「今」を長い時間の流れの中で捉える
自分のコーチから受けた質問やフィードバックに意表を突かれて「え?!」っとなった後にしばし沈黙。
そして、「ハッ」と気づく。
その後、事実は何も変わらないのに、あれほどの苦悩はなんだったの?と言うほど自己認識や身体感覚が一変した経験が何度かあります。
今日はその中から、“時間軸” に関するコーチの問いの影響力を取り上げてご紹介したいと思います。
「今の苦しさ」に埋没して、著しく視野が狭まっているときに…
コーチから投げかけられた質問で、
長い時間の流れの中での“通過点”として「今」を捉えなおすことができたとき。
過去から未来につながる、自分の人生全体を構成する1つの要素として「今」をとらえることができたとき。ゆがんだ認識から自由になれて、内側に満ちるエネルギーが変化します。
「未来の自分」から「これまで〜現在の自分」を見つめた時、自己承認につながったコーチの問いかけ
1つめにご紹介する体験は、コーチングの勉強を始めてまだ間もないころのこと。
初めて自分にコーチをつけて、何度目かのセッションでした。当時の私は自己否定のどん底状態で、自分には何もない・何もできないという思い込みに苦しんでいました。入社して12年がたっていました。
今の苦境の愚痴を延々と語り続ける私の話に寄り添って、丁寧に聞いてくれていたコーチは、その後一呼吸おいて、こんな質問をくれました。
コーチ:「木村さん、12年前に新卒で入社した時には、将来どうなりたいって思っていたの?」
私:「そうですね…入社して一年くらいはずっとお茶くみ・コピー取り・タイピストって感じだったからなあ。私がお茶出ししている大きな会議室の10名くらいのお客様に向かって、自分自身が前に立って説得力のあるプレゼンテーションができるようになりたいとか、お客様から指名でお仕事をいただくとか、時差を気にしながら国際電話して海外の仲間と仕事してるとか、一人で海外出張に出かけているとか、グローバルチームの中でリーダーシップを発揮しているとか…そんな感じですかね。」
自分では、つまらないことを言ってるよな~と揶揄する気持ちで話しました。
コーチ:「そうなんだ…いろんな憧れがあったんですね。その新卒のころの木村さんから今のあなたを見たら、どんな風に見えるかしら?」
私:「え?!……」
そのあとのしばらく沈黙。
何も言えませんでした。
鳥肌が立っていました。
新卒の時にあこがれていたことを、今の自分がごく日常的な仕事として当たり前のようにやっているではありませんか。“自分は何もできない、何のとりえもないと思っていたけれど、ちゃんと頑張って成長してきていたんだ”と気づいて、とてもびっくりしました。
つい無意識的に誰かと比較して自分を卑下する傾向が強い私でしたが、この時ばかりは自分の努力と成長を、ただ暖かく認めることができました。おそらく、それまでの37年間の人生で初めて自己承認できた瞬間だったように思います。
「人生」という長い流れの中で今を捉えてみることで、目の前の世界がガラリと変わって見えたコーチの問いかけ
もう一つは、ワーカホリックで自称“アル中”だった役員時代。42歳でした。通勤時間が無駄だと思えて、地下鉄3駅で出勤できる場所に引っ越していました。
全くのど素人といっていい人事や総務のフィールドで、知識も経験もなく、ぶち当たる現実の課題がそのまま学習材料のような時期でした。ゴルフに例えれば、クラブの種類もよくわからないのにいきなりコースデビューして、ルールもマナーもハチャメチャで、振れば空振り、オービー。それなのに、とにかくコンペの幹事です!みたいな感じです。
タイムマネジメントもエネルギーマネジメントもぐちゃぐちゃ。睡眠時間は24時間から仕事と食事時間とシャワーを差し引いた最後に残る数時間。役職の責任に見合わない自分の無知と至らなさにさいなまれる毎日でした。
その当時、私は会社勤めとコーチの二足のわらじを履いていました。有料のクライアントを数名抱え、コーチ21(現コーチ・エイ)が提供していたCTP(Coach Training Program)というオンラインクラスの運営もしていました。ちょうどその頃私が担当していたモジュールが「タイムマネジメント」だったのはこの上ない皮肉だと感じていました。
「タイムマネジメント」のクラスで私がトレーナーとして問いかけていた最もコアな質問は、2つありました。
① 時間は、あなたの命です。あなたが死んでしまったら、時間は消失します。タイムマネジメントは、あなたのエネルギーのマネジメントです。あなたは、あなたのエネルギー=命=時間を何に費やしたいですか?
② あなたのパフォーマンスを最大化する為に、このことを満たせばそれ以外がうまくいくという、根本的に大切なものは何ですか?
私は自分のコーチとのセッションで、忸怩たる思いを話しました。自分が大切だと思ってお伝えしていることを自分自身が全く実践できていないことの恥ずかしさ・くやしさ。彼女は静かに私の話を聞いてくれた後、同じ2つの質問を私に投げ返しました。
一つ目の問いに対する私の答えは、「成長すること」でした。あれから15年たった今は、当時とは違うことにエネルギーを注いでいますが、そのお話はまたいつかさせていただくこととしましょう。あの時はとにかく、「成長すること」が何より大事でした。
二つ目の質問への答え。パフォーマンスを最大化するために私が最も必要としているのは、「良質な睡眠・朝の運動・バランスの良い食事」。それなのに、「何年も日課にしてきたはずの運動も全然できていないし、慢性的な睡眠不足。酒量もどんどん増えるばかりで、パフォーマンスを支える基盤は全く崩壊していて、成長も停滞している」と付け加えました。
すると、彼女は、何気なく、興味深そうに、質問してくれました。
「木村さん、今日話してくださっているタイムマネジメントのお話は、どういう時間の枠で考えているんですか? 1日? 1週間? 3年? それとも人生全体?」
これもまた、息をのんだ瞬間でした。
その質問を受けるまでの私には、1日・1週間という枠組みしかありませんでした。そして、あれができていない、これができていない、バランスが崩れている、自分が情けない…そんな風に感じていたのです。
彼女がくれた「それとも人生全体?」というフレーズが、私の認識を180度転換してくれました。“人生という枠組みで、今自分がやっていることを俯瞰する”なんて発想は皆無でした。自分が「タイムマネジメント」のクラスでトレーナーとして提供していた焦点を、自分自身に適応できていなかったんですよね。
まあ、人間って、そういうものじゃないでしょうか。
ある一つの局面ではよくよくわかっていることが、別の局面では全くわからなくなってしまっていたりします。
だから、コーチが必要なのかもしれません。
「人生」というレンジで考えたとき、見える世界がガラッと変わりました。
ああ、私はこれでいいんだ。自分の人生のタイムマネジメントは今最も適切にできている。今しか体験できないことを、寝ずに働ける若さが残っている今の体力で怒涛の如く経験しながら、集中的に学習している。おそらくこの2・3年を逃したら、こんな学習と成長は望めない。だから、「今」は日常の生活がぐちゃぐちゃでも、そのまま突っ走ればいい。パーンと目の前が開けました。
視野が広がったことで、被害者的になって座りこんでいた私が、シャキッとしました。
過去から未来、人生の流れ=【線】のある地点に焦点を当てることで見えてくるもの
私たち人間は、意識の焦点(何に意識を向けるか)を一度に一つしか持つことができません。
そして、私たちは、意識を向けたところからしか情報をとることができません。コーチが投げかけてくれる質問が、自分では生み出すことのできない“焦点”をくれるとき、そこに広がる「え!?」という空白と沈黙は価千金です。
あなたの、過去から未来へと続く人生の時間の流れ=【線】を構成する一つの【通過点】として、今のあなたや過去のあなたを観察してみてください。今この時も、時々刻々と過去になり、未来は今ここで創り出されています。
あなたが今抱えている憂鬱や不安、今ここでおかすかもしれない失敗などを通過して、それでも逞しく、ごく普通に日常を生きている10年後のあなたからは、今のあなたはどんな風に見えるでしょう?