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ある日のスノースクート 1

スキー場も多様性、今日は定休日といういつものローカルスキー場

そこにはしんしんと降り注ぐ雪が二日分溜まって、いよいよ明日に解放される。そう思うと定休日があるスキー場というのもアジがあり、スタッフの皆さん年末年始からお疲れ様でした。駐車場は使わせていただきます。

ゲレンデが滑れなくてもスノースクートは雪があれば割とどこでも滑ることができます。

いつも通る山間の道路裏に突如現れたオープンバーン、里山間伐林の一部が切り倒され十分な斜度と広さの斜面。大きなターンが3回は出来そう

山のオーナーが杉の手入れが出来なくなったのか開発の前段階なのか、どんな理由があるのかはわかりませんが、森の中にチラリと広い白い斜面を見た時は心が弾みます。

あの山は誰の持ち物だろう?
白い斜面に取り付く方法は?
滑りきった先
道路か民家か大きな川か?

行ってみないと答えはわからないのですが、見つけた斜面にアクセスする方法、滑るラインを考えているときは気になっているけど行ったことないお店の店内を想像するのにも似たワクワク感と緊張感があります

バックカントリーのフィールドも土地ごとに個性がありますが、いつも滑る地域には高原のような広い斜面は殆どなく。大体が間伐林や河川に落ち込む天然の森斜面。間伐林は木こりの方が整備しているのでほぼ人工斜面と行ってもいいでしょう。森林限界を突破するような高度にアクセスするのはハイシーズンは容易ではありません、実際は険しい沢や切り立った地形が多く気軽に滑れる斜面を探すことはなかなか難しいのです。

何より遅くともお昼にはお店で仕事をスタートさせることも自分の滑りの条件です。

コンディションが重なったとき
「今日はいってみるか」

そう決めると冒険心が湧いてきます。
1番好きなバックカントリー装備は丸腰、スクート以外はなにもなし。
ゲレンデ滑走と同じ装備、もしくはそれ以下の軽装の場合もあります。

もちろん山を舐めてはいけません。
ゲレンデレベルの標高だから出来ること。危険判断を感じれば徒歩で帰れる範囲のバックカントリーなら軽量軽装のほうが目的を遂行しやすいときもありますし、スノーシューを履かないことで本格シーズン前のツボ足ラッセルのトレーニングもかねています。

準備を整え歩き始めると、林道はまずまず積雪、斜度もないのでスクートには乗れずハンドルを押しながらのラッセル。

膝ほどまで下半身が埋まると押しているスノースクートより体のほうが低くなるのでスノースクートのノーズが浮いてきて意外と快適に進みます

かなり歩き、ようやく狙っていたバーンの前まで迫りどこから取り付くかと思案。
斜面対して真横に三本の材木切り出し用小道があり段差も三段あります。

この瞬間も楽しい時間です、広葉樹と杉林の境目が枝の密度も高く、雪面が少し硬かったりして登りやすいのです。枝を掴んで転倒を防いだりできます。また崩れる心配が少ないのでそこに狙いを定めて直登開始

肩にスクートを担いで真っ直ぐときに斜めに歩く。スノースクートをリュックに取り付けたりシューを履く時間が必要ないので肩担ぎツボ足はあっという間に登りをスタートできます。

疲れたらスクートを肩から降ろせる気軽さ、少しでもフラットになればそのまま蹴って距離を稼ぐ楽しさ。

急登なら前に投げてピッケルがわりにとスクート自体を道具に見立てて進んで行きます。

僅か30分ほどのハイクアップですが深い雪の登りを堪能出来ました。
新雪の下にある二日前の雨混じりの雪が登りを不安定にさせる斜面でした。

男は
原始のなごりで獲物を探しひたすら歩き疲れ果てたときにパフォーマンスを発揮するようになっているとか。確かに最後の最後で獲物を逃すのはシャレになりません。
歩くことで心拍数を上げてからのライディングは集中力が増します。

滑る斜面を想像しながらその脇を登っていくことでイメージは充分
薄く流していたイヤホンの音楽を止めて、ピークから滑る斜面を見下ろします。

よし、とラインを決めればあとはオートマチックにターンの始まり

右に左に力まないように。

滑り降り自分のラインを見上げるとGの釣り合いがとれたターン、悩んだところ、がしっかり線として残っています。

あーあの辺の左ターンはまだまだだな

もう一度挑戦したい気持ちを胸に駐車場まで登り返し。
人里の安心感

車まで戻る途中、以前お世話になったペンションIさんの前を通りました。少し時間あるし頑張ったからコーヒーとか飲もかな。。

バックカントリー斜面ぐらいスキー場のペンション街も楽しい
いつも外から眺めているレストハウスの扉を潜ればそこもまた別世界です

オーナーのFさんは画家で絵画コレクションが趣味そしてこう見えて私も専門誌で紹介してもらったこともある重度のアートコレクター

レストランや廊下にある絵画を見ながら現代アート、近代の日本画洋画の話しで盛り上がり

Fさんからは
「自分で絵は描かない?コレクターの方も自分で書き始める方いますよ」

「今さっきも白い斜面を滑ってきて、思った通りの線やスプレーのあとが残ったときなんかは自分が一本のペンになった気がしないでもないかも」

「ということはあの斜面にあなたの作品が。消える前に見てみないと」

難波田史男さんは自身の絵を描く行為を、雪原に放たれた一艘のソリに例えていた。白い紙にテンペラを塗ってソリのように絵を描いたフミオさん、雪面そのものをキャンバスに見立てる自分。

ペンションをあとに
歩く道中たったさっきの

心地よいラッセル
登りの攻略に夢中
キャンバスへのドローイング
コーヒーの湯気とFさんとの会話

一つ一つは小さな出来事だけど、それぞれの余韻が混然一体となって目にはうっすら涙、口元はニヤリスマイル(アルカイックな)を浮かべていた。

滑る行為だけでない、そこに至る道中これもまたスノースクートか!
明日はゲレンデを何本も滑るのが楽しみだ。

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