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20.学生時代、酷いあだ名をつけた相手と再会した話

書店で会計を済ませ、出口に向かっていたら背後から声をかけられた。
「もしかして小日向洋子さん?」
この街に越してきて3ヶ月、声をかけてくるような知り合いはいない。
驚いて振り向くと、そこには派手な女性が立っていた。美人だが化粧が濃い。
私の困惑した様子を見てその女性が言った。
「あーやっぱり!そのホクロとメガネ!ハナちゃんでしょ?」

ハナちゃん。
その一言で、過去の記憶が一気に蘇った。
目の前に立っているのは私の中学校の同級生、高城美奈代だ。
昔から美人で華やかで家も裕福で、クラスのリーダー的な女子だった。
私はといえば地味で内向的で、いつも1人で本を読んでいるような中学生だったので、当然彼女と私に接点はなく、同じクラスにいてもほとんど口をきいたことがなかった。

私は、小鼻のところに少し大きめのホクロがある。
ある日、高城美奈代が私の顔を見て、
「あ。なんだホクロかぁ。鼻くそだと思っちゃった。ふふふ…鼻くそハナちゃんね」
と言って笑ったのだ。
軽い気持ちで言ったのだろうが、その日以来、私のあだ名はハナちゃんになった。
時に子供は残酷なあだ名をつける。今なら笑い話にもなるが、当時の私はかなり辛かった。
そしてそれ以降、ことあるごとに美奈代は私をからかったり、バカにするようなことを言ったりするようになった。
中でも私の描いた絵を「やっぱりオタクっぽい子はオタクっぽい絵を描くのねw」と馬鹿にしたことは、本当に許せなかった。

大人になってそんなこともすっかり忘れ、高校まで過ごした北陸の地方都市を離れ、東京吉祥寺に越してきて3ヶ月。
まさかあの頃の同級生とこの街で再会するとは思わなかった。

私の本名は小日向洋子。現在29歳。そこそこ売れている漫画家だ。
ペンネームは日向洋(ひゅうがよう)本名を縮めただけだが、男だか女だかわからない名前で結構気に入っている。
高校時代は漫画投稿サイトで作品を発表していたが、その後マイナーなWeb漫画サイトで連載を持つことになった。
ところがそれがちょっとメジャーな商業誌の編集さんの目にとまり、改めてマンガ好きの間ではわりと有名な雑誌で連載開始。
なんと、かなりのヒット作になってしまった。
昨年はアニメ化もされて、アニメ制作会社の方々の素晴らしい技術でハイクオリティーな作品に仕上げていただき、アニメも大ヒット。

昨年末に出版社主催のパーティーに出席した際、編集さんに「日向さん東京に出て来ない?今はデジタルでどこに住んでても仕事はできるけど、一生に1度ぐらい東京暮らしをするのは良い経験になると思うよ」と言われ、意を決して3ヶ月前に上京してきたのだ。

どこに住もうかな?と考えた時に、吉祥寺しか思いつかなかった。
有名な漫画家さんが何人も住んでいるのは知っていたし、コミックエッセイなども読んで、緑も多くてとても住みやすい街という印象があったし、画材屋さんや書店なども充実していると聞いていたからだ。
今でも地味で内向的なのは変わらないけれど、自分の人生は大きく変わったと思う。
そんな時、高城美奈代と再会したのだ。

「久しぶりね。まさかこんなところで会うなんて!もしかして吉祥寺に住んでるの?」
美奈代は気さくに話しかけてくる。私がそうだと答えると、
「この辺は学生向けの結構安いアパートもあるもんね」
と、私が貧乏暮らしをしていると決めつけてくる。相変わらずだ。
「私は練馬のマンションに住んでるんだけど…やっぱり吉祥寺いいなぁ。響きがお洒落だし、センスの良いお店たくさんあるし。引っ越してこようかしら。あ、ねぇねぇちょっとお茶しない?」

半ば勢いに流される感じで、美奈代とコーヒーショップに入った。
「ハナちゃん仕事は何してるの?私は松田商事の受付なの」
松田商事と言えば結構名の通った会社だ。自慢気なのも無理は無い。
私はめんどくさいので正体を明かす気はなかった。
「私は在宅で仕事してるんだ」
間違いではないだろう。美奈代はたいして興味がないのが丸わかりで、それ以上追求してこなかった。

その時美奈代のスマホが鳴った。何やらトラブルの様子だ。
「ええっ?風邪ひいた?そういうことなら仕方ないけど…せっかくセッティングしたのに!」
どうやら約束していた友人にドタキャンされたらしい。
電話を切った美奈代が私を見つめて言った。
「ねぇ、ハナちゃん。合コン参加しない?」
「えつ?」
「4対4の合コンセッティングしたんだけど、今の電話聞いてたでしょ? 1人欠員が出ちゃったのよ。今からじゃ他の人も誘えないし、こうして偶然会えたのも何かの縁だから…ね、お願い!」
そう言って私に向かって拝む仕草をする。

合コン…話には聞くが参加した事はないし、私には無縁の世界の出来事だと思っていた。
「いやでも私こんな格好だし」
その時の私はジーパンにトレーナー、薄手のダウンジャケットという、全身量販店スタイルだった。
まぁいつもほとんどこんな感じで、夏場はトレーナーがTシャツになるだけだけど。

「大丈夫。このご近所に住んでいる旧友に偶然会ったので誘ったってちゃんと説明するから!ハナちゃん合コンなんて行ったことないでしょ?せっかくだから参加してみなよ。何事も経験だよ」
いちいちちょっと上から目線なのは気になるが、どうも私は「何事も経験」と言われると弱い。
もしかしたら漫画のネタになるかも?と思ってしまうのだ。
こうして私は生まれてはじめての合コンに参加することになった。

席についた瞬間にその場に流れる場違い感。
男性4人は全員スーツで決めているし、私以外の女性たちは、各自めいっぱいお洒落している。
私は化粧すらしていないし、書店と画材屋を回った後なので、結構な大荷物を抱えていた。

美奈代は先ほど言っていたように私を紹介してくれた。余計な一言付きで。
「私の中学生時代の同級生のハナちゃん…じゃなくて小日向洋子さんです。さっき偶然再会したんだけど、突然欠員が出たので誘っちゃった」
「小日向洋子さん?なんでハナちゃんなの?」
私の向かいに座っていた知的メガネの男性がすかさずツッコミを入れてきた。
「あはは。ごめーん。子供の頃のあだ名なの。彼女、鼻のところにホクロがあるでしょ?それを誰かが鼻くそがついてるのかと思ったって言って、それ以来ハナちゃんて呼ばれてたの」
誰かがじゃなくて、あなたが言ったんですよ美奈代さん。
本当に自分ではない他の誰かが言ったと思っているのか、それとも多少の罪悪感があってごまかそうとしたのかわからない。
でも、彼女が暗い中学時代に輪をかけて暗くしてくれた恨みを私は忘れていない。
いや忘れていたけど。
さっき思い出してしまった記憶はもう戻せない。

ちょっと微妙な空気は流れたが、微笑ましい昔話としてみんな笑っていた。
「あ。もし気になるなら手術で簡単に取れるよ?うちのクリニックに来たら割引料金でやってあげるよ」
私の右斜め向かいに座っている、茶髪でチャラい感じの男性が言った。
どうやら今日の合コンは、男性全員が美容外科医らしい。
お医者さん相手の合コンは女性が張り切ると聞いたことがあるが、それもあって欠員を出したくなかったのかもしれない。
「えー。取っちゃったらハナちゃんじゃなくなっちゃうじゃない。せっかく可愛いあだ名なのに」
と美奈代が笑う。由来が鼻くそで、可愛いもあったもんじゃない。
すると、私の向かいの知的メガネ男性が言った。
「取らなくていいよ。個性的で可愛いじゃん」
私は男性に可愛いなんて言われたことがなかったので、ポーカーフェイスを装いながら「それはどうも」と愛想なく答えただけだったが、内心すごく動揺していた。
「営業妨害だぞ」などと言いながら、みんな笑っていた。

自己紹介の後、趣味の話になって、女性陣がみんな映画鑑賞だスキューバダイビングだ料理だフラワーアレンジメントだと自己主張する中、
「私は漫画とかアニメが好きです」
そう言ったら、女性陣は楽しそうに「やだオタク?」「でもそれっぽい」「見たまんま」とはしゃいだ。
「引き立て役すぎるw」と言う小さな声も聞こえてきた。
そんなことは私も重々承知している。
私の横に座っていた美奈代が、肘で軽く私を突いて小声でささやいた。
「ちょっと。いくら引き立て役でも、もうちょっとましなこと言いなさいよ」
そう言いながら、口元には意地悪そうな微笑みが浮かんでいた。

ところが男性陣の反応は女性陣の期待を裏切り、意外にもアニメや漫画の話で盛り上がってしまった。
慌てて「私アニメはジブリくらいしか見ないから」「私も。でもアナ雪は見たわ」と、何とか話を合わせようとする女性陣。
私の向かいの知的メガネ男性が言った。名前は確か森野玲人だ。
「俺は【ナナミナ】が好きなんだよね。今年の秋に第2シーズンやるって。今から楽しみだよ」
なんと!彼の言ったアニメは、私の漫画が原作のアニメだ。
正式タイトルは【七海&美波】大金持ちのテレパシー能力を持った双子の兄妹が事件を解決するミステリーコメディーだ。
「あ。俺も好き。アニメもクオリティ高かったよね」と他の3人も同意してくれた。
私は「それ私の作品です!」などと言うことはせず、それでも嬉しくて、ニコニコしながら運ばれてきたお酒を口に運んでいた。
ふと横を見ると、美奈代が不機嫌そうな顔で私を睨んでいる。

私がトイレに立って、用を済ませた後手を洗っていると、美奈代が入ってきた。
「ちょっとハナちゃん。いい気にならないでよね。あなた今日は飛び入りなんだから。少しは身の程を知りなさいよ」
いい気になるも何も、私は自分の好きな趣味を言っただけで、彼らが勝手に盛り上がっているだけなのに。
「合コン相手がお医者様だと知って、お付き合いしたくなっちゃった?でも無理。整形しないとあんたなんて絶対無理w彼らはたくさんキレイな女の人を見てるんだから。あんたなんか相手にされるわけないでしょ」
多少酔っているとはいえ、ひどいことを言う。
「私はね。30までにお金持ちの男の人と結婚したいの。邪魔しないで!」
本当にこういう人がいるのかと驚いた。30までと言ったらあと1年もないではないか。
私は別にこれ以上お金はいらないし、お金目当てで男の人とお付き合いしたいとも思わない。

「邪魔するつもりなんて全然ないけど…私そろそろ帰るね」
これ以上絡まれたらたまらないので、私は美奈代にそう言った。
結局彼女は中学生時代と全然変わっていない。自分が中心でチヤホヤされないと不機嫌になるのだ。
ましてや昔見下していた私の振った話に、男性陣が食いついて盛り上がっているのが許せないのだろう。

私たちが席に戻ると、なぜか一発芸大会が始まっていた。
可愛らしくおしぼりでひよこを作る人、あまり似てないものまねを披露する人、1000円札を折ってターバン野口を作る人など、それなりに盛り上がっていた。
私がそろそろ帰ると言うと、美奈代が、
「せっかくだから、何かひとつ芸を披露して帰りなさいよ」
と言い出した。多分意地悪のつもりだろう。
当然私は宴会芸など持っていない。
仕方がないので先ほど画材屋で買ったスケッチブックとペンを取り出し、向かいに座っている男性4人の似顔絵をコミカルに描いた。
女性陣の似顔絵は描きたくない。大抵不機嫌になるからだ。
以前田舎で一度だけ出席した友人の披露宴で、その場で新郎新婦の似顔絵を描く余興をしたことがある。
みんな喜んでくれたが、友人の新婦が後で「私あんなに鼻大きくない!」と文句を言ってきたのを覚えている。

「おおっ!すげー上手い!」
「絵心ありすぎだろ」
「いやちょっと待って…なんかこの絵、見たことがある。えーと…小日向洋子さんだよね?」
そう言って私を見つめてきたのは、メガネの森野玲人だ。
おもむろに自分のペンを取り出し、ナプキンに名前を書いた。

小日向洋子 
真ん中だけ見れば日向洋

「もしかして【七海&美波】の原作漫画を描いている日向洋?」
ああバレてしまった。
こんな落書きで身バレするとは、安易なペンネームをつけてしまった自分のせいでもあるのだが、森野玲人は相当なファンなのだろうか?
「ええ…はい。そうです」
そう答えるしかなかった。正直ちょっと嬉しかったのも否定できない。

「日向洋さん!大ファンです!!」
私の手を強く握って、森野玲人が言った。
その場が騒然となった。何のことだかわからないといった女性陣を尻目に、男性陣が盛り上がる。
「まさかこんなところでお会いできるなんて」
「僕ミナミちゃんの大ファンで」
「サインもらってもいいですか?」
私はサイン会などをしたことがないので、現実世界でこんな熱烈に歓迎されるのは生まれて初めてだ。

「俺はあの、普段は地味で眼鏡をかけた情報屋の女の子が好き。メガネを外してメイクすると絶世の美女なんだよね。あ、そういえばあの子も鼻の横にホクロがあったよね」
少し照れたように森野玲人が言う。
そこにはあまり触れて欲しくなかった。
「ふーん。それって自分がモデルだったりして?メガネを外すと絶世の美女が?モデルって言うより願望なんじゃない?」
漫画もアニメも知らないくせに、美奈代が鋭いところを突いてくる。
「絶世の美女ねえ…」
そう言って私の顔を見て嫌な感じに笑う。すごく意地悪な顔だ、と思う。
私はすごく恥ずかしかった。もともと美しい彼女には、こんな気持ちはわからないだろう。

「別にいいじゃない変身願望があったって。大抵の人は今の自分と違う自分になりたい願望があると思うよ。だから俺たちの仕事が成り立っているって部分もあるし」
森野玲人がそう言ってフォローしてくれた。
彼の好きなキャラを色紙に描いてプレゼントしてあげたいと思うくらい嬉しかった。
「それにさ、日向さん…じゃなくて小日向さん、あと5kg痩せて、背筋を伸ばして姿勢を良くして、眉毛整えてちゃんとメイクすれば、かなりイケてると思うよ」
条件付きではあったけれど、かなりイケてる…そんなふうに言われたのは生まれて初めてだった。
「そうだな。骨格がキレイだし、磨けば光りそう」
「それになんといっても肌がすごくキレイだから、やっぱり美しさって肌だよな」
と、他の男性たちも重ねて褒めてくれた。
こんな夢みたいなことがあって良いのだろうか…私はボーっとしてしまった。

「ハナちゃん、帰るんでしょ?今日はありがとう。気をつけて帰ってね」
貼り付けたような冷たい笑顔で、私を追い出すように美奈代が言った。
他の女性たちもしらけたような冷たい視線を送ってきたので、
「ごめんなさい。お先に失礼します」
そう言って事前に聞いていた会費をテーブルに置いた。
すると美奈代が、
「人気漫画家なんでしょう?ここの支払いくらいしてくれてもいいんじゃない?あなたみたいな人を誘ってあげたんだから」
と絡んできた。いつの間にかかなりお酒が入っているみたいだ。
そりゃここの支払いくらいできるけれど、何の義理もないし、そんな気分には全然なれない。

「美奈代さん、中学時代から全然変わらないね。自分が中心でチヤホヤされていないと気がすまないんだよね。覚えてないの?私にハナちゃんってあだ名をつけたのはあなただよ」
言うつもりはなかったけれど言ってしまった。
「なっ…なによ!それがどうしたっていうのよ!」
「あの頃はすごく嫌な思いもしたけど、それはもういいの。あなたは私みたいな女は整形しないとお医者さんとは付き合えないって、さっきトイレで言ってたけど、整形じゃ治らない性格の悪いあなたの方が気の毒だわ。それじゃあね」
私にしてはかなり思い切って言ってしまった。
他人に対してこんな攻撃的なことを言ったのは生まれて初めてだった。
でも、すごく気持ち良かった!!

私の作品のファンだと言ってくれた男性たち、条件付きだけど、イケてると言ってくれた森野玲人くん。
それが私が勇気を出す力になってくれたのだと思う。
私はスッキリした気分で出口に向かった。
「待って!あの…よかったら連絡先交換してもらってもいいかな?」
そう言って私を呼び止めたのは、森野玲人くんだった。
仕事関係以外で男性から連絡先を聞かれたのは生まれて初めてだった。
本当に今夜は初めてのことばかりで、多少嫌な思いもしたけれど、なんだか足元がふわふわするくらい私は浮かれて帰路についた。

私が住んでいるのは家賃20万円のマンションだ。
上京する際に、親を心配させないように、とびきり安全性の高いところを選んだのだ。
貧乏な学生の住む安アパートに住んでいると思っていたらしい美奈代が知ったら驚くだろうと思うとおかしかった。

合コンから半年後、今私は森野玲人くんとお付き合いしている。
もちろん生まれてはじめての彼氏だ。
最初はファン100%の彼だったけれど、次第にその比率が変わっていき、今ではファン30%、恋人70%くらいかもしれない。
彼のアドバイス通り、これまた生まれて初めてダイエットにも挑戦した。
恋のパワーって凄いと思う。5kgどころか10kgの減量に成功し、美容院に行って髪型を整え、眉を剃ってお化粧の勉強もした。
意識して背筋を伸ばし、ハイヒールを履いてお洒落な服を着たりするようにもなった。
結果、自分でもそこそこイケてる女性になれたのではないかと思う。
漫画のキャラみたいに、絶世の美女とまではいかないけど。
あの日あの時、美奈代に誘われて合コンに参加しなかったら、この幸せとは出会えなかっただろう。
だからといって彼女に感謝したいとは思わないけれど。

その美奈代だが、あの合コン以来性格の悪さが露呈して、もともと周囲の女友達からはあまり好かれていなかったこともあり、友人たちは離れていってしまったらしい。

「ほらあの合コンの時に俺の隣にいた茶髪のチャラい感じの奴が、あの時の参加女性の1人と付き合っててさ、いろいろ教えてくれたんだよ。なんか30までにこっちで結婚できなかったら田舎に帰ってお見合いするって親と約束していたらしくて、田舎に帰るみたいだよ」
玲人くんがそう教えてくれた。
田舎に帰ってお見合いをして結婚しても、きっと彼女は東京で暮らしていたことを鼻にかけて、周りの人を馬鹿にして嫌われるんだろうなと思った。
「せっかく美人に生まれたのにもったいないね」
と私が言うと、
「まぁね。でも洋ちゃんも言ってたけど、手術じゃ性格は直せないからなぁ」
と玲人くんが苦笑した。

ところで私は先日彼からプロポーズされた。
すごく嬉しかったけど、でも無理。
私は妻100%にはなれないと思う。

「妻50%、漫画家50%じゃダメかなぁ?」
私が困ったようにそう言うと、玲人くんは、
「全然OK!俺も夫50%、ファン50%だろうから」
と言って笑った。
予想よりファン度が高かった!
でも私の作品の1番のファンだと言ってくれるのは素直に嬉しい。

「あーでも、玲人くんと実家に帰って職業を言ったら、みんな私が彼氏に整形してもらったと思うかも」
その可能性は高い。親戚やご近所で噂になることは間違いない。
「そうかぁ。一応俺は全力で否定するけど、でもそれだけ洋ちゃんがキレイになったってことだよ」
そう言って抱き寄せてキスしてくれた。

その後あのメガネっ娘キャラも幸せにしてあげたくて、彼氏になりそうな新キャラを考えていたら、玲人くんに思いっきり却下されたのだ。
「漫画の世界は漫画の世界。洋子はリアル世界でイケメン夫と結婚したんだから、それでいいだろ?」
と冗談ぽく笑う玲人くんの笑顔にキュンとしたけど、自分のご贔屓のキャラに彼氏を作って欲しくないんだと思う。
さすが夫50%、ファン50%だ。
夫70%くらいになってくれないかなと思わないでもないけど、私は幸せだ。


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