。

「ごめんねでも、これも僕の作戦なんだよ。二度と、桜谷さんが僕を呼ばないための方法。健忘症の君野と仲良くするための手段としてとってるんだ。だから本心じゃないんだよ?」

「…。」

その言葉に桜谷も黙り込むが、目に入っていた深いシワは少し浅くなった。

「僕は引き出してはいけない人間なんだ。それを分かってほしかった。僕は健忘症の僕であり続けたいし、明日僕から桜谷さんの記憶がなくても3人で仲良しでいたい。僕を引き出さなければいい。幼児退行とか、呪いのキスの話はしなければ絶対に僕は反応しないと思う。それを思い知ってほしかった。」

「十分思い知らされたわよ…。」

「僕は何をされようが桜谷さんのものだよ?」

と、君野は穏やかに笑う。
それにやっと君野に振り返る桜谷だが、その顔が言葉と同じ意図なのか読み取るのは難しい。

「何でもしていいの?私君野くんのキスをして、その日が持て余した場合は捨て日って呼んで、あなたを家におびき寄せてムダ毛をピンセットで抜いているわ。それに、あなたの健忘症…いえ幼児退行を悪化させるためにベッドの下に閉じ込めている。閉所恐怖症で怖がるのを知っているから。それでも何をされてもいいって思えるの?」

「いいよ。だって僕、桜谷さんが僕に狂っているのをみるとたまらなく嬉しいんだ。だから僕に狂って怒る桜谷さんが可愛くてしょうがない。」

君野はそう言って桜谷に目を細めて近づく。
彼女は今、可愛い顔をした悪どいヘビに食べられてしまうかもしれないのに
彼のドキッとする強いハグを甘んじて受け入れる。

「僕を記憶の檻に閉じ込めていいから。」

「そうよ…もうこんなのこりごりよ…。」

「うん。お別れだね。」

君野はそう言って彼女に抱きついたまま桜谷の顔に手を伸ばす。
顔を近づけ至近距離で顔を覗いてくるのだ。

それに今までの怒りが吹っ飛ぶように桜谷が顔を真っ赤にして目をそらす。

「いいからしなさいよ!私からする!?」

と、悪態はつくが、目を瞑って
心ではもう待っている。

「でももう会えないのは寂しいなあと思って。大好きだよ。もちろん健忘症の君野として。」

と、君野は桜谷の顔を持ち、
自分のしたい方へ彼女の顔を持って唇を重ねた。

数秒のキスだったが
桜谷は顔が離れ、もう?と寂しさを感じた。
思っている自分にいる事にまた嫌悪する。

「かわいい。」

と頭を撫でてくる君野。
桜谷は心を鬼にして目をつりあげこう言った。

「調子に乗らないで。私あなたを3日縛りするから。」

「なに?3日縛りって。」

「あなたの記憶を必ず3日で消す。もう二度とでてこないようにしてやるって言ってるの。」

「ふふ。いいね。なんかゾクゾクするね桜谷さんの愛が強すぎて。」

「もういいから話さないで!健忘症の彼が汚れる!あと、今日アナタの手足を縛ってベッドの下に入れるから。さすがに、閉所恐怖症まで演技じゃないか見ればわかるから。」

「演技じゃないよ。本当に苦手。」

と何故か笑顔で答える。

桜谷も自分の感情に驚いている。
さっきまで本当にもう二度と付き合わないと思っていたのに
気づいたらもう心が持っていかれて彼を縛ろうとしている。
それは今の自分への戒めでもある。こんなヤツ絶対に好きなわけない…!

きっと野放しにしたら他の人に猛威をふるいそうで怖い。
私が管理して封印しておかなければ…

と、結局一緒にいる道を選んでいる。
でも大丈夫…これでキスしたんだから。

「桜谷さんが僕が好きならば効く呪いのキス、効くといいね。」

「もう黙って!」

と彼の口を剥ぎ取るかのように桜谷はその口に自身の手を被せた

続く。


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愛犬元気
今、サポートしたいと思いました? 偶然ですね。私もサポートされたいと思っていました。 いや、そう思ってくれるだけでも嬉しいです。ですがサポートしてくれたら寝る前にニヤニヤします。通知きた画面にニヤニヤしながら眠りにつきたいなんて贅沢なことしてみたいなんて思ってたりしませんよ多分…