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気の済むまで泣かせてあげたかった あの日をやり直せたら
あの日、傷ついた彼女になんと言えばよかったのだろう
どんな言葉だったら、もっと、ちゃんと、寄り添えたのか
彼女が涙を流した理由を私は知っていて 私だけが知っていて
泣いている彼女の隣で、ただ私も悲しくて、悔しくて
渦巻く感情を整理できずに
自転車を止めて、ハンドル握り締め、声を押し殺して泣いている彼女の横で
私はただ彼女を傷つけた人の悪口さえも言えずに
なんのフォローも出来ずに、ただただ「あなたは絶対に悪くない」と一言、絞り出しただけで
そんなことしか言えない
もっと他に伝えたい気持ちはあったのに、言葉に出来なくて
彼女はもう憶えていないかもしれない
彼女はいつもとても前向きで、私なんかよりずっと思慮深くて、優しい人だった
彼女はあの日を憶えているだろうか
もう忘れているかもしれない
けれど、私は今でもふとそのときのことを思い出しては考えてしまう
何を言うべきだったのか、私は何を言いたかったのか 何を伝えられたか
どうしたら彼女の心を軽くできただろう
頬を涙で濡らしたまま、「ごめんね」と言って、またペダルを漕ぎ出す彼女
なんとかしたいと思う このままでは駄目だとわかっている
言葉にならない感情で心は埋め尽くされ、破裂してしまいそうだった
なのに私は声も出せずに、ただ焦って後ろをついていくだけ
あの後ろ姿
こんなに近いのに、遠い
私は守りたかったのに 私が、守りたかったのに
私が彼女の気持ちを楽にしてあげたかったのに
戸惑うだけの私を気遣って、「ごめんね」と言ったのだ
そんな言葉を言わせずに済んだちゃんとした対処があったはずで
せめて、気の済むまで泣かせてあげることさえも出来なかった
私は大切な友達を支えられなかった
あの時、何の力にもなれていなかった
次の日の彼女はもう笑っていた
でも本当の笑顔じゃないことはわかっていて
けれど私は、それでも、何も伝えられなかったのだ
悔しくて、悲しくて、今でもまだ私はあの日をやり直したいと願ってしまう
彼女は憶えているだろうか
どうか忘れていてほしい