GEEK-4
GEEK-4アップです。
自分で言うのもなんですが、プロフェッサーGが超カッコよく書けたのでかなり満足w
自分で考えたキャラより、金五郎さんのキャラの方が、小説にすると動かしやすかったりしますw
ではでは、お楽しみくださいませー(*´∀`*)ノ
本エピソードの最初「GEEK-2」→ https://note.mu/purasu/n/n1bc9bfe90b78
ニューヨーク郊外、リッジウッドにあるベテランボーダー 、プロフェッサーGの家は極々一般的な平屋建ての一軒家だった。
そんな一軒家の、決して大きくはないがよく整備された庭の植え込みの中に、ファイヤークラッカーの暗殺者ジャック・ザ・リッパーは小柄な身を潜め、中の様子を伺っていた。
細い手足に薄い筋肉は、まだ彼が大人に成りきっていないことを示しており、褐色の肌、強いウエーブが不規則にうねる黒髪は南米系のそれだった。
だが、赤ん坊の頃にNYに連れてこられ、NYで育った彼に故郷の思い出は全くない。無論、両親の思い出も。
主人――今はBHと名乗っているが――は、幼少の頃からジャックに一通りの格闘術とナイフ使いを叩き込んだ。といってもBH本人にはそうした心得はなかったので格闘術もナイフの方は主人の知り合いという男に教わった。
ジャックの部族だけが持つ“擬態能力“は、彼が物心ついた時には既に身についていて、主人の雇ったベビーシッターを随分困らせたらしい。
その他の、言語や学問はすべて主人自ら教えてくれた。学校に通うことはなかったが、一日2時間、主人自ら勉強を教えてくれたことで、ジャックは高校生と同程度の学力がある。ジャックはこの時間が何より好きだった。
そうして時が過ぎ、主人がBHとなり仲間と共にファイヤークラッカーを立ち上げると同時に、ジャックは組織専属のアサシンとなったのだ。
主人が望むなら、誰でも、何人でも切り刻む。彼にとって主人は親も同然なのだ。彼の目的は分からないが、そんなことはジャックにとってはどうでもいいことだった。
主人に命じられるまま、擬態能力を駆使してあらゆる場所に忍び込み、十人近い人間を葬ってきた。誰にも見つかることなくターゲットに近づき、音もなく息の根を止める。そして、今夜も。
今夜のターゲットは、主人と敵対するボーダーなのだという。
一人は、科学者で虫の形のプロテクトスーツの大柄な男、もう一人は白黒のスーツを着たおしゃべり男。そいつは主人と同じテレポーターなのだという。
だが、例えどんな能力があろうと関係ない。奴らが自分の能力に気づく間もなく、この二本のナイフで始末してしえばいいのだ。
植え込みの中でジャックは目を細めた。
「プロフェッサーGですか?」
ゾイド犯罪対策チームのボス、アントニー・シャノンの言葉に、その場の全員が驚きかけたが、よく考えればなんということはない。
Gの担当局員はアントニーであり、二人は2002年からの長い付き合いなのだ。
「恐らくはギークも彼と一緒にいるだろう。君たちも知っての通り、我々のチームは基本、ボーダー同士の接触がないように心がけている」
それは一人のボーダーが敵に捕らえられた時、ほかのボーダーの情報が敵に渡らないように。
また、ボーダー イコール賞金稼ぎという今のシステム上、ボーダー同士は商売敵であり、万が一ライバルを敵に売るような者が出ないようにという配慮でもある。
「ただし、すべてのボーダーには、意図的にプロフェッサーの情報を流しているし、プロフェッサーにも他のボーダーにそれとなく接触するよう頼んでいる。このNYで彼を知らないボーダーはいないからな」
そうすることで、ボーダーに危機的状況が訪れた時、プロフェッサーの元に助けを求めるようなるという算段なのだと、陰鬱な表情のままアントニーは言った。
「なにしろ、現状では我々は下手に動くことは出来ないからね。
この人数なら、見張りを倒し逃げ出すことは可能だろうが、それではゲルトの思うツボだ。
仮に形勢が逆転しゲルトを逮捕したとしても、その後の裁判で、我々に着せられた国家反逆罪という汚名を裏付けてしまう可能性がある。つまり、我々はここで監禁されていなくてはならん」
我々には“アリバイ“が必要なのだと、好々爺然とした穏やかな口調で、FBIニューヨーク支局長 ソロモン・クラークは言った。
「現状をひっくり返すには、連続殺人犯の逮捕が絶対条件。従って我々が動くのは、プロフェッサーとギークが真犯人を捕らえ、ここに乗り込んできてからだな」
悔しいがクラーク支局長の言う通りだった。そしてゲルトの目論見にハマり取ってしまった自分の軽率な行為が、この事態を招いてしまったことを、ギークことコンラッド・マイヤーの幼馴染みにして、ゾイド犯罪対策チームの若きエース、セシリア・ローズは深く後悔していた。
「なに、プロフェッサーとギークなら必ずや真犯人を捕らえて、ここに乗り込んでくるだろう。その時は遠慮はいらん、大いに暴れてやろうじゃないか」
あっけらかんとクラークは笑った。恐らくセシリアへの気遣いなのだろう。
「どうせ、ゲルトの兵隊どもは我々の仲間でも何でもないのだ。FBIを敵に回す恐ろしさを存分に教えてやるといい」
クラーク支局長の目は針のように細くなる。その声には仲間たちですら寒気がするほどの迫力があった。一見穏やかな好々爺。しかし、FBI本部でも一目置かれる伝説の男の一端を、その場の全員が垣間見た気がした。
「……って、あれ? 彼らFBIの特殊班じゃないんですか?」
疑問を口にしたのは、またもセシリアの後輩 ジェリー・デッカーだった。
「おいおい、気づいていなかったのか」と、クラーク支局長が呆れたように言う。
「奴らの戦闘服、よく似せてはいるが偽物だったろう。それに、奴らの行動はFBIで教える動きとはまるで違ったじゃないか」
突然の“襲撃“に驚き、てっきりFBIの特殊班だと思い込んでいたが、言われてみればその通りだった。自分たちがすっかり冷静さを失っていたことに気づき、局員たちはバツの悪そうな顔で俯いてしまった。
同時刻、壁と言わず床と言わず、辺り一面がペンキで真っ白になったリビングの中央には、Gの開発した捕縛用の特殊ロープで拘束された真っ白な少年がジタバタともがいていた。
「くそっ! なんで!」
「ペンキなんか掛けるだ!? って?」
マスクの上からでも分かるほどの勝ち誇ったニヤケ面で、ギークは少年を覗き込む。
数分前、音も立てずに忍び込んだジャックを襲ったのは、大量のペンキだった。いかに“透明人間“といえども、実体を無くしているわけではない。
ただ“見えないだけ“なのだ。見えないなら見えるようにしてしまえばいい。
そこで、ギークは家の物置を漁って見つけたペンキを、ドアから部屋の中に侵入してきたジャックに向けて思いっきりぶっ掛けた。
そうして、姿さえ見えてしまえば、いかに格闘術やナイフの扱いを叩き込まれたとはいえ、痩せっぽっちの少年が海千山千のボーダー二人を相手に勝てる道理などない。
「まぁ、透明人間対策としては初歩の初歩。恥ずかしいくらい使い古された手だよね」
「そうじゃない! どうやってオイラの“能力“を見破ったんだ!」
「ハッハー! それは、オレッチの手柄じゃなくて、こっちの旦那の謎人脈のおかげ。
プロフェッサーGが信頼する“腕利きの情報屋“が、FBIニューヨーク支局のゲルトと君のボスの会話を“聞いて“オレッチたちに教えてくれたのさ。これからこの家に透明人間が来るぞーってね」
「少年、名前は?」
話に割り込むように、プロフェッサーGがジャックに話しかけた。
「俺はジャック・ザ・リッパー! ファイヤークラッカーのアサシンだ!」
「そうじゃない。本名だ」
「ジャック・ザ・リッパー以外の名前なんかない!」
「……では、両親は?」
「俺に親なんかいない!」
「年は? いくつだ?」
「そんなのは知らない!」
ジャックの話ぶりから、Gは彼が孤児なのだろうと悟った。そして「こんな子供に……」と怒りを咬み殺すようにひとりごちる。
それは、ギークも同じ気持ちだった。ジャックはどう見ても十五・六歳にしか見えない。下手をするともっと下かもしれない。
そんな子供に人殺しをさせるファイヤークラッカー、いや、BHに強い憤りと嫌悪感を覚えずにはいられなかった。それを知りながら利用したゲルトにも。
「よっしゃ、それじゃぁプロフェッサー、反撃といこうか!」
鬱々とした怒りを吹き飛ばすように、ギークはプロフェッサーの背中を叩いた。
深夜、ウェスト36番通りに面したFBIニューヨーク支局の前は、武装し特殊部隊の制服を着た男たちによって固められていた。
一見FBIのテロ対策部隊の制服に見えるが、彼らはゲルトが金で雇った私兵である。全員が退役後に身を持ち崩し、ギャングの用心棒やチンピラとなった退役軍人たちだ。
二十四時間、眠ることのない不夜城ニューヨークだが、さすがに平日の深夜三時をまわると人通りは少ない、さらにゲルトの指示で別働隊が道路点検と称して通りを封鎖していたため、今夜、支局近くに人影はない。
やることもなく、眠気に襲われビルの前で大あくびをしていた兵士たちが、微かに聞こえる甲高い音に気づく。
まるでジェット機のような音は徐々に大きくなり、支局ビルに近づいているように聞こえた。
その場にいた兵士たちは空を見上げたが、こんな深夜に飛行機が飛んでいるわけもなく、彼が首をかしげて通りの曲がり角に目をやったその時だった。
道路警備員に扮した仲間が、何かに跳ね飛ばされたように宙に舞うのが目に入り、ほぼ同時に通りの角から現れた“影“が、とんでもないスピードで向かってくる。
彼らは反射的にアサルトライフルを発射したが、地面すれすれを滑るように進むダークブラウンの影は銃弾を跳ね返しながら、まるで竜巻のように彼ら全員を吹き飛ばしてしまった。
地面や建物の壁に強く打ち付けられたゲルトの私兵たちが唸り声を上げる中、FBIニューヨーク支局の入口に、ダークブラウンの影が立ち上がる。
ロビーの明かりを反射し光沢を放つスーツ、ヘルメットには2本の触覚のような高感度センサー。その背中には、一見羽のようにも見えるジェットの噴射口が甲高い音で唸っていた。
どう見ても“あの昆虫“にソックリなシルエットのスーツに身を包んでいたのは、長きに渡ってNYを守り続けるベテランボーダー プロフェッサーGである。
異変に気づき一階フロアに降りてきたゲルトの私兵たちは、彼を発見し一斉にマシンガンを発射。しかし、その弾丸はジェット燃料とともにGが発明した、軽量ながら超硬合金なみの硬度をもつプロテクトスーツに跳ね返されてしまう。
「そんな豆鉄砲で、この私が倒せるとでも思うのか……。
ナメるのも大概にしろ!」
地の底から響くようなGの怒声は、ただのチンピラならそれだけで戦意を失うほどの迫力だったが、そこは戦闘訓練を詰んだ元兵士。リーダーの指令に合わせフォーメーションを組んで、プロフェッサーを取り囲む。
「そうか、あくまで抵抗するというなら致し方ない。」
そう言うと、Gは前傾姿勢をとる。すると、その肩口と脇腹のプロテクターが開き、中から小型のジェット噴射口が現れる。背中の噴射口は推進用、肩口と脇腹の噴射口は進路を変える時に使われる。車で言えばアクセルとハンドルの役目だ。
それぞれの噴射口はヘルメットに仕込まれた小型コンピューターによって、プロフェッサーの脳波とリンクするよう制御されており、触覚のようなセンサーによって衛星と繋がり、彼が必要とする情報が常時送られてくる仕組みになっているのだ。
プロフェッサーGの怒りに呼応するかのように、徐々に大きくなっていく背中と肩口、脇腹の噴射口の甲高い唸り。
「今夜の私は少々虫の居所が悪い。授業料は高くつくぞ」
よく響く低い声で言うと、前傾姿勢のままGは周囲の兵士を睨みつけた。
階下から聞こえる怒声と銃声、そして壁や天井に“何か“が激突する音は、会議室に監禁されていた局員たちの耳にも届いていた。
「相変わらず派手な登場だな」
アントニーが眉根を寄せながら呟く。
「ハッハー! まったくアレじゃぁどっちが悪役か分からないよね!
まぁ、年寄りは安眠の邪魔をされるのが何より嫌いだからねー。プロフェッサーはすっかりおかんむりなのさ」
無駄に明るい声に、その場にいる全員の視線が集中する。
そこには、アントニーの肩に馴れ馴れしく手を回す白黒のスーツを着た男がいた。
「コっ……ギーク! 無事だったのね!」
セシリアが安堵にも似た声を上げる。
「やぁ、セシル。君こそ大丈夫だった? ゲルトの奴に非道い事されてなかったかい? ドウジンシみたいに」
まるで何事もなかったようないつも通りの軽い声に、セシリアは安堵する。
もっとも『ドウジンシみたいに』の意味が分かっていたら、強烈なハイキックをお見舞いしていただろうが。
「二人揃って登場ということは、連続殺人の真犯人を捕らえたということだな?」
馴れ馴れしく肩に置かれた白黒男の腕を払うと、アントニーが尋ねる。
「ああ、透明人間の坊やなら、縛り上げてプロフェッサーの家の地下室に放り込んである。こっちが片付いたら回収に行ってよ」
「「「透明人間?」」」
思いもよらないワードに、その場にいた全員が目を丸くした。
「なるほど、透明人間なら誰にも見つからずに暗殺が可能というわけか」
一人納得するクラーク支局長を除いては。
と、その時だ。会議室の扉が乱暴に開かれ、数名の兵士が現れた。
テロ対策部隊の偽制服に身を包んだゲルトの私兵たち。アサルトライフルで武装した彼らは、扉の前で見張りをしていた連中か、それとも階下のGから逃れてきたのか。対して、FBI局員たちは全員丸腰である。
「おっと、声がうるさかった? メンゴメンゴー。
ところでオレッチたちこれからレッツパーリーなんだけど、良かったら一緒にどう?」
軽口を叩きながら近づくギークに、偽FBIたちの銃口が向けられる。むろんギークのテレポート能力なら、銃弾を避けるのは容易いが、その後ろには局員たちがいる。
「おやおや、サバイバルゲームがお望みかい? だったらオレッチも自慢のマグナムで応戦しちゃうぜ」
そう言って、ギークは両腕を前に突き出す。しかしその手には何も握られておらず、指で銃の形を作っているだけだ。
「コっ……ギーク! 何ふざけてるの!」
私兵たちは追い詰められていて、ギークのおふざけに付き合う余裕などあるわけもない。今にもトリガーを引きそうな勢いだ。
「いいから見てなってセシル。こう見えても『男たちの挽歌』で銃の撃ち方は予習済みさ。オレッチの華麗な“ガンフー“を見せてやるよ」
そう言って、ギークは息を吸い込むと、
「BANG! BANG! BANG! BANG! BANG! BANG!」
と口で叫びながら、横構えの指鉄砲で目の前の男たちを撃つ真似をする。
すると、ギークの声に合わせるように指先を向けられた男たちは次々と吹き飛んでいくではないか。
呆然と眺める局員たちを背に、ギークは銃口から立ち上る煙を吹くガンマンの真似をして(むろん人差し指から煙が出るわけもない)から、後ろを振り向く。
「オレッチの指から弾丸が出てると思った? ザンネーーン。実はこの手首につけたブレスレットから、超高圧 圧縮空気を発射したのでしたー!」
ジャジャーン! と言いながら、手を挙げて見せる白黒男の両手首には、時計のようなモノが手のひら側に向けて巻きつけてあった。
「殺傷能力はないし射程距離も短いけど、頭に当たれば気を失うくらいの威力はあるオレッチの“最新兵器“さ」
自分の発明品を自慢するギークの後ろ、ドアの向こうを数人の人間が吹っ飛んでいく。そして、ゆっくりとプロフェッサーGが姿を見せた。
「全員無事だな。残るはゲルトだけか」
その時だった。ビル上から、けたたましいプロペラ音が会議室に聞こえた。
「……どうして、悪党ってのは最後にヘリで逃げたがるんだろうね」
そう言って、肩を竦めたギークの姿が消えた。いや、テレポートしたのだった。
To be continued
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