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怖い話【 チロリン村 】

※ 初めてのお読みの方は【はじめに】をお読みください。


世の中には霊道というものがある。

霊道とはこの世とあの世をつなぐ入り口で、幽霊の通り道だ。

あの世との入り口は、森の中だったり、川の中だったり、そしてみんなの町の中にもある。

もちろん建物の中に、その霊道があったりもする。

都内に「怪談カフェ」というものがある。

お茶やコーヒーを飲みながら、怖い話を聞くお店。

そこはワザワザ霊道のある建物を探し出して、お店を作った。

だから怖い話をしていると、たびたび幽霊が目撃されるという現象が起きる。

これはその怪談カフェでの出来事。

その時のお客さんは6名。

怪談師さんが怖い話を話し終える。

そのあとは、フリートークのような形でお客さんとのお話になる。

その時来ていたある男の人がこんなことを言った。

「今日、ここに来て、すっかり忘れていた昔のことを思い出しました。」

怪談師さんが「どんなことを思い出したんですか?」と聞くと、

「ちょっと長いですが…。」と男の人は話し始めた。

その男の人、まさお君は小学生の頃、田舎のほうに住んでいた。

小学校1年生の夏前のお話。

まさお君は2年生の田中君とは学校では顔を合わせることはなかったが、帰り道が同じということもあり、学校の外ではち合わせると一緒に帰っていた。

夏休みも目前のある日、田中君は「夏休みになったら、一緒にチロリン村に行こう。」と言った。

まさお君も「うん、行こう!」となった。

【チロリン村】というのは古い前の小学校のことで、今ではお年寄りが集まり歌を歌ったり、将棋を指したりしている。

夏休みになると子どもたちも集まって、遊び場になる。

小学校時代に使っていたプールもあるが、今では使わずに枯葉でいっぱいになっている。

夏休みが来て、午前中にその日の夏休みの宿題を終えると、田中君と待ち合わせした場所に向かう。

田中君がいて、「じゃあ、行こう!」とチロリン村に向かう。

田中君の後ろをついて行くが、まさお君の知っている道とは違う方向へ歩いて行く。

住宅地を離れ、山のふもとにさしかかる。

山道を少し歩くと、全く道のない藪の中へと入っていく。

まさお君は(変だな?)と思いながらも、藪の中へと入って行った。

するとその先には、広い敷地があり、向こうの方には木造の小さな小学校にプールもある。

それにどこから集まって来たのか、たくさんの子どもたちが遊んでいる。みんな知らない子ばっかり。

小学校の手前辺りに一人だけ髪の長い女の先生が立っていて、無表情な顔で子どもたちを見守っていた。

田中君が「遊ぼう!」と言うので、まさお君はついて行った。知らない子どもたちとも仲良くなった。

その日はお昼ごろまで遊んで、お昼ご飯を食べるために帰る。

田中君は「明日も遊ぼう!」と言ったので、「うん。」と言った。

2日目も同じように遊んで帰る。

しかし、3日目にそのチロリン村に行った日のことだ。

いつものように田中君と遊んでいると、無表情な顔の女の先生が近づいてきた。

そして「ねぇ、水浴びしない?」と聞いてきた。

まさお君は「うん。」と言ったが、「あ、でも水着持ってきてない。」と言うか言わないかのところで、

女の先生はまさお君の手をガシッと強くつかむと、学校のプールの方へと引っぱって行く。

プールの縁までくると、先生は「さぁ入りなさい。」と言ってまさお君の腕を引っぱって、プールへと放り投げる。

幸いにもプールはまさお君の腰の高さほどしかなく、立つことができた。

それを見たほかの子どもたちも、「ワーィ」「俺も俺も!」と言いながら、次々とプールに入ってきた。

ずぶ濡れになりながらも、まさお君はプールを楽しんだ。

そして、お昼ごろになると家に帰った。

ずぶ濡れになって帰って来たまさお君を見て、おばあちゃんが驚いた。

「どこへ行ってきたんだい?」

「チロリン村。」

それを聞いたおばあちゃんは、不思議がる。なぜならチロリン村、つまり古い小学校のプールには水が張ってない。

「誰と行ってきたんだい。」と聞くと

「田中君と。」と答える。

「どこの田中君だい。」

「近所の。」

じつは近所に【田中】なんて家はない。

おばあちゃんは、しばらく考え込む。

そして「ちょっとついといで。」と言って、外に出た。

まさお君はおばあちゃんについて行く。

それは田中君と一緒に歩いた道と同じ。

住宅地を離れ、山のふもとに入る。

山道を少し歩いたら、藪の中に入っていく。

広く開けたところに出ると、おばあちゃんは「あんたが来てたのはここじゃないかい?」と言う。

田中君と来ていた同じ場所だが、違うのは小学校もプールもない。

少し離れたところに沼がある場所だった。

まさお君は「あれ…。」と言ってからの記憶が無かった。

次に目を覚ました時には、家の布団で寝ていて、おばあちゃんが「良かった、良かった。」と泣きながら言っていた。

まさお君が「あれ…」と言った後、何があったのか。

突然「せんせー!」と言って沼の方に走って行く。

そのまま沼にドボン!と入った。

慌てて追いかけたおばあちゃんは、必死になって沼に入ったまさお君を引っぱり上げた。

それでも強い力で「遊ぶんだー、遊ぶんだー!」言うまさお君を羽交い絞めにする。

なんとか藪の外まで出ると、まさお君は気を失ってしまった。

おばあちゃんの話しによると、その「田中君」というのはおばあちゃんが小学生の時に、あの沼で溺れて死んでしまった子どもらしい。

ひょっとしたら、成仏できずに一緒に沼に入ってくれる友達を探しているかもしれない、と言っていた。

そんな話を男の人がしてくれた。

怪談師の人はその日5個の怖い話をしたが、

「どのお話辺りで、その昔のことを思い出しましたか?」と聞いてみた。

すると「最後のお話辺りなんですけど、違うんです。怪談師さんの後ろに田中君と女の先生が現れて、こっちにおいでという感じで手招きをしてたんですよね。」と言った。

霊道を通って、田中君と先生がまさお君に会いに来たのだ。

霊道は町のどこかにあり、幽霊が出入りしている。

みんながいつも遊んでいるお友達。本当に人間ですか?

おしまい

【 元ネタ:スリラーナイト専属怪談師スズサク氏より 】

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